04.南地区
そんなこんなでゲームで得た知識をまとめつつ、今後の方向性なんかをまとめていたらあっという間に南地区への視察日になった。
あたしは身なりを整え(と言ってもキキにやってもらったんだけど)、自分の姿を改めて鏡で確認する。
赤毛を一部横に流して、それを綺麗に巻いて、更に黒薔薇の髪飾りをつけている。服はチャイナ風味のドレスで、ちょっとシックな感じ。可愛い系なんて絶対似合わない顔立ちだから大人っぽい&品が良いって感じの服装が多いのよね。
って、これ、ゲームで見たロゼリアの立ち絵だわ。
まんま『悪女・ロゼリア』になっていることに若干凹む。
けど、こんなことでいちいち凹んでいるわけにもいかず、気を取り直してジェイルとメロを呼んだ。
「ほんとにおれも行くんスか!?」
「は? なんか不満なの? っていうか昨日伝えたでしょ」
「え、あ、いや、不満なんてないっスよ。どうせやることないし……ただ、珍しいなって思っただけっス。いや~、南地区なんてあんまり行く機会ないんで楽しみっスよ、おれ」
メロが慌てて弁解する。調子いいのよね、こいつ。
ジェイルは部下を後ろに控えさせ、メロの調子のいいところを見て呆れていた。
「ジェイル、メロ」
「はい」
「なんスか?」
あたしは二人を眺めて、南地区に入る前に伝えたいことを伝えておくことにした。
ジェイルはともかくとして、メロはなんか色々と余計なことを喋りそうだから今のうちに言っておかないと不安。
「とりあえず、あんたたちはあたしの護衛。……あたしがアキヲと話す時も傍にいて貰うわ。けど、一切口を挟まないでしれっとした顔をしててくれる?」
「しれっと、っスか?」
「そう、しれっと。全部あたしから聞いてる、って顔しててくれればいいのよ。口を挟んだり変な反応しないで」
あたしの命令にメロが変な顔をする。ジェイルはまさにしれっとした顔をしていた。
……メロ、不安だわ。やっぱり連れて行くのやめようかしら。
でも、こいつはこいつで傍に置いとかないと何をするのかわからなくて不安なのよね。
ユウリは留守番をさせても脱走したりなんてことはないだろうし……。っていうか、ここを出ても行くとこないしね。あ、可哀想。ユウリのことも考えておかなきゃ……今の境遇のままアリスと出会ったらジ・エンドよ(あたしが)。
「うーん、むずかしいけどやってみるっス」
メロが困った顔をして、とりあえずと言った様子で頷いた。
それを見たジェイルがこれみよがしにため息をついて、あたしの傍まで近付いてきた。
「……お嬢様、本当に花嵜も連れて行くのですか?」
「ええ。こいつに大人しく留守番なんてできると思えないからね」
「え、ひど」
「本当のことだろう。……お嬢様の言葉も一理あります。気は進みませんが、自分がしっかり見張っておきましょう」
「ええ、お願いね」
「うぇ~……ジェイルまじうぜー……」
「こちらのセリフだ」
こいつら仲が悪いわね……。
メロはジェイルの融通効かないところが好きじゃないっぽいし、ジェイルはメロの軽くていい加減なところが嫌みたい。まあ、正反対みたいなもんだし、しょうがないのかしら。
流石にあたしの前でいきなり喧嘩なんてしないだろうし大丈夫でしょ。
ま、気にしてもしょうがない。連れてくって決めたんだしね。
あたしたちは『いかにも』な黒塗りの高級車に乗り込み、南地区へと向かった。
車に乗って二時間弱。南地区に入った。
流れる街並みは前世の記憶にあるような日本の都市部って感じ。ただ、ちらほらとニュースとかで見るようなアジアの風景もあったりして、改めて前世の記憶と照らし合わせると不思議な世界だった。色んな文化が混ざりあった異国って雰囲気。
まあ、前世のあたしには海外旅行の経験なんてなくて、ゆっぴーたちと「卒業旅行行きたいねー」って話してパンフレットとか旅行サイト見てたくらい。
「お嬢様、あと十分ほどで到着します。……ほぼ予定通りですね」
「そう、わかったわ」
ジェイルが助手席からあたしを振り返る。
メロはあたしの隣で寝てた。……こいつ、本当にやる気ないっていうか、なんていうか。ジェイルも何とも言えない顔でメロを睨んでいた。
いずれ追い出そう。
南地区、湊アキヲ邸。
ザ・成金って感じの家だわ。まあ、実際成金と言うか、アキヲの父親が稼いでこの邸宅を建てたのよね。とりあえず金持ちだってことを分からせてやる、みたいな作りをしている。要は微妙に品がない。
アキヲ自身もその性質を受け継いでいて、とにかく金を集めることに熱心。
車を降りたところで、一人の青年が部下を引き連れて近付いてきた。
「ロゼリア様、ようこそお越しくださいました」
「……ユキヤ」
湊ユキヤ。アキヲの一人息子。
攻略対象のひとり。
淡い紫色の髪の毛、紫色の目。穏やかそうな顔立ちの爽やかお兄さん系のイケメン。
あたしはユキヤの顔をまじまじと見つめてしまった。ユキヤが不思議そうにしている。
……現物の破壊力、すごい。
正直、見た目がかなり好みで、あたしはユキヤがいるからゲームを買ったのよね。
要は推しなの、推しだったのよ。性格もかなり好きで……。
推しが目の前で動いて喋ってるってすごい……!
って、ぼーっとしてる場合じゃない!!!
「何でもないわ。久しぶりね。元気にしてた?」
「? はい、おかげさまで。……父がロゼリア様の来訪を楽しみにされてましたよ。今、中で準備をしていますので、どうぞこちらへ」
「……そう。別に今日はもてなしてくれなくてもいいんだけどね」
「いえいえ、流石にそんなわけには参りません。一同、ロゼリア様のお越しを楽しみにしておりましたので」
軽く話をしながら、ユキヤが屋敷内へと案内してくれる。
ジェイルたちもあたしの後をついてきて、ユキヤがちらりと振り返った。
「ロゼリア様、彼らは……?」
「今日はあいつらも一緒。同席させなきゃいけないの」
「……そう、ですか」
させなきゃいけない、という言い方に違和感を覚えたらしく、ユキヤが部下の一人に目配せをしていた。部下はそそくさとあたしたちから離れて行く。
多分、中にいるアキヲに「いつもと違う」って知らせてるんでしょうね。
ユキヤも例に漏れず、あたしのことをよく思ってない。
父であるアキヲと組んで南地区が犯罪に染まっていくのを歯がゆく感じているのよね。アキヲがロゼリアに迎合しちゃってるから、悶々とした日々を送っているの。
で、そこにアリスが現れるって寸法よ。
アリスとユキヤの二人は南地区にあるビルの屋上から夜景を眺めながら語らう。
『……ユキヤは、どうしたいの?』
『元に戻したいんです。……ですが、俺は力不足で何もできない……そんな自分が悔しくて……』
『──ユキヤ、安心して。わたしがきっと、あいつを、どうにかして見せるから……!』
『そんな……!』
『いいの。わたし、ずっと自分はこのままでいいのかなって疑問だった。けど、あなたを助けるために……今までの自分があったんだって、今ようやくわかったから……!』
大丈夫と笑うアリス。アリスを辛そうに見つめて手を伸ばし、華奢な身体を抱きしめるユキヤ。
そして──。
というイベントがあった。
そういやユキヤルートだと、ロゼリアを殺すっていうかトドメを刺すのはユキヤだったわ。自分の手で決着をつけるって護身用に持っていた銃でロゼリアを撃ち殺すのよ。
推しに殺されるのは、ちょっと……いや、ある意味で幸せなことかもしれないけど……(遠い目)
無理。
無理よ。
絶対無理だし嫌!
ユキヤはあたしに中身のない話題を振りながら(天気の話とか今日も素敵ですねとか最近の流行の話とか)、屋敷の中へと入り、少し入り組んだ廊下を歩く。
ジェイルとメロはあたしたちの後を大人しくついてきてる。が、メロは物珍しさにキョロキョロしていた。怪しまれるからあんまりキョロキョロするんじゃないわよ……!
と思ってたら、ジェイルがメロに小声で注意してた。よかった。
いかにもって感じの豪奢な扉の前につくと、ユキヤが扉をノックする。
「父上、ロゼリア様をお連れしました」
コーラ美味しい。