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悪女の悪あがき ~九条ロゼリアはデッドエンドを回避したい~  作者: 杏仁堂ふーこ
本編

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30.計画書のこと②

 ジェイルは顔を背けたまま、わざとらしく咳払いをする。


「と、とにかく、計画に対するお嬢様の認識が違うのはわかりました。お嬢様の記憶頼りというのが不安でしかありませんが、」

「だから! あんたねぇ、」

「失礼しました」


 どうしても口を滑りまくらせるジェイルを睨む。ジェイルは素知らぬ顔をして、緩く首を振った。

 変わったっていうか、あたしに対してかなり言葉が雑になってきた気がする……!


 ……。……。

 あれ? でもこういう反応、ゲームの中でアリスと仲良くなった時に見せた、ような……?

 常に事務的な態度だったジェイルがアリスに対して段々と砕けた態度になって軽口も叩くようになるのよね。


 メイドとしてやってきたアリスに対して、ジェイルは「ロゼリアの世話なんて大変で可哀想」って感じで最初から同情的だった。とは言え、仕事のこともあるしアリスには最初はすごく事務的な態度で接している。それでも日常会話とかは発生するし、アリスは立場的にロゼリアの情報収集もしなきゃいけなかったから、ジェイルを始めとする攻略対象たちには積極的にコミュニケーションを取るようにゲームが設計されていた。

 屋敷を中心にマップがあって、攻略対象がどこにいるのかが一発でわかって、「誰と会う?」という選択肢がルーチンで用意されていた。当然、会う回数を重ねるごとに攻略対象からの好感度が上がっていって、一定の数値に達するごとに親愛イベントが起きて、更に仲が深まっていく。11月11日時点で条件を満たしている攻略対象のルートが開放される仕組み。ちなみに、ルート分岐条件は好感度が一番高いキャラじゃないっていうのがポイント。アリス(プレイヤー)は自分でルートを選べる。


 ルート分岐間際くらいのジェイルイベントで、

『……ジェイルさん、意地悪って言われません?』

『いや、言われないが?』

『わたしには意地悪ばっかり言うじゃないですか……!』

『まぁ、それはからかいたくなる白雪が悪いな』

『もう!』

 って会話があって、「あれ? こいつらいつの間に付き合ったの?」って頭の中が「?」で埋め尽くされたわ。普段見せないような笑顔を向けて、アリスの頭を撫でているジェイルのスチルがヤバかった。本当にヤバかった。


 とは言え、今あたしの目の前にいるジェイルは……砕けた感じというより、ひたすらふてぶてしく感じる。

 あたしはアリスじゃないから別にジェイルといい感じになりたいわけでも、ジェイルと砕けた関係になりたいわけでもない。けど、この雑な対応はちょっとイラッとくるのよね。

 そんな気持ちが滲み出ていたらしく、ジェイルはあたしの視線から逃れていった。計画書を手に取り、中を捲る。


「……アキヲ様がお嬢様の立場や名前を使って計画を進めた、という点については疑いようもないと思います。お嬢様が管理代行になられなければ、ここまでの計画は立てなかったでしょうし……」

「つまり、あたしは体よく利用されたってことね」

「言葉を選ばずに言えば仰る通りです」


 歯に衣着せぬ言い方にはカチンときたりもするけど、はっきり言ってくれてありがたい面もある。

 ここから先、どうしていくか……。

 計画の詳細と言うか、裏側についてはユキヤに調査をお願いしてみるとして……。


「そうだわ。アキヲから商会の買い取りについて連絡はあった?」

「はい、近日中にリストを送ると連絡がありました」

「……そう」


 商会の買い取りも早めに進めなきゃ。

 アキヲが勘違いしてる、っていうユキヤの情報をこのままにもしておけないわ。手を打たないと。


「ねぇ、ジェイル、もう一度アキヲに直接会って釘を差したいわ。ユキヤが何か勘違いしてるって言ってたし……」

「……それは、そうですね。なら、買い取る商会が決まったらこちらから出向きましょう。三行半を突きつけるような形で」

「これっきりよ、って言いに行くのね」

「はい」


 アキヲが計画のためにお金を使ったのは確かだろうし、それが頓挫して資金難に陥る可能性はある。どこからお金を捻出しているかどうかはさておき、それで南地区自体に問題が発生しても困るのよね。商会の買い取りはここらへんの理由にしておこう。

 とんとんとん、と机を人差し指で叩く。

 他に何かできること、忘れていることはないかしら。

 妙な沈黙を裂くように電子音が鳴った。ジェイルが慌ててポケットから携帯を取り出している。あたしのことを見るものだから、顎で携帯を示す。


「出ていいわよ」

「は、失礼します。……もしもし。……あぁ、なるほど」


 ジェイルは携帯の通話口に手を当ててあたしを見る。

 電話の邪魔をしちゃいけないと思い、何も言わずに首を傾げた。


「ユキヤです。灰田のことでお礼を言いたいそうで……」

「え? ああ、そう? 代わる?」

「はい、お願いします」


 言われて、携帯を手渡された。直接かけてくれても良かったのに、ユキヤにしてみたらやっぱりジェイルの方が話しやすいんでしょうね。

 携帯を耳に当てて目を細める。


「代わったわ、あたしよ」

『ロゼリア様、こんにちは』

「ええ、こんにちは」


 穏やかな声で挨拶をされて声を殺して笑ってしまった。こんにちは、ですって。

 元々穏やかな人間なのは知ってても、以前みたいな義務感で挨拶されてる感じはしない。


『先日はノアをもてなしてくださってありがとうございました。頂いたお菓子は全て美味しかったと、ノアがはしゃいでいまして……私が勝手に向かわせたのに、色々申し訳ございません』

「気にしないで。したくしてしたことだし、ノアがお腹空かせてたのが気になっただけから」

『私が急ぐように言ったせいですね……本当に申しわ』

「だから、気にしないでいいのよ。お菓子を食べるノアが可愛かったしね」


 言ってから、さっと血の気が引いた。

 やばい。これ、誤解されない? 「やっぱりロゼリアはノアみたいな可愛い子が欲しいんだ」って誤解されない?

 そう思って慌ててしまった。


「いや、小動物にごはんあげてる気分で、それで癒されたってだけで……変な意味じゃないのよ?!」


 ユキヤの反応がない。妙な、沈黙が……。

 ジェイルはジェイルであたしのこと驚いた顔して見てる。ペット扱いのユウリもいたから(今もいるけど)、言えば言うほどに誤解を招いてしまうんじゃないの……?

 何か言っても墓穴を掘る未来しか見えなかったので、あたしは敢えて黙った。

 すると、電話口の向こうで、ふっと笑うような気配がした。


『だ、大丈夫です。あの、ロゼリア様にそういう気がないのは……前回で十分伝わりましたので……』

「……本当?」

『はい……』


 ユキヤ、これ絶対笑うのを堪えてるわよね。

 何? 何なの? 前も思ったけど、そんな笑うようなポイントじゃなくない?

 そんなにあたしの言動が前と違うのがおかしいってこと?

 ……。……いや、おかしい、のかな。やっぱり。

 確かにいきなり怒鳴ったり手を上げたり、そういうのはなくなったけど、本質が変わってる気がしないのよね。


「……なら、いいけど」

『いえ、あの、失礼しました。今度ぜひお礼をさせてください』

「気を遣わないで。……そうそう、それとは全く別でお願いがあるんだけど……」

『はい、なんでしょうか?』


 なんか、あたしが協力すべき立場なのに頼み事ばっかりしてない?

 自分の無能っぷりが露わになって辛い。けど、放置もできない。


「計画書、助かったわ。ありがとう。で、その件でお願いがあるの。……ものすごく言い辛いんだけど、あたしの記憶にない話が計画書に載ってるのよ。あれ以外に計画がわかるものって心当たりないかしら?」

『──なるほど。ロゼリア様とお話をしてから、何となく計画書に違和感を覚えましたが……そういうことでしたか。一度調べさせてください。多分、誰かしら心当たりはあると思います』

「悪いわね、こっちが協力しなきゃいけないのに……逆に色々頼んじゃって」


 今のところ何もできてないと軽く落ち込む。

 そう思っていると、向こう側でまたユキヤが笑っている気配がした。


『お気になさらないでください。私だけだと本当に手探りになってしまうので、逆に色々と言って頂けて助かっています』

「そう、ありがとう」

『──いいえ』

「あたしからはこれくらいね。ジェイルに戻すわ」

『はい、承知しました』


 そこで携帯を耳元から離してジェイルに手渡した。ジェイルが受け取ってそのまま耳元に当てる。


「俺だ。……あぁ、リストはまだアキヲ様から来てない。来たら連絡する。一緒に確認をしたい。それと──……」


 話をしながら、ジェイルはあたしから少し距離を取った。そのまま話しててくれてよかったんだけどね。会話も漏れてきて、何の話をしているのかわかるし。目の前にいる、というのが気になったのかも。

 あたしは立ち上がって窓際に置いてあるテーブルセットへと近付いていった。ジェイルの視線があたしを追いかけていて、「?」と不思議そうにしている。


 窓際のテーブルセット。

 日当たりがいい場所に置いてあって、丸テーブルを二脚の椅子が挟んでいる。

 あたしがおやつを食べる時は大体ここ。


 その片方、あたしが普段座らない方の椅子の背もたれをトントンと叩いた。

 座って、という意味。

 けれど、ジェイルは手を持ち上げて首を振った。「いいです」ってことみたい。

 電話の邪魔をするのもよくないわね。それ以上は何もせず、ジェイルの電話を聞きながら、時間を潰した。

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