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33.下準備①

 翌日、アキヲに言っていた商会の買取リストが送られてきた。

 あいつこんなに商会持ってたんだ、って感じ。そしてリストが来たことはユキヤにも連絡をしておく。そうしたら、こないだみたいにノアを送るからコピーを持たせて欲しいってことだった。

 こっちから人を送っても良かったんだけど、どちらとも顔見知りのノアの方が良いだろうってことで話がついた。


 そして、そういう算段をつけてからジェイルがアキヲに連絡を入れる。

 アキヲに取り次いでから、あたしが電話を代わった。


「ああ、アキヲ? リスト届いたから、これから確認するわね」

『無事にお届けできてよかったです』

「買い取る商会が決まったらすぐ連絡するわ。そう時間もかからないわ。ただ、それは直接伝えたいのよね」

『! 承知しました』

「そっちに出向くから、都合の良い日を教えて頂戴。ジェイルに戻すわ。あとはジェイルと調整して」


 ジェイルと話せ、という言葉にはちょっとだけ微妙な間があった。けど、あたしがそちらに行くという話を嫌がる素振りも見せずに日程をいくつか挙げてきたらしい。買い取る商会を決めるのに数日は掛かるだろうって見込んでるから、三日後からニ週間程度の間を見て。


 アキヲがあたしのことを利用しているとして、まだ利用価値があると考えているのかしら?

 回数は少ないにしろ「もう計画には関わる気はない」ってきっぱり言ったつもりなのに、アキヲはどこか期待している節がある。「押すなよ、絶対押すなよ」と同じようなフリだと思われてる気がする。

 本意ではないというか心外だわ。


「ジェイル」

「はい、お嬢様」

「アキヲはまだあたしを利用する気よね?」


 そう問いかけてみると、ジェイルは少し黙ってしまった。

 YESともNOとも言えないって感じがしっかり伝わってくる。しばしの沈黙ののちに何とも言い辛そうに口を開いた。


「……利用できるならしたい、と考えているのではないでしょうか。ホストクラブの件などをちらつかせて計画に関わっていることにできるなら、それがアキヲ様にとっては最善でしょうね。ご自身で全ての責任を負う気はさらさらないでしょうから」

「突然の中止だったから、あたしに色々と押し付けたいのは理解できる。中止のための協力ならする気なんだけど……アキヲにその気がなさそうなのが問題だわ」


 そこで溜息をついた。

 死ぬ運命が見えていたあたしと、札束の山が見えていたアキヲでは考えが違いすぎるのよね。アキヲにも計画中止に同意してもらって、一緒に助かってほしいというのは無理な話なのかしら。……アキヲの性格が問題大アリなのは理解していても、見殺しになるような結果は、できれば避けたい。

 ……ユキヤにとっては父親だしね。

 ユキヤは「父を切り捨てでも」と言っていたけど、流石に死んでもいいってことじゃないでしょう。

 計画を中止にさえすればある程度上手く収まるとものすごく軽く考えていたけど全然そんなことなかった。


「ユキヤによると」

「うん?」

「性格的にもアキヲ様が計画を諦める確率は低いだろうとのことです。露見した時のリスクなども鑑みると今損をしてでも中止をした方が良いのは明白なのですが、まぁ、アキヲ様は諦めきれないようですね。それから、これはユキヤが話半分に聞いて欲しいと言っていましたが……」


 ジェイルがちょっと困った様子で情報を口にする。

 あたしが全然知らないだけでユキヤってかなり色々情報を集めていたのね。ゲームやってる時はあんまり気にならなかったわ。


「お嬢様が感知していない計画部分の表に出せない繋がりに問題があるのでは、とのことです。この件に関してはユキヤも詳しくは知らないようで、話せることはないと言ってました」


 つまり、『陰陽』とは別方向にヤバい組織との繋がりがあって、そっちの兼ね合いで中止が出来ないってこと? 

 いや、それってあたし関係なくない……?

 起点があたしだっただけで、そっから計画を広げてったのはアキヲなわけだし……と、いうところまで考えて、とにかく誰かに責任転嫁をしたいだけだってことに気付いて首を振った。

 「実はロゼリアには何も責任はありませんでしたー!」って結果になってくれたらどれだけ楽か……。

 人間性に問題があるから絶対そんなことはないってわかってるのにね。現実逃避したくなるわ、たまに。


「……あたしの知らないところでやっぱりこそこそ危険なことしてたのね」

「それが元々の繋がりなのか、計画の関係で得た繋がりなのかは不明です。まぁ、どちらにせよ、そこはお嬢様の責任ではありませんね。感知しようがないわけですから」


 ジェイルがそう言ってくれてほっとした。

 全く責任がないってわけじゃないにしろ、アキヲが勝手に進めたんだもんね。


「ノアは?」

「午後になるそうです。今度は途中で昼食を取らせてから向かわせるとのことです」

「……別に気にしなくてもいいのに」

「お嬢様がそう言ってもユキヤは気にしますよ。あと灰田も」


 やれやれと溜息をつくのを見て、ちょっとつまらない気持ちになってしまった。ノアにまた何かあげたかったのにな、残念だわ。とは言え、チョコとかはユウリや使用人に配っちゃったし、あげられるものがないわ。今手元にあるのはこないだメロに買ってきてもらったお菓子くらい……?

 あたしはああいうのでもう十分だけど、ノアに出すならちょっと良いものあげたいのよね。

 とは言え、ないものはしょうがない。


「じゃ、ノアが来たら教えて」

「自分が対応しますのでお嬢様は」

「いいじゃない。ノアに挨拶くらいさせてよ。癒されたいのよ」


 間に入って欲しいとは伝えたけど、ノアに挨拶くらいさせなさいよ……。知らない仲じゃないし、わざわざこっちまで来てくれるんだし……。

 むっとして言ったのが気にかかったのか、ジェイルが目を細めてあたしを見つめる。


「? 何よ」

「……。いえ、お嬢様はああいうタイプがお好きなのだなと改めて思っただけです」

「好きよ? 小動物みたいな可愛いタイプが好きなのよね、あたしは」


 裏を返すと虐めた時の反応がいいからとかそういう話にもなるんだけどバカ正直には言わない。そもそもそういうのはもうやめるって決めたんだから、気をつけなきゃ。


「小動物……」

「あんたは大型動物よね」


 ジェイルは身長も高いし、体つきもがっしりしてるから、どうみても小動物タイプじゃない。敢えて例えるなら虎とかかしら。

 何故か小動物のことで悩むのを不思議に思う。あ、ひょっとしてあたしのことをちょっとでも理解しようとしてくれてたり? そう考えるとちょっと嬉しくなっちゃうわ。……まぁ、期待して後でがっかりするのも嫌だから、そこまで興味があるわけじゃないだろうって気持ちに落ち着く。


「……もしかして、あんたも小柄に生まれたかったとか?」

「え? ”も”、とは……?」

「あたし、背が高い方でしょ? 昔はもっと小柄な感じに憧れたわ」


 そう言って自分の頭のあたりを指差す。

 あたしの身長は168cm、女子にしては高い方だわ。この世界の平均も前世と同じだしね。両親ともに背は高めだったし、伯父様も身長は高い方だから、多分遺伝なのよね。スタイルも身長についてきてる感じだから、今でこそ気にならなくなってるけど……昔、十代半ばの頃は小柄で華奢な子に嫉妬を滾らせていたものよ。

 憧れだなんて言葉を濁したけどね。本当に嫉妬して、嫌がらせみたいなことをしてた。黒歴史よ。


 ジェイルはあたしの言葉にちょっと面食らっている。それから、自分とあたしとを見比べて、軽く首を振った。

 確か、ジェイルの公式プロフィールでは身長188cmだったわね。あたしと20cmも違うのよ。アリスとは30cm以上違う。


「自分はあまり……いえ、たまに頭をぶつけたりするので不便に感じることはありますが、仕事の面では有利になることが多いので気にしたことはないですね」

「ふーん? 190近くもあると、やっぱり不便なのね。頭をぶつけるところなんて見たことないけど」

「気をつけていますので。……お嬢様が小柄な感じに憧れていたというのが信じられません」

「言うじゃない。だって、この顔にこの身長じゃ可愛い服が似合わないもの」


 肩をすくめるとジェイルがぽかんとした。それから誤魔化すように視線を背ける。


「……。まぁ、それは確かに」

「ちょっとはフォローする気ないの?」

「失礼しました。一旦これで退室します……灰田が来たらお知らせしますね」


 逃げるように出ていくジェイルを見送って、全くもうとため息をつくのだった。

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