55.5.in廊下
ジェイル、メロ、ユウリ、そしてノアの四人は応接室から締め出されてしまった。
廊下の外に出たメロは応接室の扉に張り付いて耳を扉にくっつけている。一応、ジェイルとノアは苦虫を噛み潰したような顔でその場で黙り込んだ──だけかと思いきや、ノアに至ってはその場に蹲ってしまった。
ユウリだけは「しょうがないな」という顔をしていたが、三人の様子が余に自分と違うのでぎょっとする。
「ジェイルさんノアさん、そんなに──……って、メロ? やめなよ、そういうの」
「なんで? 気になるじゃん、何話してんのか」
室内に聞こえたらまずいとわかっているのか、メロは小声で応戦している。ユウリも一応小声だった。
ただ、耳をくっつけたとしても会話の内容までは外に漏れ出ないことはメロも知っているはずだ。何か話をしている、ということが分かる程度。
メロは一旦放っておくことに決め、蹲っているノアを見た。膝に手を当ててしゃがみこみ、こわごわと声をかける。
「あ、あの、ノアさん?」
「……ぁ。ユウリさん、すみません。というか、あの場でご挨拶ができなくて……灰田ノアです」
「こちらこそ。真瀬ユウリです。……えぇと、大丈夫、ですか?」
ノアはその場に蹲ったままだ。
どうやらユキヤとロゼリアの距離が近づくのが複雑らしい。ユウリにしてみればあくまで仕事上の話だと感じ取ったので、ノアの困惑っぷりが不思議だった。
「はい、大丈夫です。ご心配おかけして申し訳ございません」
「ロゼリア様はユキヤさんのことをそういう風には見ないと思うので心配は不要かと……」
「……そうじゃなくて、」
もご、とノアが言い辛そうに口を動かす。そしてこれ以上言うべきではないとでも思ったのか、首を振りながら立ち上がった。
「いえ、すみません。そうですよね。ありがとうございます」
「???」
ノアの反応を見てユウリは首を傾げた。
どうやら自分とは認識が違うらしい。しかし、ノアが何を気にしているのかさっぱりわからなかった。折角だからノアともう少し話をしたいと思ったものの、ジェイルのことも気になってしまう。
「ジェイルさん……?」
「……いや、」
「ロゼリア様とユキヤさんが二人きりになることに何か問題が……?」
「そういうわけじゃない」
渋い顔をして首を振るジェイル。ユウリはそれを見て首を傾げた。
ノアといい、ジェイルといい、一体何を心配しているんだろうとユウリはひたすら不思議である。ロゼリアにその気がないのは見ればわかるし、そもそもユキヤはロゼリアの好みではない。ユキヤだって自身の都合上ロゼリアと仲良くする必要があるからそう動いている程度にしか見えなかった。
ユウリは少しでも情報が欲しかったので、中の二人が出てくるまでジェイルとノアを観察することにした。
メロは扉に張り付いたままだ。何とか中の会話を聞こうとしている。
その様子を見ながら、以前の椿邸にはない雰囲気だなぁとしみじみするのだった。




