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悪女の悪あがき ~九条ロゼリアはデッドエンドを回避したい~  作者: 杏仁堂ふーこ
本編

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40.ユウリのお願い②

 ユウリは役割、つまり何か仕事が欲しい。そしてジェイルもその意見には納得できている。

 メロがちゃんと仕事をしているかって言うと、まぁ一応あたしの言うことは聞いてるから仕事してるってことになるのかしら。キキは真面目だから言わずもがな、ちゃんとやってる。


「これまで通りじゃ嫌ってことよね」

「……メロとキキが明確な仕事を貰っている以上、僕だけこれまで通りというか、勉強だけしていればいいのは、ちょっと……」

「お嬢様、自分は真瀬の言うことが理解できます」


 理解できないと言える雰囲気ではないんだけど、いまいちピンと来ない。

 二人の視線を痛いくらいに受けつつ、あたしは額を押さえて考え込んでしまった。


「ちょっと待ってね……」


 ……あたしはこれまで湯水のように金を使っていた。

 使えるお金がないとか、衣食住が突然なくなるという心配なんかしたことがない。

 多分、ここがユウリやジェイルと違うところ。


 ユウリは伯父様がここに連れてくるまでは孤児院で暮らしていた。つまり両親を亡くし、衣食住を失った経験がある。……あたしは事故で両親を失ったけど、伯父様にめちゃくちゃ甘やかされて育って、衣食住は当たり前のように保証されていたから、ユウリみたいな経験はしたことがないのよ。

 だから、不安ってことよね。

 ゲームではアリスがいたから現状を変える決意をしてたけど、出会えなかったら何もしなかっただろうって言ってたわ。一人で逃げてもどうにもならないし、どうせ野垂れ死ぬから、って。

 けど、今はゲームとは当然事情が違ってて……。


「……何か仕事をしてないと不安ってことでいいのかしら?」

「そ、れも、あります。……ただ、僕は」

「お嬢様、少し失礼します」

「何?」

「今後お嬢様が真瀬の扱いを改めるのはわかりました。ですが、特に仕事を与えないのであれば、……良い言い方が見つかりませんが、つまるところ無職ということになります。九条家に置いている以上、何か仕事を明確に与えるべきです。客人でもないのですから」


 む、無職……!

 ジェイル、言いすぎじゃない?

 そこは浪人してないけど浪人生とか受験生とか色々言いようはあると思う。

 けど、そうか。そうよね。何もさせないというのは、他の使用人の手前まずいってことね。一応学校を卒業した後は、九条家というか伯父様が雇っているってことになってるから……。

 伯父様は「好きにさせてみな」って言ってたけど、学校に行かせる上にこれまで通り給料まで出すっていうのは確かにちょっと違う気がする。正式に大学に通うまでは、何かちゃんと仕事をしてもらって……って感じになるのかしら。その後はその後でまた考えなきゃいけない。

 そんなこと全然考えてなかったわ。……何かを変えようとすると、連鎖反応的に? 色々と調整が必要になってくるのね。意識からすっかり抜けてた。


「それでついていきたいって話になったのね」

「そうです。できれば、何か役に立ちたくて」

「……。ユウリの言いたいことはわかったわ。多分」


 仕事を与える。という点は理解できた。

 けど、急にそんなことを言われても別にして欲しいこともない。今までは何もかもやってもらって当然で、何でもかんでもキキやメロ、ユウリにもあれこれやらせていた。

 あたしは色々と認識を改めたので、これまでより自分のことは自分でやるようになったからキキの負担は軽減されてる、と思いたい。だから、役に立てるような仕事と言われてもぱっと思いつかないのが現実なのよね。


 ……何というか、ユウリが役に立ちたいと言い出すのがちょっとびっくり。

 これは方便というか、あたしが機嫌を損ねないようにしてるのかも。あたしのことはよく思ってないはずだしね。


「ユウリ」

「はい」

「悪いんだけど、ちょっと考えさせてくれる? 別にあんたの仕事っぷりを疑うわけじゃないわ。ただ、急に言われてもこれという仕事が思いつかないのよね……」

「そう、ですか」


 ユウリはちょっと残念そうだった。可愛い。ちょっと良心が痛む。

 でも本当にやって欲しいこととか、足りてないこともないもの。

 そこまで考えて横にいるジェイルを見る。ジェイルはあたしを見つめてまばたきを一つ。


「ジェイルはどう? 何かユウリに任せられそうな仕事ってない?」

「……少し考えさせて下さい」


 ジェイルも困ってしまった。ジェイルはジェイルで部下がいるし、そことの兼ね合いもあるのよね。配下に加えて、って言ったとしても指示系統的なものが面倒になるから気が進まない気持ちも分からないでもない。

 あたしはため息をついて額を押さえた。


「悪いわね、ユウリ。すぐに返事ができなくて」

「いえ、こちらこそ申し訳ございません」

「でも何か用意するから。少し待ってて頂戴」


 そこで話は一旦終わり。

 持ち帰りの宿題として、ユウリとジェイルには下がってもらった。



◇ ◇ ◇



 うーーーん。ユウリに任せられる仕事、ねぇ。

 いや、多分色々あるはずなんだけど、現時点ではこれと言って思いつかないわ。南地区のことに関わらせてもいいんだけど、個人的にちょっと気が進まないと言うか何と言うか……ゲームの中でも、そういうゴタゴタ(というか暴力沙汰や流血沙汰)は苦手だから一歩引きつつアリスのブレーンみたいな感じで率先して前に出る感じではなかった。いや、ブレーン的な働きをしてもらえばいいのかも? しばらく考えて、特になかったからジェイルに相談しよう。


 なかなかのんびり頭を休められないと思っていたら、扉がノックされた。

 執務机に突っ伏していたあたしは顔をあげる。


「お嬢様、墨谷です」

「墨谷? どうしたの? 入っていいわよ」


 墨谷が尋ねてくるなんてすごく珍しい。大体キキに任せてあたしには近付かないようにしてたのに。

 驚きつつ、墨谷が入ってくるのを見つめた。

 墨谷はあたしの方に向かって一礼してから、遅くもなく速くもないようなスピードで近づき、もう一度あたしに頭を下げた。


「失礼します、お嬢様。実はガロ様から連絡がありまして」

「伯父様から?」

「はい。キキのことで。……お嬢様がキキに学校に通うことを許可され、そのことはガロ様から私に改めて伝えられました。これまでキキはお嬢様の身の回りのことをしていたので、その代わりのメイドを近いうちに椿邸に寄越す、というお話でした。キキは引き続きお嬢様の身の回りのお世話をさせていただきますが、その分担を徐々に新しいメイドに任せていく形になります」


 新しい、メイド……? まさか、アリス……?!

 い、いや、アリスが来るのはゲームスタート時である10月1日、今は8月。しかもキキの代わりとしてじゃなくてロゼリアに辟易して辞めたメイドの代わりにやってくるはず。ここ最近辞めたメイドはいないから、タイミング的にもアリスじゃない。

 というか、早めにそのキキの代わりになるメイドに来てもらった方がキキの負担も減るし、今後アリスが潜入してくる余地もなくなるんじゃない?


「なるほどね。わかったわ。ちなみに、新しいメイドはもう決まっているの?」

「はい、決めたとガロ様が仰っていました」


 よし、アリスではなさそう!

 アリスのメイド潜入が決まるのは9月下旬だったもの。このへんはプロローグ部分で語られてた。

 このままアリスとはエンカウントせずに済む、かもしれない。今からゲームスタート手前まででメイドが辞めても「新しいメイドは要らない」って押し通せば本当に雇う余地はなくなるわ。あたしも以前ほど我儘じゃなくなって、面倒じゃなくなってるし。


「まぁ、伯父様は決めたなら文句はないわ」

「キキと一緒に私が教育係としてしっかり面倒を見ますので……」

「ええ、よろしくね。墨谷」

「はい、お任せ下さい。お嬢様」


 墨谷は柔らかい笑みを浮かべて、あたしを見つめてる。

 普通に会話ができていることに謎の感動を覚えた。

 これまで墨谷はあたしから逃げるような態度だったし、会話もすごく嫌そうだったし……普通にできてるってことは、あたしへの苦手意識が多少はなくなったって思っていいのよね。ちょっと、いやかなり嬉しい。


「……それと、本日夜にお嬢様に連絡をすると仰っていました。19時頃だそうです」

「わかった。その時間は伯父様からの電話を待つわ」

「その時間を逃すと連絡が難しいとも仰っておりましたので、ご注意いただければと……」


 どうしても連絡を取りたいってことね。忘れないようにしなきゃ。

 でも伯父様がこうやって敢えて電話時間を指定してくるのは珍しい気がするわ。どちらかというと、これまではどちらかと言うと、あたしが連絡を取りたいってお願いをしていた立場だし……。


 それだけ伝えると墨谷は部屋を出ていった。

 これからはキキを頼りづらくなるってことよね。身の回りのことは全部キキにやってもらってたからね。……流石に何もできない子供じゃないから大丈夫だけど、いつものクセでキキを呼びつけないようにしなきゃ。

良いお年を!

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