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悪女の悪あがき ~九条ロゼリアはデッドエンドを回避したい~  作者: 杏仁堂ふーこ
本編

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44.秘書

「……と、言うわけで、ユウリにはあたしの秘書になってもらうわ」


 翌日。

 あたしはユウリとジェイル、キキ、墨谷、ついでにメロを呼び出して宣言した。

 当事者であるユウリの目が点になっている。

 ジェイルもキキも墨谷も似たような表情をしていた。メロは「へー」くらいの顔しかしてない。


 あの後、伯父様に「秘書って何?!」とやや食い気味に色々聞いてしまった。伯父様は軽い調子で「お前のスケジュール管理と身の回りの世話だ」と言ってたけど、身の回りの世話は秘書の仕事じゃなくない……?

 秘書なんてこれまで持ったこともないし、欲しいと思ったこともないのよね。行動を制限されると思って……なんか秘書がいても窮屈そうってイメージしかなかったのよ。実際、伯父様にも秘書がいて本当にずーーーっと傍にいたし……。

 今のジェイルが役割としては近い、のかも……?


「あ、あの、ロゼリア様、秘書って……」

「秘書は秘書よ。伯父様からユウリになってもらえって、そう言われたの」

「ガロ様が?」

「へー、ユウリ大出世じゃん」


 ユウリの戸惑いの声に答えると、ジェイルが横から驚いた声を上げてくる。そしてメロが更に突っ込んでくる。

 キキと墨谷は口を挟みづらいのか、黙っていた。


「仕事としてはあたしのスケジュール管理とフォローってところかしら。ジェイルとキキの仕事をそれぞれ一部渡して頂戴」

「自分は今のところ余裕もあるので別に渡す必要はないのですが……」

「え、一部って……どこまででしょうか?」


 あたしの言葉にジェイルが突っこんできて、更にキキも戸惑いを見せた。

 墨谷は二人を見て小さく溜息をつく。多分、墨谷は伯父様から事前にある程度色々聞いてたんだと思う。二人を見て「静かにできないのかしら」と言わんばかりだった。

 溜息をついて、手を前に出して二人を制する。


「質問はあとで受けるわ。まずはあたしの話を聞いて頂戴」


 そう言うとユウリはもちろん、ジェイルもキキも口を閉ざした。墨谷は元より静かに聞いてるけど、メロが「ぷっ」と吹き出す。……普段なら自分が注意されてる場面で他の人間が注意されるのがおかしかったらしい。

 他の四人からギロリと睨まれ、メロは気まずそうに明後日の方を向いた。本当に馬鹿。


「……まず、キキ」

「はい」

「あんたの代わりになる新人メイドが来るそうよ。これは墨谷も知ってるわ。で、その子にあんたの仕事を渡すわけだけど……何分新人だから、キキがこれまでできてたことができない可能性もあるわけ。あんたはあたしの性格を把握してるけど、その子はあたしのことを知らないわけだからね」

「なるほど。そこでユウリの出番というわけですね」

「そうよ。だから、あたしのフォローをその新人とユウリとでカバーできるようにして欲しいの」

「かしこまりました」


 こうやって言っているとあたしが何もできない人間みたいだわ。まぁ、あたしは以前みたいな我儘を言わないようにするし、極力自分のことは自分でやるようにするけど……キキに任せきりな部分も多かったのよね……。

 TPOに合わせた服装とか髪型とか。キキはあたしの性格を把握して、どうしてもう外せないって時は上手く誘導してくれてたわ。そういうの、本当ならあたし自身が把握してなきゃいけないのよね。

 ていうか、よくよく考えるとキキはそういう時、あたしに恥をかかせてやろうとか思わなかったの? いや、今聞くことでもないからいいけど。


「次、ジェイル」

「はい」

「あのね、まだこれは決まったことではないんだけど……伯父様があたしにっていうか、実質はジェイルに仕事をお願いしたいそうなの」


 そう言うとジェイルが目を丸くした。そしてちょっと輝く。伯父様に対しては本当に忠犬なのよね。


「……自分に、ですか?」

「そうよ。色々事情があって内容までは明かせないんだけど……要はその仕事のために、今の仕事をユウリに少し預けて欲しいのよ。あんたも伯父様からの依頼ならそっちを優先したいでしょう?」


 そっちの方がジェイルも嬉しいでしょと思いながら言うけど、意外にもジェイルからは返事がなかった。

 あ。この場で「そうです」なんて言えないか。しまった、無神経だったわ。こんな質問は答えづらいに決まってる。


「……いえ。あの、お嬢様の補佐も大切な仕事ですので、どちらが、というわけでは……」

「言い方が悪かったわ。あたしとしても折角の伯父様からの依頼だもの、そっちを優先して欲しいのよ。あたしの都合であんたを振り回してばっかりだったでしょ? だから、負担が軽くなるようにユウリに少し仕事を渡して頂戴」

「承知、しました」


 歯切れが悪いわね。何か不満でもあるのかしら。

 と、不思議に思っていると視界の端でメロが笑いを堪えていた。こいつ、本当に何なの。呼んだのは失敗だったかもしれないわ。

 まぁいいかと無視をして、改めてユウリを見つめる。


「ユウリ、こんな感じよ。でも、ちょっと気にかかるのは……あたしはあんたに勉強をしていて欲しいと思ってるから、この秘書って仕事で勉強時間が奪われるんじゃないかって心配してるの。伯父様は大丈夫だって言うけど……いきなり負担が多くないかしら?」


 実際、何となく秘書業務がメインになりそうでなんか嫌なのよね。勉強していいわよ、学校に行きなさいよって話が無になる気がする。それは個人的に嫌っていうか……。

 ユウリは一瞬だけきょとんとしてから、それからふわりと笑った。


「大丈夫です。仕事が欲しいと言ったのは僕ですし、ガロ様がそう仰るのであれば……最初は大変だと思いますが、どちらも両立させて見せます。ロゼリア様、ご配慮有難うございます」

「そ、そう……ならいいわ」


 思いの外やる気! 本気?!

 ……って、折角やる気になってくれてるんだもの、任せてみるしかないわよね。変に「やっぱり大変そうだからいい」なんて言ってやる気が削がれちゃったり、あたしへの不満を募らせてもらっちゃ困るわけだし。

 ユウリが納得したのを見て、墨谷を見る。


「というわけだから、墨谷もこういう事情は知っておいて頂戴。これまで通り、椿邸のことは任せる。ジェイルは大丈夫だと思うけど、ユウリとキキは普段と違うこともしてもらうし……他の使用人たちにも話をしておいて、必要に応じてフォローして頂戴」

「ええ、かしこまりました。お話を聞かせて頂きありがとうございます」


 そう言って墨谷は朗らかに笑った。

 以前はこの笑みが呑気そうに見えて嫌だったのよね。でも、今は任せられる。っていうか信じられる。あたしの我儘で使用人たちが困っている時、陰ながらフォローしていた。

 そういうありがたみが全然分からなかったのよねぇ。今になってみるとすごく有り難い存在だって思う。墨谷にもいずれお礼をしよう。


 墨谷を見て頷いてから最後にメロを見る。メロは目が合うとへらっと笑った。


「で、最後にメロ」

「はーい」

「あんたはユウリともキキとも仲がいいし、二人が困ってたら」


「「いりません」」


 言い切る前に、ユウリとキキから物言いがついた。

 え。と、声を上げて二人を交互に見つめる。メロは「えぇ……」と困惑した声を上げていた。あたしも困惑してるわよ……。

 ユウリもキキもどこかツンとした様子でメロを見ようともしない。


「ロゼリア様、お気遣いは嬉しいのですが……メロに手伝ってもらうようなことはないと思います」

「私もです。新人教育もユウリへの引継ぎも問題ありません。勉強もロゼリア様の身の回りのお世話もちゃんとします。お気遣いありがとうございます」


 澄ました様子で答える二人とは対照的に、メロがめちゃくちゃ変な顔をしている。っていうかショックを受けてる?

 あたしは三人を順に見つめて首を傾げた。ジェイルもあたしと同じで不思議そうにしているけど、墨谷は特に驚いた様子もない。


「え、えぇと、二人ともメロとは仲がいい、わよね……?」

「普通だと思います」

「私も普通です」


 メロがガックリと肩を落としている。

 ああ──……メロってあっちこっちから信用がないんだわ……。

 ユウリとキキですらこんな反応なんだもの。大体普通の定義って何なのよ。学校に通ってた時は結構友達が多い印象だったのに……まぁガラの悪い連中だったりしたから、比べるのもちょっと違うわね。近すぎるとわからないものだわ。

 こればかりはメロ本人に挽回してもらうしかない。あたしはメロに構ってられるほど暇じゃないもの。


「っと、ユウリ。一つ伝え忘れてたわ」

「! は、はい!」

「伯父様の秘書が式見って言うんだけど……伯父様が戻った時に式見が時間を作ってくれるらしいわ。要は秘書業務を教えてくれるんですって」


 ユウリは「そこまでしてくれるのか」と言いたげな顔をしてから、真面目な顔をして「承知しました」と答えた。

 あたしもそこまでするのが不思議ではあるんだけど、新しくあたしの秘書を雇うより断然安いからね。あたしは今のところ秘書なんて要らなかったんだけど、伯父様がつけたがったから……仕事と一緒で拒否権がない。


 さて、と。話としてはこれくらいかしら。

 あたしは腰を手に当てて、五人の顔を順に眺めていった。


「以上よ。で、なにか質問はあるかしら?」


 ぐるりと五人を見つめる。けれど、誰からも質問は挙がらなかった。

 まぁ、一旦ユウリに仕事を渡してみないとわからないことも多いわよね。


「そう、何か困ったことがあれば聞いて頂戴。それじゃ、これからよろしくね」


 そう言うと、五人は背筋を伸ばしてからあたしに一礼をした。

 ……おお、これはちょっといい感じだわ。伯父様にでもなった気分。

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