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悪女の悪あがき ~九条ロゼリアはデッドエンドを回避したい~  作者: 杏仁堂ふーこ
本編

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45.ユキヤとの通話

 ユウリの仕事も決まり──とは言ってもすぐじゃないけど、一旦あたしが抱えていた宿題はなくなった。

 とは言え、南地区の件は区切りはついたものの、まだ決着はしてない。

 現在はユキヤが内部から、ジェイルが外部から調査をしている状況。目立った報告はなくて、アキヲが計画を中止してくれさえすればいいんだけど、そういう報告もない。完全に中止をした、という確証が内外どちらからも確認が取れないってことみたい。

 じゃあアキヲの対処をどうするかを具体的に考えて行かなければいけない。

 ユキヤへ協力をしている以上、ユキヤの意思を尊重したい。関係性が悪いにしてもやっぱり親子だし、可能な限り穏便に済ませたいのよね、あたし個人としては。

 ……このままにしておいたら、あたしはもちろん、アキヲだってどうなるかわからないんだもの。


 そんなわけでユキヤとはまめに連絡を取ることにしている。ジェイルは毎日のように定時報告的なものを受けているらしいけど、あたしには二、三日置きってところ。

 その日もユキヤから連絡があった。


『ロゼリア様、こんばんは』

「ええ、こんばんは」


 いつもの穏やかな挨拶が聞こえる。

 何と言うかちょっとホッとするわ。ユキヤの人柄よねぇ。あたしとは大違いだわ。けど、あたしがあたしという人間だからこそゲームが成立したのよね。ユキヤが苦しんで、アリスがそれを救って……という具合に。


「ユキヤ、何か変わったことはあった?」

『いいえ。特にこれと言って変化はありません……父が計画を明確に中止したという気配はないのですが、水面下で動いているのは間違いないです。ロゼリア様とお会いした後、目に見えてガードが硬くなりまして……』


 ユキヤは困った様子だった。ジェイルからも報告を受けているものの、やっぱり芳しくないらしい。

 何か企んでいるのは間違いがない。が、動きがなく、逆に不気味。

 情報らしい情報も出てこなくて、ユキヤも手を焼いているとか何とか。


「そう、困ったわね……」

『ロゼリア様が購入された商会以外の商会に資金が流れているところまでは確認できています。ただ、動きと言えばそれくらいです。恐らく何かの準備をしていると思うのですが、具体的に何の準備をしているのか……』

「一言で計画と言っても色々あるものね。アキヲの性格的にどれか一つだけに絞るとは思えないわ」

『同意します。──引き続き調査を続けますので今しばらくお時間をいただければと……』

「悪いわね。どうしても外からの調査では限界があってね……」

『それは承知していますので大丈夫です』


 協力するとは言ったものの、役に立てている気がしないわ。

 ユキヤの調査がやりやすくなったと考えておきましょう。


『そう言えば、秘書をつけたという話をジェイルから聞きました』


 話題の変化とともに声色が少し変わった。どこか明るい感じ。

 調査が芳しくないからあたしががっかりしてると思われたっぽいわ。これ以上報告やら何やらはないからか、わざわざ話題を変えてくれたのね。

 っていうか、ジェイルってばそんなことまで──と思ったけど、ちょっと考えてみると、ユウリとユキヤが連絡を取り合う可能性もあるから情報としては必要よね。近況報告ついでにユウリのことを伝えておくのも悪くないわ。


「ああ、ユウリのことね。つけたというか、なんというか……」


 あたしの微妙な反応を聞いたユキヤがおかしそうに笑った。

 積極的に秘書をつけたというわけじゃないのが何とも言えない。微妙な反応にもなるわよ。


『ふふ、逆にこれまで秘書がいなかったのが不思議です』

「そう?」

『代行という立場であればそういうポジションの人間がいてもおかしくはなかったので……』

「それは、まぁ、色々あるのよ。ユキヤとも何かしら接触があるだろうから、よろしく」

『ええ、もちろんです』


 あれ、そう言えば……ユキヤってユウリと会ったことあったっけ? いや、ないわね。

 顔すら知らないのは流石にまずい?


「……ユキヤってユウリの顔は知ってる?」

『お恥ずかしながら、ぼんやりとしか……以前、お屋敷に伺った際に少し見た程度です。ジェイルから特徴などは聞いていますし、真瀬さんの方は私の顔を知っているという話でした』

「そう……」


 それなら、いい……?

 いや、良くない気がする。

 ユキヤがジェイルと気兼ねなく連絡を取り合えるのは元々友人同士だったからだわ。あたしから、もしくはジェイルからユキヤにユウリをちゃんと紹介しなきゃまずいわね。ユキヤは南地区代表の息子でユウリは元孤児。ユウリがユキヤに対して萎縮する可能性がある。ユキヤの人柄が良くても、やっぱり身分差? 社会的地位の差? みたいなものはどうしようもない。

 あたしが堂々と振る舞っていられるのは『九条ガロの姪』だからだし。


 調査の進捗は硬直してるし、我慢比べになっている状況。

 ユキヤをちょっと呼び出しても大きな影響はないんじゃないかしら。


「ユキヤ」

『はい、ロゼリア様』

「今後のことも考えてユウリとの顔合わせの機会を設けたいの。ユキヤ、こっちに来れないかしら?」


 あたしが南地区に行くという手もあるけど、あんまり近づきたくないのよね。変に気取られたくないし……アキヲの警戒心を強めかねない。

 だから、ユキヤに来てもらうのが丁度いいのよね。

 ただ、無理にとは言えない。ユキヤはユキヤでやることもあるだろうし……。


 あたしの言葉にユキヤは黙り込んでしまった。

 ……しまった。「来れないかしら?」なんて聞いても、ユキヤにとっては「来い」ぐらいの言葉に聞こえたんじゃないの?! そ、そういうつもりは一切なかったし、スケジュールの調整ができればと思っただけなんだけど……しかも、ただの顔合わせなのがまた……どう考えても優先度の高い話じゃない……。


「べ、別に無理にとは言わないけど、」

『は──……いえ、……そうですね。少し時間を頂きますがよろしいでしょうか?』

「え? いいわよ、それくらい」


 っていうか来てくれるの? わざわざ時間を作らせちゃって申し訳ないわね。


『あの、今ロゼリア様の言葉で少し思いついたのですが……敢えて、南地区を離れてみようと思います』

「? ど、どういうこと?」

『これまでは父を監視する意味で近くにいました。父は私のことをつまらないながらも、言うことは聞く人間だと思っていたに違いありません。……ただ、大変お恥ずかしい話なのですが、父と言い合いをしてしまい……恐らく父は私を警戒しているはずです。私に簡単に情報を漏らすようなことはしないでしょう』


 ふむ……?

 話が見えないけれど、ユキヤの話に耳を傾ける。何か考えがあるみたいだわ。

 言い合いをしたというのが気になるけどちょっと聞きづらい。


『なので、私が南地区を離れることで父の油断を誘えるのでは、と……父の近いところに私に情報を渡してくれる人間がいます。父の油断を誘えるような準備をしてから、西地区の友人のところに行くと言って、ロゼリア様にお会いしたいと思います』

「──なるほど。それって大丈夫? 危険じゃない?」

『何とも言えませんが……大丈夫なように、少しお時間を頂ければ、と……』


 今度はこっちが黙り込んでしまった。

 ユキヤの目が南地区からなくなるのは不安。けど、このままにしておいてもアキヲが亀の歩みで計画を進めてしまう。気がついたらゴールしていた、なんてことにならないようにしたい。

 つまり、一旦敢えて隙を作るという案はいいと思う。

 いいと思う。けど、不安……!


『ご不安は最もかと思います』

「でも、このままにしておけないのもわかってるわ。──わかった。あんたを信じる」

『ありがとうございます。準備を進め、ジェイルと連携し……そちらに伺う日程はまた改めてご報告させていただきます』

「わかったわ。よろしくね」

『はい、承知しました』


 虎穴に入らずんば虎子を得ず、とも言うしね。

 どうせこのままにしておいてもデッドエンドが近付くかもしれない。どうにかして計画を完全に止めないと死ぬ可能性が高くなるだけ……というか、今だって死ぬ運命が回避できてるわけじゃない。

 不安はあるけど、それ以上に大きな不安の種は潰しておかなきゃ……。


 ユキヤの「おやすみなさい」という言葉を聞いてから通話を終えた。

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