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悪女の悪あがき ~九条ロゼリアはデッドエンドを回避したい~  作者: 杏仁堂ふーこ
本編

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62.オフレコ ~残された人たち~

 食堂を後にしたロゼリアを呆然と見送った一同だが、バタンと扉が閉まった音を合図にジェイルが慌てて立ち上がった。


「お嬢様……!」

「ジェイル、座れ」

「ですが!」

「頭を冷やすっつってたんだ。ちょっと放っておけ」


 追いかけようとしたところを制され、ジェイルは渋々といった様子で座り直した。その様子をメロとユウリがじっと見つめる。

 ガロの隣に座っているハルヒトが小さくため息をついて、用意されたコーヒーに視線を落とした。


「……そんなにオレのこと、気に入らなかったんですかね」


 ぽつりと、何とも言えない様子で呟くハルヒト。それを横目で見たガロががしがしと頭をかいた。


「すまない、ハルヒト。不愉快な思いをさせた」

「あ、いえ、お気になさらないでください。いきなりのことで彼女も混乱した、と受け取っておきます。あはは、こんなこともあるんですね」


 申し訳なさそうなガロとは対照的にハルヒトは飄々と笑う。

 事前にロゼリアに話を通してはいたし、詳細は伏せていたものの内諾は取っていた認識なので、まさかここであんな癇癪を起すとは思わなかった。しかもその理由が一切わからない。言いたくないのか、単純に話せない内容なのか、それすらも外からでは判断ができなかった。


 ロゼリアが変わった、という話はあちこちから聞いている。

 ガロ自身もそれには気付いていて、例えば携帯に着信を鬼のように残したり、傍でピィピィ喚いて欲しいものをねだったり、ガロが離れることを極度に嫌がったり──ガロにとってはどれもこれも可愛い姪っ子の駄々でしかなかったのだが、それがピタリとなくなった。

 原因は全く分からない。

 ジェイルに聞いてみても、メロやユウリ、キキに聞いてみても一様に首を振るだけだった。


 ガロはやれやれと溜息をついてからコーヒーを飲む。おかわりを貰いながら、ジェイルたちの顔を今一度順に眺める。

 そして、ロゼリアがいた席のそばに立ったままのアリサを見て目を細めた。


「アリサ、戻ってくれ」

「あっ。は、はい……出すぎた真似をしてしまい、申し訳ございません……」

「いや、いい。お前にも嫌な思いをさせちまったな」

「とんでもございません」


 アリサはぶんぶんと首を振ってから足早に式見の隣へと戻った。式見がアリサをちらりと見たが、特に何も言わない。

 微妙な雰囲気が漂う。

 ハルヒトを預かること、アリサを雇うことは決定事項で覆ることはない。特に前者は今更なんともできなかった。アリサのことはロゼリアがどうしても気に入らないとあれば変えることもできるが、流石に働いてもないのに変えるなんてことはしたくない。せめて、アリサ自身が言っていたように1ヶ月は様子を見たいところだった。

 ガロが渋い顔をしていると、メロが何か言いたげな顔をしているのに気付く。


「メロ、どうした?」

「会長。ハルヒトく、さんが、八雲会の跡取りっていうのはわかったんスけど……そっちのアリサって子はどこから来たんスか?」

「知り合いからの紹介だ」

「……ふーん」


 メロはアリサのことをまじまじと見つめる。アリサはメロの無遠慮な視線を気にした様子もなく、静かに立っていた。居心地悪そうな様子を見せるわけでもなく、ただ静かに、真っ直ぐ。

 メイドや使用人の紹介など珍しいことではない。

 ロゼリア付きのメイドともなれば、これまでの悪評のお陰でなかなか決まらなかったので、こうやって紹介があっただけでもありがたい。かと言って、ロゼリア付きということを隠して人を探すわけにもいかなかった。

 メロが発言したことで、ハルヒトの視線がメロに向く。興味深そうに笑った。


「ねぇ、君。名前は?」

「え? おれ? 花嵜メロっス」

「彼女とは長いの?」

「ちっさい頃から一緒なんで……長いっちゃ長いっスね」

「そうなんだ。彼女、最近性格が変わったって噂を聞くんだけど、本当?」

「……まぁ、そっスね」


 ハルヒトはロゼリアの変化に興味津々といった様子だ。それをアリサもじっと聞いていた。

 これから同じ屋敷で暮らすのだから相手、もとい屋敷の主がどんな人間なのか気になるのは当然だろう。なんせロゼリアを取り巻く噂は本当に良くないものが多い。良い噂など皆無だと思う。

 けれど、「変わった」という噂が少しずつ流れているのだ。


 普段のメロならロゼリアの噂やら評判について嬉々として話す上に、一緒になって悪口を言ってもおかしくない方なのに、今は少し歯切れが悪い。

 けれど、そんなメロの様子に気付いてかそうでないのか、ハルヒトは更に楽しそうに話を続けた。


「最近、これまでなら見向きもしないようなタイプの男と付き合ってるって話を聞いたんだけど、本当?」

「……おう、メロ。俺もその話には興味がある。どうなんだ?」

「は? 会長も? 気にしてるんスか?」


 南地区の湊ユキヤがロゼリアに急接近してきたという話はガロの耳にも届いていた。これまでロゼリアの男関係を放置してきたのは、そんなことを伯父である自分に突っ込まれたら絶対に良い気はしないだろうという配慮からだった。あとはどうせ遊びだろうからすぐに飽きるとも。たまに「ほどほどにしとけよ」と言うくらいだった。

 だがしかし、今回聞こえてきた噂はそうではない。

 まさか、ロゼリアが変わった理由に男の影が──? と勘ぐってしまう程度には違和感があった。

 メロが眉間に皺を寄せつつ、ガロとハルヒトの顔を交互に見る。


「……いや、付き合ってはないっスよ。ちょっと言い寄られてる、っていうか……?」

「そ、そうか」

「ふーん? ねぇメロ。ひょっとして、彼女がオレのことを嫌がったのって、言い寄ってきた相手のこともあるから? 気になる男がいるのに、他の男を屋敷に住まわせるの嫌、みたいな」

「や、それはないんじゃないっスかね」

「そうなんだ。なおさら不思議だ。……なんかちょっと真に迫った感じがあったから」


 そう言ってハルヒトは口を閉ざしてしまった。メロもそれ以上は自分で何か言う気はないらしい。

 ロゼリアが嫌がった理由はわからないままだ。

 とは言え、ガロにはロゼリアから詳しく話を聞く時間は取れない。あの調子だと簡単には口を割らないだろうし、根気よく話を聞くにしてもそのための時間が圧倒的に足らなかった。


「……ガロ様」


 ジェイルの控えめな呼びかけを受け、視線を向ける。

 なんだと言う代わりに目を細めてみれば、ジェイルはそのまま話しだした。


「ロゼリア様には自分が話を聞いてみます。この後にでも」

「おう、そうか。悪いが頼むぞ」

「はい、承知しました」


 ジェイルはロゼリアから理由を聞き出す自信があるように見える。

 だが、そんなジェイルを見るメロとユウリの目には疑心が見え隠れしていた。

 ジェイルを疑いたくはないが、手数は多いほうがいいと判断し、小さくため息をついた。


「メロ、ユウリ」

「はいっス」

「はい」

「お前らからも聞けそうなら聞いてみてくれ」


 そう言うと二人揃って渋い顔をした。ジェイルとは正反対である。


「いやァ……どうっスかね。聞いてみるっスけど、あんま期待しないで欲しいっつうか……」

「僕もちょっと自信がないです。……これまでのロゼリア様とは違う感じなので……」

「……そうか。まぁ、聞くだけ聞いてみてくれ」


 付き合いが長いから故なのか、二人の反応は芳しくない。ジェイルとの差に内心驚きながらもその理由を問おうとは思わなかった。

 いずれ、時間をきちんと取らなければいけない。そんなことを考えつつ、ふうと息をついた。


「変な感じになっちまって悪いな。ハルヒト、今日はこっちに部屋を用意してるからゆっくり休んでくれ。色々と気疲れしただろう」

「いえ、ようやく退院もできてホッとしているくらいです」

「アリサは……明日から椿邸だな」

「はい、今日はご挨拶のみです」

「わかった。明日からよろしく頼む」


 すんなり終わるはずだった話も、楽しく解散できるはずだった食事も後味が悪くなってしまった。

 一体何がロゼリアの癪に障ったのか、考えてもわからない。

 微妙な雰囲気で解散となってしまった。

読んでくださってありがとうございます。

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