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悪女の悪あがき ~九条ロゼリアはデッドエンドを回避したい~  作者: 杏仁堂ふーこ
本編

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55.内緒話

 二人きりか……。

 若干落ち着かない気持ちはあるけど、ユキヤの頼みだもんね。しょうがないわね。

 あたしは立ち上がったまま後ろを振り返る。


「ジェイル、メロ、ユウリ、出てくれる?」

「えぇ?! そんな、めちゃくちゃ楽しそうなのに……!」

「メロ! すみません、ロゼリア様。あの、退出させて頂きます」


 文句を垂れるメロを引きずってユウリが扉の方に向かっていく。メロは抵抗しつつ引き摺られていた。ユウリは秘書というよりメロのお目付け役として適任かもしれない。……無理やり引きずってて案外容赦ない。

 ジェイルは、というと微妙な顔をしてあたしのことを見ていた。


「何よ」

「……いえ」


 歯切れが悪い。あたしがユキヤと変な話するとでも思ってるのかしら。

 ユキヤにちらりと視線を向けてみれば、ジェイルと同じく複雑な顔をしているノアに「少しですから」と言い聞かせて応接室を出るように言い含めていた。ノアはユキヤのことを慕っているからあたしみたいな女と二人きりにしたくないのはわかる。

 けど、ジェイルが意味不明。

 なんて言おうと思っていると、ユキヤがノアの背中を押しながら視線を移動させジェイルを見て話しかけた。


「ジェイル」

「……なんだ」

「君のそういう態度は新鮮で面白いですね。妙なことは考えてないので少し時間をくれませんか」


 ユキヤがにこやかに言う。

 あたしの屋敷内で変なことなんてしようがないのに、ジェイルは何をそう心配しているのかしら。これで今後の話がうまく進むなら全然いいでしょ。

 じ、とジェイルを半ば睨むみたいに見つめると、ジェイルは諦めたように首を振る。

 くるりとあたしとユキヤに背を向けて応接室を出ていった。


 これで追い出し完了、と。

 ふうと息をついてユキヤを見つめた。


「……ロゼリア様」

「で、どうしたの? 急に二人きりになりたいなんて」

「少しお伝えしたいことがありまして……」


 応接室に二人きり。

 とは言え、廊下に追い出しただけだから、周囲に人の気配はある。

 ユキヤはゆっくりと移動してきて、あたしの目の前に静かに立った。


「何? 重要な話?」

「いいえ、大した話ではありません。ごくごく個人的な話です。……ロゼリア様だけに聞いて頂きたくて……」

「いいわよ。聞くわ。何?」


 ユキヤを見上げる。ユキヤの身長は181cmだから高い部類よね。ジェイルを見慣れているせいで「ジェイルより小さいな」みたいな感覚にしかならない。

 ユキヤはあたしを真っ直ぐに見つめたまま、静かに口を開いた。


「私は……父のことは欠片も理解できないと思っていました。ただ、最近少し理解できることがあるんです」

「へぇ? 何かしら。あんたとアキヲは親子なのに全然性格が違うけど……」


 ユキヤとアキヲ。並べば一目で親子だってわかるくらいには似ている。

 けれど、性格は全然違う。何故アキヲの息子がこんなにも善い人間なんだろうと不思議に思うくらい性格は違っていた。まぁ、以前のあたしはそんなユキヤを面白みのない人間だと思っていたわけで……。

 そんな記憶を苦々しく思っていると、ユキヤはあたしのことをどこか眩しそうに見つめる。


「父が危険な計画を立てて実行しようとした理由です」

「は?」


 目を見開いてしまった。そんなのユキヤには一番理解し難いところなんじゃないの!?

 驚いてどういう意味かと問いただす前にユキヤが笑いながら「ご心配しているような意味ではなく」と話を続けた。


「──普通ならこんなことを計画も実行もしようなんて思わないはずなんです。けれど、ロゼリア様の後ろ盾があるというだけで気が大きくなってしまうのだと、理解ができたんです。……今の俺がそういう心境なので」


 いいい今、お、俺って言った!

 じゃなくて!!!!!!!

 いや、どういう意味? わかがわからなく訝しげにユキヤを見つめてしまう。ユキヤはその視線を受けると、少し子供っぽい表情を見せた。

 そして、あたしとの距離を詰めて、額が触れ合いそうになる距離まで顔を近づけてくる。


「父とは違いますが、……貴女の存在は、俺の気を大きくしてしまうんです。何があってもきっと大丈夫だと」

「……ユキヤ。それは買いかぶり過ぎじゃないかしら」

「前もそんなことを仰っていましたね。けれど、それでも『九条ロゼリア』という名前には力があります。今の貴女はその力を正しいものにしようとしているのではないですか? そのことが、……俺の力になり、俺の背中を押してくれます。結果がどうなろうと、その事実は変わりません。それをお伝えしたかったんです」


 そう言ってユキヤはゆっくりとあたしから離れた。

 あたしはユキヤをじっと見つめる。ユキヤは何でもなさそうににこにこと笑っている。


 ──貴女の存在は、俺の力になってくれます。


 ゲーム内でアリスに向けてたセリフ。

 けれど、ゲームで聞いたセリフとは熱量とかがやっぱり違う。このセリフを口にする時のユキヤは既にルートに入っていて、要はアリスに恋をしていたから、もっと熱っぽい感じだった。このセリフを言われるシーンってスチル付きで、ユキヤはアリスの手を握りしめて祈るような雰囲気があったしね。

 今、あたしに向けられたセリフはどこまでも冷静で……言っちゃえばリップサービスみたいなもの。

 ちょっと複雑な心境だった。この言葉をどう受け取ればいいのか……。


「……そう。ありがとう」

「こんなことを急に言われても困りますよね。ただ、感謝してることを伝えたかっただけなんです。負担をかけるつもりはありません」


 あたしの反応が思わしくないからか、ユキヤが申し訳なさそうな顔をした。

 し、しまった。別にユキヤにそんな顔をさせたいわけじゃなくて──!


「ふ、負担だなんて思ってないわ。元々あたしの責任でしょ? ……正しいも何も、マイナスをゼロにしたいだけの行動だわ」


 それを評価されるのは落ち着かない。せめて、成功してからじゃないと喜べない。……成功したとしても元に戻したってだけで、評価されるのもなんか違うと思うのよね。

 そう言うとユキヤは考え込んでしまった。なんだか深刻そうな表情なんだけど……?


「……ユキヤ?」

「ロゼリア様……もし、マイナスが貴女のせいじゃなかったら、どうでしょう?」

「えっ?」


 いや、全然意味がわからない……。

 ユキヤは深刻そうな表情のままあたしのことを真剣に見つめていた。


「……ロゼリア様が南地区の代行になる以前から、あまり良い状態ではなかったんです。傍目には穏やかな地区に見えますが、実際は貧富の差がじわじわと広がっていて、地区内では不審な人間の出入りも見られていました。父がそういう状況をずっと見逃していたという事実がまず一つ」


 一つ? それ以外に何かあるの?


「こちらはまだ確証が得られてないのですが……父の裏の繋がりはロゼリア様がいらっしゃる以前からあったと踏んでいるんです。それも長きに渡って。ロゼリア様が代行になったタイミングが契機であり、問題が顕在化しただけで……正直、ロゼリア様がそこまで責任を感じる必要はないと思っています。

……というか、そういう話になるとそもそも父の近くにいた自分はどうなんだ、という話になってしまい……俺にはロゼリア様を責める権利はありません。

俺自身にも俺の名前にも、水面下の問題をどうにかできるだけの力はありませんでした。自分の無力さが身に沁みてわかっているので、余計にロゼリア様のお名前にありがたみを感じてしまうんです」


 ぼうっとその話を聞いてしまった。

 アキヲの裏の繋がり、要は悪い連中との付き合いは以前からあって、コソコソ悪事を働いていた。

 それはそれですごい情報だった。確証はないとのことだったけど、言われてみれば納得できてしまう。


 ……けど、そっか。

 ユキヤはどうにかしたくてもできなかった、っていう時間があったから……あたしが計画から手を引いて、ユキヤについたことで一気に事態が動いたことは既に評価してくれてるんだ。

 ある意味で当事者であるユキヤから「そこまで責任を感じる必要はない」と言われてホッとしてしまった。

 ちょっとだけ罪悪感が薄らいだってだけで、代わりに「あたしが代行にならなければ……」って気持ちが出てきちゃってるけど、何をどう考えても責任ゼロじゃないから……。


「……ユキヤ」

「はい」

「ありがとう。……なんていうか、今後もあんたの言葉を裏切らないようにさせてもらうわ」

「そう言って頂けるだけで十分です。……さて、あまり時間をかけるとジェイルが不審がりますね」


 そう言って笑い、ユキヤは扉の方へ視線を投げた。

 ……確かに扉のすぐ傍から気配も感じるし、何か小声で話をしてるっぽいのよね。メロあたりが聞き耳立ててるんじゃないかしら。まぁ、何か話をしているのは聞こえても、内容までは聞こえてしまうほど壁も扉も薄くないけど。


「そうね。──確証がないって話、確認が取れたら教えて頂戴」

「承知しました。あと、デートも楽しみにしています」

「うまくいくと良いわね、どっちも」


 裏の繋がり、その正体が掴めれば別の形でどうにかできるかもしれない。要は告発とか、然るべきところへの報告で、もっと上手く決着がつく可能性がある。……ユキヤがその件をどう感じているかはわからないものの、ちゃんと確認できてから聞こう。

 デートの件は、まぁ、おまけみたいなもんよね。


「──そうですね」


 穏やかに言い、ユキヤは目を細めて微笑んだ。

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