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悪女の悪あがき ~九条ロゼリアはデッドエンドを回避したい~  作者: 杏仁堂ふーこ
本編

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29.計画書のこと①

 翌日。

 ジェイルが朝からあたしの執務室にやってきた。

 意気揚々というかやる気に満ち溢れているというか、ようやくまともな食事にありつけた人間みたいだわ。仕事人間よね、ジェイルって。あたしは「やらなきゃ死ぬ」と思ってるからやってるだけで、根本的なモチベーションがジェイルとはあまりに違いすぎる。


 用意されたのは昨日ノアが持ってきた計画書のコピー(持ってきてくれた二部は一旦原本扱いで保管することになった)、それからジェイルが用意してきた何かのメモみたいなものだった。

 ジェイルは自分で用意してきたメモをあたしの執務机に置き、あたしを真っ直ぐに見つめてくる。


「お嬢様、まずはユキヤから情報の出どころや調査について話を聞きましたのでその報告から……」

「ああ、そうだわ。ジェイルに伝えるようにお願いしてたやつね」

「そうです」


 ジェイルがしっかりと頷いた。

 渡されたメモを見ると人の名前がいくつか書き込まれていて、その横にその人への評価? みたいなものが書き込まれていた。ちょっと大きめの角ばった字なのでジェイルが書き込んだんでしょうね。


「まず、ですが……アキヲ様の側近でありながら、お嬢様との計画をよく思ってなかった人間が一定数いたそうです。ユキヤそういう人間と上手く話をして計画の情報を入手していた、ということでした」

「そ、そう。まぁ、それは……ありうる話よね」


 やっぱりよく思ってない人間がいたんだ。あたしは全然気付かなかったけど!

 つまり、あたしとの計画をよく思ってなかった人間のリストってことなのかしら。ジェイルが用意してくれたこのメモ。しげしげと眺めてみるけど、心当たりのある名前はない。

 ……。考えてみれば、アキヲとばかり話をしていたし、そもそも計画をよく思ってなかった人間は話し合いの場にいたとしても積極的な発言はなかったんじゃない……?

 そう考えれば、メモにある名前に心当たりが無くて当然よね。


 地味にショックを受けつつも、ジェイルの言い回しに違和感を覚えた。

 「入手”していた”」とは……、つまり……?


「……ということは、ユキヤはもっと前から計画を知っていたし、計画書も入手していた、ということ?」

「……。はい。元々、計画をよく思ってなかった人間から定期的に情報は受け取っていた、ということでした。ユキヤの方で計画を遅延させるような妨害を多少してたそうなのですが、アキヲ様の権力の方が強いのでなかなかうまくいかなかったようですね。

そこで、お嬢様からアキヲ様に計画の中止が申し渡されて、状況は一変したという流れです。

お嬢様がユキヤに計画書を持っていないということを話した際に、手元にあるものを渡すことを決めたと……元々持っているとは言い辛かったそうです。その点は申し訳ないと言っていました」


 ジェイルは若干言いづらそうにしていた。

 っていうか、ユキヤは情報を小出しにしてくる……。まぁ、しょうがないか。

 すぐにあたしという人間は信用できないってことは承知してたはず。信用してもらえるように、あたしも協力していかないとね。


「それから、計画書の件ですが……」

「こないだちょっと言ったけど、人身売買と臓器の取引に関しては正直記憶にないのよね……」


 記憶があるのは専用のホストクラブを筆頭に違法な薬物の取引や闇オークション関連。この辺はあたし自身も興味があったのとあわよくば手を出したいという気持ちがあったから。……計画が実行されて麻〇にハマっていたかと思うと恐ろしいわ。闇オークションはただただ高価なもの、珍しいものを手に入れたいという物欲と独占欲だった、と思う。

 そういう風にあたしが楽しむ裏側で、誰かが不幸になればいいという気持ちがあったのは、否定しない。できない。

 人間的に終わっている……。


 そんな気持ちを抱えてモヤモヤしていると、よほど神妙に見えたのだろうか。ジェイルが少しだけ心配そうにあたしの顔を覗き込んできた。

 突然顔を近付けられてびっくりしてしまう。

 ジェイル、あたしの好みからはちょっと外れてるものの、やっぱり顔はいいのよ。

 精悍な顔つき、とでも言えばいいのかしらね。


「お嬢様?」

「な、んでもないわ。……まぁ、あたしが忘れてるだけって可能性もあるけど」

「……。まぁ、計画書を要らないと言ったのはお嬢様ですし、記憶になくても」

「あんた余計な一言が多いのよ」


 むっとして睨みつけると、目ががっちり合った途端に何故かジェイルがすっと離れた。

 自分で近付いてきた癖に目が合ったくらいで何なのよ。


「し、失礼しました。……とにかく、お嬢様の記憶に本当にない、ということであれば、アキヲ様独自の計画かもしれませんね。正直、地区代表でありながら、そういった犯罪行為を率先して行うというのは許しがたいのですが……」

「それはあたしも同じよね」

「……重ねて失礼いたしました」


 あたしのツッコミに対し、ジェイルが気まずそうに言う。違法は薬物の取引も、闇オークションも犯罪行為よ。専用のホストクラブは、犯罪ではないけど。

 ジェイルも要所要所で失礼というか、地味に失言があるのよね。メロほどではないにしろ、系統は似てるんじゃない? なんて言ったらジェイルはもちろん、メロもめちゃくちゃ嫌そうな顔しそう。

 ちなみに、メロは今はいない。というか、今日は休みなので、多分まだ寝てる。


「……計画書の内容、どこまでがあたしの案で、どこまでがアキヲの案なのかっていうのがわかりづらいのよね」


 計画書を持ち上げ、ペラペラと捲りながらため息をつく。

 個々の計画を見ても誰がどういう意図で、というのがわかりづらい。というか、意図的にわかりづらくされているような気がする。


「はい。と言いますか、この計画書だけを見ると、全てをお嬢様が企てたように感じてしまいます」

「企てたってあんたねぇ……否定できないけど」

「でしょう?」


 正直なジェイルを見てジト目になってしまう。ジェイルはほんの少しだけ楽しそうに笑っていた。

 何が楽しいんだか。


 まじまじと計画書を最初から眺めていくと、ジェイルの言うように「ロゼリアの指示に従って計画を立案した」という風に読み取れてしまう。

 これ、わざとそういう風に作ってる、って解釈するべきよね?

 つまり、この計画書は第三者に見せてもいいというか、第三者に見せる用ってことなんじゃない?

 そうなると、この計画書とは別に裏帳簿的な、もっとしっかりはっきり全容がわかるようなものが存在してる、と考えるべきなのかしら。いや、そうは言ってもアキヲの頭の中や、計画に賛同している人間の認識では、敢えて文書に残す理由もない、のかも……。


 うーーーん。わからない。

 ここはユキヤにもう少し調査をお願いしたいわ。


「ジェイル」

「はい、お嬢様」

「この計画書とは別に、もっと……なんていうか裏帳簿? みたいなものがあるかどうか、ユキヤに聞いてみて頂戴。これだけ読むと本当にあたしだけに責任があるようにしか思えないわ」

「承知しました。……お嬢様の認識では、計画はあくまでもアキヲ様と練っていった、ということなのでしょうか?」


 それはそれで語弊があるのよね。

 あたしは少し躊躇ってから口を開いた。


「アキヲと一緒に、というのも何か語弊があるのよね……発端は確か、あたしが伯父様に専用ホストクラブを作ってってお願いしたら断られたって愚痴だったと思う。アキヲがそこから話を広げていったって記憶なのよ……けど、記録に残ってるわけでもないから証拠なんてないの」


 気がつけばトントン拍子に計画が進んでいた。

 お膳立ては全てアキヲ。あたしは「さぁさぁどうぞ」と敷かれたレッドカーペットを我が物顔で歩いていた、という感じ。

 とは言え、そこに証拠なんてない。

 あたしの言葉を聞いたジェイルが渋い顔をした。


「……なんというか、お嬢様は本当に迂闊ですね」

「うるっさいわねぇ!」


 そんなのあたしが一番良くわかってるわよ! だから今こうして困ってるんじゃない!

 ジェイルの呆れた声と表情にイラッとしてしまった。

 けど、そんな苛立ちにもジェイルはおかしそうに笑うだけ。

 ……こいつもちょっと雰囲気変わってきたわね。

 そう思って、ジェイルのことをじーーーっと観察すると、変な顔をして顔を背けてしまった。何?

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