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06.秘密の話

 そしてなんかちょっと怪しい雰囲気のカフェ、いや、茶屋? に付いた。あたしの希望通りの個室。

 あたしはジェイルとメロだけに中に入るように言い、ジェイルの部下は車もしくは個室の近くで待機してもらうことになった。

 奥まった個室の中で注文が届いたところでメロが首を傾げる。


「で、お嬢。話ってなんスか?」

「花嵜、お嬢様がお話しされるまで待てないのか」

「だァってしょうがねーじゃん」


 気になるんだもん。と、メロが子供みたいな言い方をしていた。

 あたしは注文したジャスミンティーを飲んでから、二人へとそれぞれ視線を向ける。


「……まず、あたしが今から話すことはここだけの話にしておいて欲しいの」

「はい、承知しました」


 ジェイルはすぐさま頷く。メロは微妙な顔をしてコーヒーを飲んでいた。


 多分、というか、ほぼ確実に。

 ジェイルにとってはあたしが色々話そうとしているのは歓迎すべきことなんだと思う。伯父様に言われてあたしのサポート(?)をするように言われていたけど、あたしがジェイルの存在を嫌がったせいもあってこれまでジェイルを関わらせて来なかったから。


 逆にメロは面倒ごとは嫌いだし、あたしの目を盗んで好き勝手にしていたから余計な話は聞きたくないんでしょうね。これまで通りあたしの知らないところでコソコソと悪いことができなくなるから。

 けど、これまで通り好き勝手させないためにも釘を刺したいのよ。

 そう思ってあたしはメロを見つめた。


「メロ、返事」

「……はーい……」


 返事が渋々過ぎる……。本当に不安……。

 攻略してる時も思ったけどメロって適当に生きすぎ。事なかれ主義っていうか、自分の意志が希薄なのよね。

 そんなメロがアリスと出会って、自らの意志で「この現状から抜け出したい」「アリスと生きたい」って思うようになるのにはグッときたし、アリスに対して真剣さを見せるシーンもそりゃあ良かったわ。


 けど、こうやって目の前で適当さや緩さを見せられると本当に不安しかない……。

 あたしは思わずため息をついてしまった。


「……メロ。あんたがあたしの目を盗んでお小遣い増やしたり、そのお小遣いでアレな店に出入りしたり……色々やってるの、あたしが知らないとでも思った?」

「えっ」

「……花嵜、お前……」


 あたしの言葉にメロが目を丸くした。ジェイルがメロを睨む。

 あたしが、いや、これまでのロゼリアがメロを見逃してきたのは、それでもメロが従順だったからよ。命令は絶対に聞くし、気まぐれにぶっても文句は言わないし、ロゼリアの前ではとにかくいい飼い犬だった。

 メロのやってたことは飼い犬が留守の間にちょっと悪戯する程度の認識だったの。


 でも、これからはそれじゃ困る。

 あたしはこれから悪女のイメージを払拭していかなきゃいけないんだから、近くにいる人間の素行が悪いのは困るのよ。かと言って、今メロを手放して後ろから刺される展開は嫌だし。


「あんたのこれまでの手癖の悪さには目を瞑ってあげるわ。だから、今はちゃんと、あたしの言うこと聞いて」

「ぅわ、バレてんだ。お嬢、意外に侮れないっスね……」

「これからする話が漏れたらあんたが漏らしたんだって判断する。ジェイルもそのつもりでいて」

「承知しました」

「……はぁ、わかったっスよ。ちゃんと言うこと聞くんで……」


 どうにも不安が拭えないけど、これで良しとしましょう。

 ジェイルもメロには注意するだろうし、この辺が落としどころでしょ。あんまりうるさく言いすぎてもいいことないだろうし。


 ジャスミンティーを飲んでから、あたしはゆっくりと話をした。


 南地区を中心に違法な取引場や賭場を作ろうとしていたこと。

 表には出せないような薬物その他を流通させて儲けようとしてたこと。

 そういう計画をアキヲと二人で秘密裏に進めていたこと。

 既に南地区で怪しげな取引が増えつつあって、それを見逃して金を貰っていること。


 これらを掻い摘んでジェイルとメロに聞かせた。

 ジェイルもメロも驚きながらあたしの話が終わるまで静かに聞いてた。話を終えたところで口を開いたのはメロだった。


「……なにそれ! お嬢のがおれなんかより全然悪いじゃん! 知ってたけど!」

「花嵜、静かにしろ。……つまり、お嬢様はそれらを今から収束させたい、と……それでアキヲ様に中止を言い渡していたのですね」

「そうよ。まあ、かなり計画も進んでるし、アキヲが納得してないのは見ての通りだったけどね」


 そこまで話をして、メロはすごく微妙な顔をしていた。

 無意味にコーヒーをスプーンでかき回しながら少しの間だけ静かにする。けど、なんだか我慢が出来ないと言わんばかりに口を開いた。


「……お嬢さぁ、それ本当に止められるんスか? 金も人も相当使ってるっスよね? 納得してないのは湊代表だけじゃなくないっスか」

「わかってるわよ。それを今からどうにかするの」


 『今から』というあたしの言葉にメロだけじゃなくて、ジェイルも微妙な顔をした。

 アキヲだけじゃなくて関わっている人たちからも反発が出るだろうから、それらを抑えられるのかって疑われている。

 それでも止めないと死ぬだけ。いや、殺されるだけ。

 地獄への道を自分で丁寧に舗装する気なんてないのよ、あたしは。

 行き当たりばったりなのも色々無茶なのも理解している。けど、続けることの方が色んな意味でリスクが高いし、何よりもあたしは間違いなく死ぬ。っていうか殺される。


「お話はわかりました。不安はありますが、自分はお嬢様の意志に従います」

「悪いわね」

「お嬢様のサポートはガロ様からのご命令でもありますので」


 ジェイルの言葉にあたしはほんの少しだけ笑った。

 伯父様の命令を第一に考えるジェイルだから信用してるのよ。伯父様に不利益になるようなことは絶対にしない。だから、あたしがこれまで通りに突き進んだらジェイルはあたしの敵になってしまう。

 けど、そうじゃないなら、道を正そうとするなら、ジェイルはある程度のところまではあたしの傍にいるはず。

 その『ある程度』をこれから探っていかなきゃいけないんだけどね……。これまでジェイルを遠ざけてきたせいで距離感がよくわからないのよ……。


 で、問題なのはメロ。

 メロに関してはとにかく事が落ち着くまで大人しくしてくれればいいわ。

 なかなか返事をしないメロを見てジェイルがため息をついた。


「花嵜、いいな?」

「はいはーい。わかったっスよ、もう……」


 気のない返事だわ。不安すぎる。

 あたしは溜息をついてから再度ジェイルを見た。


「ジェイル、メロのことも見てて」

「承知しました」

「……いや、そういう話、おれの前でするっスか?」

「釘を刺す意味でしているんだ」


 全く、とジェイルも呆れてしまった。

 敢えてメロの前で話をしているという意図が伝わるとそれはそれでメロが不満そうな顔をする。こいつ、本当に顔に出すぎじゃない? そこがいいと言えばいいんだけど、ちょっとくらい繕いなさいよね。

 ジャスミンティーを飲み干したところで、ジェイルもコーヒーを飲み終えた。


「お嬢様」

「何?」

「ガロ様には?」

「今は他会の人に会いにに行ってるし、しばらくは言わないわ。……やらかした後始末を押し付けるって形になるのは避けたいのよ。……あんたの口から伯父様に言うっていうなら別に止めないけど」


 あたしの答えにジェイルは黙り込んでしまった。

 言った方が良いと思っているだろうけど、後始末を押し付けるってところが気になってるんでしょう。大事(おおごと)になる前に伯父様にチクっておきたい気持ちはわからないでもないけど、これはあたしのプライドの問題だわ。ジェイルもそこは理解している、はず……!

 

「話は終わり。もう出るわよ」

「はい」

「……はーい」


 やる気のないメロは無視をしてあたしとジェイルは外に出る。メロは多分もうどうしようもない。ちゃんと監視しておくくらいしか思いつかない。

 ジェイルは伯父様の命令が絶対って考えてるし、あたしがまともになるのは歓迎しているから大丈夫のはずよ。


「ジェイル」


 歩きながら名前を呼び、腕を掴んで引き寄せる。ジェイルは驚いた顔をしていた。驚いても表情はそんなに変わらないから、相変わらずの仏頂面。

 あたしは声を潜めて、ジェイルにしか聞こえないように囁く。


「……いい? しばらく南地区を監視して、ついでにアキヲの身辺を洗って。絶対にあたしの知らないところで妙な真似をしてるに違いないわ」


 それだけ言って、ぱっと手を離してジェイルを解放した。


「承知しました。……お嬢様、」

「何? なんか不満?」

「いえ、これまで自分にはそういった指示はくださらなかったので……本当によろしいのですか?」

「いいわ、悪いことも全部報告して頂戴。これまでのあたしが不真面目で怠慢だったわけだしね」

「それは、まあ、そうですね。お嬢様の自業じと」

「あんたもうちょっと言い方考えなさいよ」


 全部言い終わる前にあたしはジェイルの脛を軽く蹴った。

 蹴った後で「やば」って思ったけど、こ、これくらいなら可愛いもんよね……? 気を抜くとついつい余計な一言と手足が出ちゃうわ。これまでの性格のせいなんだけど。


 このまますぐ車に乗るのも何だか味気ないわね。もう少し気分転換がしたい……。

 そう思って店を出たところで駐車場とは別方向に向かった。


「お嬢? 帰るんスよね? どしたんスか?」

「すぐ帰るって気分じゃないから少し散歩をするわ。あっちの商店街とか行ったことないし……あんたたちも適当にしてていいわよ。三十分くらいで戻るわ」


 そう言ってあたしはジェイルとメロに背を向けた。

 正直、女子高生だった時の『私』の記憶が蘇って、どこに行くにも誰かがついてくるって状況が窮屈に思えちゃう。これまではむしろ「誰かがあたしに付き従って当然」「あたしを一人にするなんて言語道断」「あたしに尽くして当たり前」って感じだったのに、庶民感覚が戻ってきたせいでムズムズする……なんか落ち着かない……。

 まあ、二人ともあたしから解放されるんだからwin-winでしょ。


 そんな風に思ってたのにジェイルもメロも慌ててあたしの後を追ってきた。

 適当に歩こうとしたあたしの手を二人が後ろから同時にひっつかんだ。腕が痛いんだけど!?


「いやいやいや! お嬢待って!」

「お嬢様、そういうわけにはいきません!」

「ちょ、何よ? あんたたちも息抜きができるでしょ?」


 息抜きと言う言葉に二人とも変な顔をする。本当に何なのよ。

 あたしは二人の手を振り払ってから、ジェイルとメロの顔をそれぞれ眺めた。


「いやァ、お嬢まずいっスよ。あんな話の後で南地区を一人でフラフラするの」

「中央区であればお一人でも大丈夫かと思いますが、このタイミングでは……」

「……つうか、お嬢は気付いてないけど、ウチの車ふっつーにつけられてたんスよ。途中で撒いたしジェイルの部下がちゃんと見ててくれたからさっきの話はおれらしか聞いてないけど……」

「え?」

「花嵜の言う通りです。散歩はいいのですが、せめて自分と花嵜はお連れください」


 ──ぜ、全然気付かなかったし知らなかったわ……。


 あたしが知らないだけでメロもちゃんと見てるし、一応自分の仕事(=あたしの護衛とか)はするのね。

 まあ、今ここであたしの身に何かあった時に伯父様に「お前ら何をしてたんだ」って言われるのはこの二人だし……当たり前と言えば当たり前か。


「じゃあ、二人ともついてきて頂戴」

「はーい」

「承知しました」


 あたしはちょっとだけ反省して二人を連れて散歩することにした。

ジャ○カレー美味しい。

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