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悪女の悪あがき ~九条ロゼリアはデッドエンドを回避したい~  作者: 杏仁堂ふーこ
本編

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64.酒と本音②

 メロはずかずかと無遠慮に部屋に入ってきて、ジェイルにずいっと顔を近づける。

 勢いにちょっとだけジェイルが怯んでいた。


「は、花嵜……」

「おまえだめだよ。お嬢のことわかってない」

「なっ……!?」

「いーから、おまえは退場退場。これ以上お嬢と話をしてても余計に拗れるっての」


 メロはジェイルの肩を掴んで押しのけ、あたしから遠ざけた。

 ジェイルとの無駄な問答が終わるのはありがたいけど、メロとユウリがいるのが憂鬱。こいつらもどうせ伯父様に言われてきたんでしょうし……同じ問答をする気なんてないのよ。

 ジェイルが離れてくれたのを見て、あたしは空になったグラスに残った酒をなみなみと注いだ。溢れない程度に注いだ酒に口をつけ、グラスの三分の一ほどを飲んでしまう。


「……ロゼリア様、二日酔いになってしまいますよ」

「いいのよ、別に」


 ユウリが傍に寄ってきて心配そうな顔をする。

 チョコを口に放り込み、更に酒を一口飲んで、口の中で溶かした。このチョコと酒が結構合う……。

 見れば、メロが抵抗するジェイルを無理やり部屋から追い出して、バタンと扉を閉めていた。


「ったく。なんなんだよ、あいつ。でかい顔して……」

「あんたたちこそ何なのよ。勝手に入ってきて」

「会長にお嬢が嫌がる理由聞いてこいって言われたんスよ」

「でも、期待はしないでくださいって言ってきたので安心してください」


 メロのセリフで「やっぱりね」って思って、ユウリのセリフを聞いて「はあ?」ってなっちゃった。グラスを落としそうだったので一旦テーブルに置いて二人の顔を見比べる。

 メロもユウリも訳知り顔であたしのことを見ていた。


「……何よ」

「あ、会長には聞いてこいって言われたけど、別に無理に聞こうとか思ってないんで……っていうか、お嬢は話す気なんてサラサラないでしょ?」

「さっきのジェイルとの話、聞いてたの?」

「いや、全然聞いてないっスよ。な、ユウリ」

「あ、はい。聞いてはないです。……ただ内容の予想はできただけで」


 二人がやけに得意げというか、こうなることがわかっていたと言わんばかりの態度なのが気になる。

 以前までならあたしが機嫌悪かったりすると絶対近寄ってこなかったのに今日に限って近付いてくるのは何? ジェイルがあたしに理由を聞いたり説得するために近付くのはわかるけど、メロとユウリがわざわざ来るのは本当に謎だわ。

 関わりたくないって思ってもおかしくないのに。

 グラスに口をつけながら、まじまじと二人を見つめる。


「……何なのよ、本当に」


 グラスの中身を飲み干してからテーブルに置く。

 あたしの言葉にメロがへらへらと笑った。


「お嬢は今回のこと……本当に嫌なんスよね?」

「見ればわかるでしょ」

「でも理由は言いたくないんでしょ?」

「そうよ」


 あたしの不機嫌さと裏腹なメロの態度に苛立つ。

 不機嫌なところにこんなヘラヘラした態度で接せられれば誰だって苛立つし、不機嫌さがアップするわよ。本当に何なのよ、こいつは……。ユウリはちょっと不安そうにメロとあたしを見比べていて、あたしの不機嫌さが増していることに気付いているみたい。

 メロがテーブルに手をついてあたしに顔を近付けてきた。

 間近で見つめられて落ち着かないというか、なんだか見透かされている気分だわ。

 メロが目を細めて楽しそうに笑い、あたしだけに聞かせるみたいに囁いた。


「──お嬢の嫌がり方、小さい頃みたいで可愛いなって思ったんスよ」


 瞬間。

 あたしは衝動的にメロの頬を思いっきり引っ叩いていた。

 パァン、と乾いた音が室内に響いて、自分がメロを叩いた事実に遅れて気付く。


 じんわりと、手が痛みと熱を持つ。

 すっと酔いが醒める気がした。

 やってしまった。

 こんな風に叩いてるんじゃ以前と同じ──……。


 咄嗟に謝るということがどうしてもできなくて、あたしは叩いた手を握りしめてメロから顔を背けてしまった。

 最悪だわ……。


「……っつぅ。なんだ、やっぱり我慢してただけか。そりゃそーだよなー……あー、お嬢のビンタ久々に喰らった……」


 あたしの気持ちとはまた裏腹にメロは頬を押さえてぶつぶつと呟いている。ユウリがそれを見て呆れ顔をしていた。

 反応が想像と違っていて、なんというかちぐはぐで、ちょっと不気味。

 そう言う気持ちが漏れていたのか、ユウリがあたしを見て口を開いた。


「ロゼリア様、今のはメロの自業自得なので気になさらないでください」

「自業自得っつーか、流石にキレるだろうなって思ったっつーか……」


 メロも頬を押さえたままユウリの言葉に頷いている。

 いや、本当に何? 怖。なんでそんな風に「叩かれて当然だった」みたいな態度なの?


「……何なの? あんたたち。何がしたいの?」


 あたしはメロを叩いた右手を左手で握りしめ、顔を背けたまま聞く。二人の顔を真っ直ぐ見ていられなくて視線を向けたり外したりを繰り返してしまった。……完全に挙動不審だわ。

 メロが頬から手を離して、あたしの前にしゃがみこんだ。

 まるで小さい子供にそうするみたいに、下からあたしを覗き込んでくる。


「最近さ、みんなお嬢が変わったって言うじゃないっスか。確かに変わったと思うし、言い方を変えれば優しくなった? って思うんスけど、おれたちはあんまりそうは思わないんスよね。

変わったのは表面上だけ。根っこの部分は変わってなくて、ただ我慢してるだけなんじゃないかって……。ユウリとキキもそう思ってる」


 何も答えられないまま、メロの言葉を聞いた。

 なんでこんなことを急に言い出すのかしら。けど、あたしは自分が変わったかどうかなんてわからない。変わりたいとは思ったけど、メロの言う通り根っこの部分は変えられてないと思う。だから、いつボロが出るかヒヤヒヤしていた。実際、今日ボロが出たんだけど……。


「でさ、そういうところが小さい頃みたいだなって気付いたんスよ」

「馬鹿にしてるの?」


 腹の底で煮立つ苛々を隠せずに低い声が出てしまった。

 何もかもマイナスな受け取り方しかできなくて、自分自身にも苛々する。大体、小さい頃って……。そんなのもう思い出せないわよ。

 あたしの言葉にメロもユウリもきょとんとして顔を見合わせて、もう一度あたしを見る。


「ちがうっスよ。……今のお嬢になら尽くせそうって思っただけっス」

「あんた何言ってんの」

「白木アリサ? だっけ? あの女が気に入らないんスよね。おれもちょっと引っ掛かるところがあるんで、おれがあいつのこと調べて、行動を監視してあげる」


 酔いは別に醒めてない、んだけど、醒めたような気分だった。

 メロがこんなことを言い出すなんて何事? っていうか「あの女」呼ばわり……?

 アリサっていうかアリスに対しての攻略対象の印象って当たり前のようによくて、ストーリーが進むにつれて「初対面の頃から気になってた」みたいなセリフが入るのに、どういうことなのよ。

 思わずメロの顔をまじまじと見つめてしまった。メロが楽しそうに笑う。


「……どういうつもり?」

「いや、だってジェイルは今までみたいに動かせないっスよね? お嬢が今使える人間っておれかユウリしかいなくない? あとキキ。だからおれが動く、ってだけっスよ」

「……あんたにメリットある? それ」

「え? あるっスよ。お嬢、おれのこと見直すでしょ?」


 ……。……見直す?

 ぽかんとしたままメロと見つめ合ってしまった。何故かメロは「名案でしょ」と言いたげに笑っている。


 メロの意図がわからない。

 こいつ、あたしのことが嫌いなんじゃないの? なんで見直すとかそういう話が出てくるの? 逆じゃない?

 解説を求めるみたいにユウリを見るとユウリは困った顔をして笑った。


「ロゼリア様。僕もメロも、そしてキキも今の環境を気に入っています。……『以前のような状況』が続いていたのであれば、こんな気持ちは芽生えなかったと思いますが……この環境を守るために何かしたいってだけなんです。

この環境を作っているのはロゼリア様なのでロゼリア様が嫌だと思うことはなんとかしたいんです」


 ユウリの話を聞いて、更に呆然としてしまった。

 ──今の環境を気に入ってる、なんて。本気かしら。前より多少マシになったくらいにしか思ってなかったけど、あたしはあたし自身を考えてる以上に変えられた、ってこと? 全然足りてないとばかり思ってた。

 メロとユウリ、二人の顔を交互に眺める。


「……本気?」

「もちろんっスよ」

「はい、本気です」

「嫌だと思う理由は言わないし、言う気もないわよ?」

「理由は言いたくないパターンだってわかってるんで大丈夫っス」

「そこ含めて昔を思い出したので、メロと同じく大丈夫です」


 また昔の話? 全然心当たりがないから昔の話なんてされても困るのよね。

 ジェイルの言う「裏切るなんて絶対ありえない」よりも、二人の「大丈夫」の方が何となく信じられる気がするのは付き合いが長いからなのか、この二人が案外あたしに好意的になったからなのか……。

 わからない。

 けど、苛々が大分消えた。


「だから、おれがちゃんと仕事したらおれのお願いいっこ聞いて欲しいっス」

「は?」


 しみじみしているところにメロの能天気な声が刺さる。ユウリがメロの隣でぎょっとしていた。

 なんかさっきから驚かされてばっかりだわ。

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