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悪女の悪あがき ~九条ロゼリアはデッドエンドを回避したい~  作者: 杏仁堂ふーこ
本編

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285.エピローグ①

 ホールに戻り、いの一番にシャンパンを貰った。

 それを一気に飲み干す。


「はー……」

「……お嬢様、一気飲みは危険です」

「うるさいわね。これまでずっと我慢してたんだからいいでしょ。おかわり」

「今お持ちします」


 ちょっと八つ当たりをしているのにジェイルは大人しく指示に従う。空になったグラスを受け取って代わりのシャンパンを取りに行ってしまった。

 キキとアリスはつまみになりそうな料理を持ってきてくれていて、その姿を見たらなんであたしはパーティーの場で給仕させてるんだろうという気持ちになった。さっきのジェイルにも何だか悪いことしちゃったわ。

 キキはカナッペの乗ったお皿を差し出しながら、気の毒そうな顔をした。


「ロゼリア様、……その、なんと声をかけていいか……」

「いいのよ、気にしないで。伯父様は決めたら曲げないんだし。……っていうか、キキもアリスも好きに飲んだり食べたりしていいのよ? パーティーの場でまであたしの給仕をする必要ないわ」

「いえ、お傍にいさせてください」

「わたしもご一緒ください。──ロゼリアさま、このチーズがワインに合うそうなので持ってきました!」


 どうやら気を使ってくれているらしい。何だか申し訳ないわ。かと言ってこんな心情でわざとニコニコもしていられないのよね……。あたしの控室は伯父様と扉一枚で繋がっちゃってるから戻っても伯父様がいると思うと、引っ込みづらいし……。伯父様はしばらく会場には戻ってきそうにないし……。

 ただ、伯父様はあたしの機嫌が悪くなることは想定済みだったらしい。

 パーティー会場に戻ったところで九龍会の人間があたしの誰も近付かないように見張っていてくれている。あたしは途中から伯父様の話は聞いてなかったから知らなかったんだけど、伯父様は「ロゼリアへの挨拶の場は年明けに設けるので今日は通常通りパーティーを楽しんで欲しい」と言っていたらしい。

 まぁ、それでも東、西、北の代表は挨拶に来てたけどね、流石に。そして、この三人にはあたしも挨拶をしないわけにもいかず、当たり障りのない挨拶をさっき済ませたところ。

 キキが持ってきてくれたカナッペを口に運んだところでジェイルがおかわりのシャンパンを持ってきた。ボトルごと。


「お嬢様、どうぞ」

「ありがと。あんたも好きに飲んできたら?」

「いえ、大丈夫です」

「折角のパーティーなのに」

「……お嬢様と一緒にいることが重要なので」

「ふーん?」


 話半分に聞きながら、グラスになみなみと注がれたシャンパンを半分ほど飲む。

 以前なら、こうしてジェイルとか他のイケメンに給仕をさせることに愉悦を覚えていたのに今は全然そんな気分にはならない。

 キキやアリスが持ってきてくれた食事が並ぶテーブルの上にまだ使われてないグラスを見つけると、一度自分の分のグラスを置いた。そして空のグラスを傍にいたジェイル、キキ、アリスに順に差し出す。三人ともちょっと困惑した様子だったけど何も言わずに受け取った。


「付き合って。あ、アリスはお酒は飲めるの?」

「ふ、ふつうに飲めます」

「そう。無理強いはしないけど、まぁ一杯くらい付き合って」


 言いながら、さっきジェイルが持ってきたシャンパンのボトルを手にした。まだ全然あるし、何なら追加も頼んじゃう。


「お嬢様、自分が──」

「いいからいいから。あんたも」


 そう言ってジェイルのグラスになみなみとシャンパンを注いだ。ジェイルは確かお酒強いし、これくらい飲めるわよね。キキは人並みだったはずだし、アリスは申告によれば普通らしいから、半分くらいにしておこう。戸惑う三人を半ば無視して順にシャンパンを注いでいった。

 注ぎ終わるとボトルをテーブルに置き、自分のグラスを手に取る。


「乾杯って気分じゃないんだけど、パーティーだしね。──乾杯」


 あたしのせいで三人を変な気分にしておくのも申し訳ない。

 本格始動(?)は年明けからと言っていたし、好きに飲んで食べろとも言っていたし、今日はとにかく一度全部忘れて飲もう。

 そう思い、三人に向かってグラスを向けた。

 ジェイルもキキもアリスも戸惑っていたけど、シャンパンの入ったグラスを持ち上げる。多分三人からはやりづらいだろうしと思いつつ、あたしのグラスを順番に軽く触れ合わせた。カチン、とガラスがぶつかり合う微かな音がする。

 あたしが遠慮せずにぐーっと煽るからか、三人ともそれぞれ一口ずつ飲んでいた。一口飲んだアリスが目を丸くする。


「わ、おいしい……! これ、おいしいです」

「そう? よかったわ」


 アリスが目を輝かせた。ちょっとはパーティーっぽくなってきたかしら?

 しかし、そう思ったのも一瞬のこと。アリスが何かに気付いたように表情を強張らせる。


「……はっ! これって、め、めちゃくちゃ高いんじゃ──」

「白雪、妙な詮索をするな。無粋だぞ」


 ジェイルがアリスを窘め、アリスはまたもハッとして口元を押さえていた。……この二人、結構いいコンビなんじゃない?

 とは言え、あたしは安酒は飲まないしね。ジェイルが敢えてこれを指定してきたのは想像に難くない。まぁホスト価格でウン十万、市場価格はいいとこ数万でしょ。そこまでびっくりするような価格じゃないと思う。

 キキがちびちびとグラスを口元に傾けていたけど、やがてグラスを下げてあたしを見つめてきた。


「あの、ロゼリア様」

「何?」

「……私は、あのその、応援してますから!」

「えっ」


 応援、って何の? まさか、次期会長になることを!?

 驚いていると、キキは自分の言葉が足らなかったことに気付いたらしい。ちょっと首を振ってから、もう一度口を開いた。


「ロゼリア様がご自身の望む未来に進めるように、です……! ロゼリア様は私のやりたいことを後押ししてくださったじゃないですか。だから、私もロゼリア様のやりたいことを後押しできるように……微力ながら、お力添えさせていただきたいです」

「……キキ」


 少し顔を赤くして、言葉を選びながら言うキキに感動してしまった。

 以前のあたしはキキにそりゃ酷いことをしたし、キキのやりたいことを後押ししたのはここ数ヶ月のことなのに……ここまで言ってもらえるなんて……。

 感極まり、グラスをテーブルに置いてキキを抱きしめていた。キキの手の中にあったグラスは、アリスが慌てて取り上げている。

 ぎゅーっとキキの体を抱きしめる。当然ながらキキは突然のことに身を固くしていた。


「……あたし、あんたに酷いことばっかりしたのに……ごめん、ごめんね。過去のことは許さなくてもいいから、今はただ感謝させて頂戴。

キキ、本当にありがとう。あんたのこともあたしはずっと応援してるわ。キキが美容師になったら、絶対に指名するから……」

「ロ、ロゼリア、様っ……!」


 キキが恐る恐るといった雰囲気であたしを抱きしめ返す。

 昔、お母様たちが生きていた頃──こうしてキキと抱き合うこともあったな、なんてことを今更思い出した。だって、一番身近な女の子だったんだもの。あたしがもっとまともなら、普通に友達になれていたはず。今ではあたしたちの関係は何なのかもわからなくなってしまった。

 ぎゅーっと互いに抱きしめ合っていると、ジェイルとアリスからはすごく視線を感じた。が、そんなことに構う余裕はない。

 しばらく抱き合ってから、ゆっくりとキキを離した。キキの目元がちょっとだけ赤い。


「……ロゼリア様、……私も、ありがとうございました」


 礼を言い合い、最後にお互い笑ってしまった。

 多分キキは過去のことを許したわけじゃないし、許せるわけでもないと思う。それでいいし、そうしてくれた方が良い。

 テーブルに置いたグラスを手にしてキキともう一度乾杯をしようと──。


「あー、ずるいずるい。お嬢、おれとも飲もうよぉ!」


 ……したのに、メロがやってきた。ユウリも一緒。どうやら料理を色々と選んできたらしい。二人共両手に皿を持っている。っていうか、その状態で一体どうやって料理を皿に乗せたのよ……!

 テーブルの上に料理の乗った皿を並べていく。ホテルスタッフが取り分け用の食器類を持ってきてテーブルに並べていく。


「ロゼリア様、とりあえず色々と持ってきました。ワインも追加で頼んできたので、少ししたら来ると思います」

「そ、そう。あんた、酒は飲まないでしょ? ジュースとか貰ってきた?」

「はい。飲めるなら飲みたいんですが……お付き合いできずに申し訳ございません」


 そう言ってユウリはテーブルに置いてあるオレンジジュースを指さした。

 飲めないって言ってるのに無理には進められないからしょうがないわね。飲んで倒れられても困るし。


「ユウリ、じゃあグラス持って」

「えっ。は、はい!」

「乾杯」

「か、乾杯」


 さっきみたいにグラス同士を触れ合わせてからお互いに一口飲んだ。ふっと息を吐き出したところで、今度はメロが自分の分のグラスを持って割り込んできた。


「おい、花嵜。もう少し落ち着け」

「落ち着いてますゥー。お嬢、おれとも乾杯しよ」

「はいはい。乾杯」


 メロがちょっと強めにぶつけてくるせいで中身が少しだけ溢れてしまう。思わずメロを睨んでしまう。けれど、メロは意に介さずに楽しそうにお酒をぐっと煽っていた。一気飲みしちゃってるけど、大丈夫かしら。ってあたしが言えた義理じゃないんだけど……!


「ねえ、お嬢。いっこ聞いていい?」


 グラスを軽く回して中に残っているお酒を揺らしながらメロが言う。

 聞いていいのかどうか、と迷っている風だった。あたしは何を聞きたいのかさっぱりわからなかったけれど、ユウリは想像がついているらしく、メロの横で一緒になって聞いていた。

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