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61.不可避の運命?③

 アリサは躊躇うような間を置いてから、テーブルに置いたあたしの手にそっと触れた。

 びくっと震えてしまって、咄嗟に手を引き、アリサから距離を取る。


「……わたしのような得体のしれない者が、ロゼリアさま付きのメイドだなんて……ご不安に思うのは最もだと思います。ですが、精一杯努めさせていただきます。せめて、せめて1ヶ月だけ……見てていただけませんか?

わたしの働きぶりなどが気に入らないようでしたら仰って下さい。すぐに出ていきます」


 真剣な表情と声。

 ゲームもこういう感じだった。

 ロゼリアに気に入られないと1ヶ月後にクビになるっていう……けど、実際はロゼリアに対する好感度なんてなかったし、今みたいにロゼリア付きのメイドでもなかったから、特別目をつけられることもなく、ゲームは進んでいった。1ヶ月っていうのはユーザーに対するルート分岐の暗示みたいなもの。


 ゲーム通りに行くなら、アリサはこのまま椿邸に居続けてしまう。

 そうなれば、ゲームのストーリー通りに展開がされちゃうんじゃない?

 今ももうストーリーの中にいて、もう何をしても無駄かもしれない──……。


 そう思ったら彼女が怖くなってきた。

 この子はあたしにとって死神。

 近付いて欲しくない。


 あたしは苛立ちとともにアリサから顔を背けて、邪魔な椅子を蹴倒すように歩き出した。

 がた、と誰かが立ち上がる。


「ロゼ!! どこに行く!!」

「椿邸に戻るだけよ! ──もういい、もう話はわかったわ。……伯父様、頭を冷やさせて」


 伯父様の焦った声を背に受けた。振り向かずに吐き捨て、そのままずんずんと大股で食堂を出ていく。

 あたしが出ていくのを誰も止めなかったし、伯父様がそれ以上声をかけてくることもなかった。



◇ ◇ ◇



 誰も追ってこない。

 いや、追ってこられても困る。

 あたしは足早に本宅を後にして、椿邸へと向かった。


 敷地内には警備の人間と番犬がいるけどあたしに近付いてくることはない。外灯も設置されているから夜道に困ることはなかった。

 どこからか虫の声が聞こえてくる。

 もうすっかり夜で、憎らしいくらいに夜空が綺麗。

 苛立ちを発散するみたいに地面を蹴るけど、気持ちは一向に落ち着かなかった。


 結局、あれこれと行動を変えてみてもゲームのストーリーに行き着くってことなの?

 攻略対象たちとの関係性も変わったはずなのに、それはあたしが勝手に思ってるだけで本質は変わってないんじゃないってこと? ヒロインである白雪アリスの存在で簡単に引っ繰り返っちゃうような──……。

 アリスは、あたしのことを調査しにきたはずなのよ。

 『九条ロゼリアは悪い人間で、このまま放っておいてはいけない』という情報を『陰陽』に報告するためにいる。その証拠は探せばいくらでも出てくるから、今から悪あがきしたってどうにもならない。


 ──なんか、どうでもよくなってきちゃった……。


 歩く速度は徐々に落ちて行って、椿邸に辿り着く頃にはのろのろとした歩みになっていた。

 無駄に豪華で重い扉を開けて中に入ると、たまたまそこにいたらしいメイドが驚いた顔をする。


「ロ、ロゼリア様!? ど、どうかなさ」

「何でもないわ。ほっといてくれる? ……今、機嫌が悪いの。近寄らない方がいいわよ」

「うっ……も、申し訳、ございません」


 メイドはしょぼんとした顔であたしからそっと距離を取った。以前のあたしみたいな気配を感じ取ったみたい。

 そのまま屋敷の中に入り、自室ではなく、厨房へと向かう。

 この時間ならもう厨房には誰もいないんじゃないかしら。

 薄暗い厨房へ入り、手探りで電気をつける。ぱ、と明かりがついたけど、何がどこにあるかわからない。でも目的のものはすぐに見つかった。

 ワインセラー。中にはワインだけじゃなくて、日本酒みたいなものも入っている。色々入れられる優れものみたい。

 あたしは目についたお酒を2本手に取り、扉を閉めた。


「おおおおおお嬢様?!」


 厨房の出入り口で驚いた顔をしているのは水田。

 驚くのも当然よね。


「お酒、2本貰っていくわ」

「えっ。あ、はい。おつまみをお作りしましょうか?」

「結構よ。機嫌悪いの、ほっといてくれる?」

「は、……では、こちらのグラスをどうぞ。あとこれも」


 酒瓶2本しか持ってないあたしを見た水田がささっとワイングラスと栓抜きを持ってきた。

 あたしは無言でそれを受け取り、水田の横をすり抜ける。

 態度が悪いのは理解していても口を開くととんでもないことを口走りそうだったから、ぐっと奥歯を噛み締めて何も言わないようにした。

 そのまま散漫な足取りで自室に戻った。


 自室に入り、ふらふらと窓際のテーブルに酒2本とグラスを置き、乱暴にワインボトルのコルクに栓抜きを刺す。乱暴にぐりぐりとこじ開けるけど上手く開かなくて苛々が増した。

 何とかコルクを引っこ抜いてグラスに赤ワインをなみなみと注いだ。

 そしてそのまま一気に呷る。


「……っは、……あーあ。飲まなきゃやってらんないわよ」


 どっぷどっぷと更にワインを注ぎ、もう一度一気に飲み干した。

 こんな飲み方してたら急性アルコール中毒にでもなったりするのかしら。でももうさっさと酔いたいのよ。


 ……このままゲームのストーリーに沿って殺されるくらいならここで酒に溺れて死んだ方がマシに思える。自暴自棄になってるのは認めるけど頭の中がぐちゃぐちゃでどうにもならない。

 ああ、お酒だけだとつまらないわね。メロに買ってきてもらったお菓子がまだあるし、スナック菓子と一緒に飲もう。そう思って、フラフラと立ち上がり、お菓子を入れておいた棚から適当に持ってきてテーブルの上に広げた。


 お菓子を食べつつワインを飲んで……傍から見たらただの飲んだくれ。

 別に誰も見てないし、今後どうしたらいいのかもわからないし、現実逃避したい。

 ここからどうにか頑張ろうって気持ちになれない。もう全部諦めてしまいたい。


 あ、泣きそう。

 泣きたい気持ちと一緒にワインを飲んだ。

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