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悪女の悪あがき ~九条ロゼリアはデッドエンドを回避したい~  作者: 杏仁堂ふーこ
本編

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36.再び南地区②

「父上、ロゼリア様をお連れしました」


 前回と同じ応接室に来ると、中からアキヲが出てきてあたしを出迎えた。

 いい話だと思っているのか機嫌が良さそう。今日こそあんたに引導を渡しに来たのよ。


「ロゼリア様! わざわざご足労いただきましてありがとうございます!」

「いいのよ。大事な話だしね」

「は、ではこちらへどうぞ……ユキヤ、ご苦労だったな。戻っていいぞ」


 しっし、と追い払うように手を揺らすアキヲ。実の息子に対してこの態度ってどうなの? アキヲとユキヤが一緒にいるところってあんまり見たことないから普段がどうなのかわからない。なんか、思った以上にユキヤが心配だわ。

 ユキヤは特に気にした様子もなく、普通の顔をして一礼する。


「はい。父上。それでは……」


 そして、そのまま部屋の扉を閉めてしまった。

 ……これまで興味もなかったけど、ユキヤとアキヲの親子関係って歪だわ。

 ゲーム内ではユキヤが元々父親であるアキヲのことをよく思ってないのは表現されていたものの、どちらかと言うとロゼリアの方にユキヤの意識が向いていて、ロゼリアさえいなくなれば南地区は正常化するってストーリーになっていた。親子関係の改善については諦めたような節もあったし……。

 でもこうやって見てみると、ロゼリアはきっかけにしか過ぎなくて、案外ユキヤが苦しむ原因って言うのはアキヲの方が大きいんじゃないかしら。ストーリー上、アキヲも死ぬから親子関係もうやむやになるし。

 父親を切り捨てでも、って言ってた気持ちがちょっと理解できたかも。


 そんなことを考えながらアキヲに向かい合う。ジェイルとメロは後ろで待機。

 お茶が運ばれてきて、一通りの挨拶を済ませるや否や、あたしはジェイルに手を向けた。


「ジェイル、リストを渡して」

「はい」


 あたしの指示に従って、ジェイルが商会の買取リストを出す。それを受け取って、そのままテーブルにわざとばしっと音を立てて置いた。

 リストはアキヲから送られてきたものそのまま。

 アキヲはちょっと驚いた顔をしている。そして焦ったようにあたしとリストを見比べた。


「ロ、ロゼリア様……?」

「リストでもらった商会は全部買い取るわ」

「! それはそれは、ありが」

「けど、これはあんたに対する手切れ金代わりよ。いきなりの計画中止は悪いと思ってる。だから、諸々の費用を負担するつもりで全部買い取るのよ」


 そう言うとアキヲが目に見えて動揺した。

 アキヲが計画を進めたいように、あたしも同じ気持ちだと思っていたんでしょう。ジェイルを間に入れてやり取りをしていても、そういう意図が見え隠れしているとジェイルが言っていた。そして、その理由としてはどうやら計画中止があたしの意志ではなくて、どこかから圧力がかかったからじゃないか、と勝手に想像してしまったからとも。

 これはあたしが最初にそう誤解させるような言い方をしたことに問題がある。後になってこうやって響いてくるなんて思っても見なかったんだもの。これも自業自得。

 だから、ここではっきりあたしの意志だって伝える。


「これで計画のことは金輪際諦めて頂戴。誰に何を言われようとも、あたしに計画続行の意志はないわ。協力の意志もない」


 アキヲが息を呑む。あたしを見つめたまま、唇を震わせた。

 ……このままだとアキヲの命も危ないんだってことを伝えたくても伝えられない。「何故?」と聞かれたら、その理由をあたしは話せないし、言ったところで笑い飛ばされるだけ。「考えすぎですよ」って言われて、そのまま計画を続行してしまうに違いない。

 ユキヤのこともあるから、本当ならアキヲにも断念して欲しいのよ。

 もどかしい。


「……ロ、ロゼリア様」

「何かしら」

「計画自体は、ロゼリア様にとっても……悪いものだったとは思いませんが……」

「ホストクラブのことだけならね。でも、あんたが計画してるのはそれだけじゃないでしょ? ああもちろん、オークションやちょっと怪しい取引以外の……あんたの、もっと個人的な計画のことを言っているのよ?」


 そこまで言うとアキヲが押し黙った。ちょっと青い顔をしている。

 今回、もう一度計画は中止って伝えたら、きっと食い下がってくるだろうって言うユキヤの読みが当たった。

 アキヲは人身売買なんかの話をあたしが知らないと思ってる。だから、それを知って嫌がっているんだという風に話を持っていくと、アキヲが困るんじゃないかというのがユキヤの話だった。困るというか、それ以上食い下がれなくなる。


 案の定、あたしに裏の計画を知られているとは思わなかったようで、アキヲがそれ以上何か言う素振りは見せない。けど、何か言おうとして脳みそをフル回転させているような気配は伝わってくる。

 あたしを隠れ蓑にして悪いことをしたかったんでしょう。あたしだって隠れ蓑にされてヤバくなったら生贄にされるなんて立場は嫌に決まってるわ。


「要はあんたが信用できなくなっちゃったのよね」

「……、そ、それは」

「いいのよ、もう。あたしとあんたの計画はこれっきりだから。今後は、伯父様の代行としての役割を遂行させてもらうわ」


 アキヲは何も言わない。いや、何も言えないようだった。

 基本、アキヲには話をさせずに、こっちの話だけを進めてしまう。ちょっとでも話す時間を与えてしまうのはまずいと言うのがユキヤの談。できそうなことをつらつら繋げていっちゃうから耳を貸すなってことだったわ。……確かにアキヲは口がうまいというか、おべっかがうまいというか、相手に期待をもたせるような話し方がうまいのよね。あたしはこれまで気分良く乗せられていたわけだけど。

 何も言わないアキヲを見て、ゆっくりと立ち上がる。


「いつもの口座に振り込むからよろしく。……中止についての協力ならしたいと思うわ。限度があるけどね」


 それだけ言うとあたしは部屋を出た。

 ジェイルとメロも着いてきて、振り返らずにそのまま真っ直ぐ玄関へと向かう。


 玄関ではユキヤが待ち構えていた。恭しくあたしに頭を下げるのを見てちょっとだけ笑いそうになってしまう。やたらと他人行儀なのがわざとらしく感じられて、それがおかしかった。


「ロゼリア様、もうお帰りですか?」

「ええ、用は済んだわ」

「この後のご予定は? 本日もレストランを……」

「結構よ。このまま帰るわ」

「承知しました」


 台本を読んでる気分だわ。ユキヤもそう思っているのか、ちょっとだけ目が笑っている。

 けど、お互いに素知らぬふり。

 アキヲの配下の目があるし、あくまでも表面上は『ロゼリアはユキヤのことがそんなに好きじゃない』って感じなんだもの。『前世の私』はユキヤが推しなんだけど、『ロゼリア』はユキヤが好みじゃないのよね。だから、別に親しくしようなんて考えてなかった。ユキヤだって当然ロゼリアのことは好きじゃなかったから必要以上に近付いてこなかったもの。

 アキヲが本当に計画を中止するかどうかはともかく、一応思うように進められた。


 一歩下がるユキヤを見つめると、丁度視線が合う。

 アイコンタクトを取って、あたしはそのままユキヤの横をすり抜けた。


「ジェイル、メロ。もう帰るわ。車回してきて」

「はーい、んじゃおれが呼んでくるんで……お嬢はゆっくり来てね」


 そう言ってメロが駆けていく。その背中を見ながらゆっくりと歩けば、ジェイルがあたしの少し前を歩き、ユキヤがあたしの少し後ろを歩いた。

 ……雑談の一つもしたいところだけど、ここはアキヲの家。気軽な会話もできない。

 あたしがユキヤと協力関係にあることは知られちゃいけないし、ジェイルはこんなところで雑談に興じるタイプでもない。


 駐車スペースにつくと、既に車が待ち構えていた。車の中からメロが「早いでしょ」と笑っている。何が楽しいのかしら? って、違うわ。こいつ帰れるのが嬉しいだけだわ。

 そう思ってため息をついている間に、ジェイルが席のドアを開ける。


「お嬢様、どうぞ」

「ありがと」


 前回は確かメロが開けてくれて、ジェイルは「どうせメロがやる」って感じでさっさと助手席に乗ってた気がする。ジェイルがこんな行動するのが意外というか、本当にどうしたの? って感じよ。悪い気はしないんだけど……。

 車に乗り込むと、ジェイルがゆっくりとドアを閉めて助手席に乗り込んだ。

 あたしが窓を開けると、ユキヤがぺこりと礼をする。


「ロゼリア様、お気をつけて」

「……ええ。あんたもね」


 挨拶としてはこんなところよね。

 前回はうっかり笑顔で手を振っちゃったけど! 今回はなしで!

 挨拶を終えて窓を閉めたところで車が走り出す。実はちょっと緊張してたから、一応終わってホッとしてる。今日はこのまま戻ってもらって、もうさっさとお菓子食べて寝よう。

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