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悪女の悪あがき ~九条ロゼリアはデッドエンドを回避したい~  作者: 杏仁堂ふーこ
本編

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28.オフレコ④ ~メロとユウリとキキⅡ~

「はー、言えてよかったー……」


 その夜。

 キキ、ユウリ、メロの三人はまた件の池の前に集合していた。

 キキは一仕事終わったような声を出して、池の傍にしゃがみこんで膝を抱えている。あの場でロゼリアに「やりたいこと」を申告するのは勇気がいったらしく、ぐったりしていた。


「よかったね。ロゼリア様が賛成してくれて」

「……あんなにあっさり受け入れられるとは思わなかったから、そういう意味では拍子抜けしてるわ」

「僕の時もそうだったし、反対は絶対あり得ないって思ってたよ」


 穏やかに言うユウリを見てキキはゆっくりと立ち上がった。スカートの裾を軽くはたき、ちらりと屋敷を振り返る。

 目を細めて、ロゼリアの部屋がある方向をそっと見つめた。


「前にユウリが言ってたこと、ちょっとわかったわ」


 メロはピンと来てないようだったが、ユウリは少し驚いてから「でしょう」と言いたげに笑う。

 「昔のロゼリアを思い出した」という言葉だ。

 キキは以前は全くそんな風には思わなかったし、死んだ人間が蘇ってきたような不気味さを感じていた。けれど、「いいと思うわ!」と食い気味に言ってきた姿は、幼少時のロゼリアと重なったのだ。

 幼少時もいいと思った時や賛同したい時などに意思表示をする時は食い気味だった。身を乗り出して、自分の方にずいっと近付いてきて「いいわね、それ!」と目を輝かせていたのを思い出す。

 もうすっかり忘れていた。

 というか、思い出さないようにしていた。


 ふう。と、息を吐き出して、屋敷から顔を背け、ユウリとメロを振り返る。


「……どうしても不安だけど、ちょっと信じてみようかなって思ったわ」


 そう言って笑うとユウリが仲間ができたと言わんばかりに笑った。

 が、メロは不満そうだ。


「なんかなー、おまえらはそういうけどさァ……おれは全然納得いかねー」

「メロはこれまでの素行が悪すぎたわよね」

「そうだよね。財布からお金抜いてたこととか考えたら、お咎めなしなのは好待遇だと思うよ。……というか、よく今までロゼリア様に怒られなかったよね……」


 メロの不満に対してキキもユウリも何とも言えない顔をしている。普通ならもっとロゼリアが怒ってもいいだろうに、何故かメロの手癖の悪さは見逃されていた。それが不思議でならない。

 ユウリが呆れた顔をしてメロを見つめていたが、ふと何かに気付いたような顔をして「そうか」と呟いた。


「ロゼリア様は僕のことを『ペット』って言ってたけど、案外メロの方がペットだったのかも?」

「ああ、ペットなら粗相をしてもしょうがないって感じだったのかしらね」

「粗相とか言うなよ……」


 がく、とメロが肩を落とす。

 喜怒哀楽のはっきりしているメロを見ているとどうしても微笑ましくなってしまう。ヒステリックなロゼリアも案外メロのこういうところが好ましかったのかもしれない。多少悪さをされても許せてしまうくらいには。

 だが、かと言ってそれでメロの「ずるい」という気持ちが消えるわけでもない。


「ったくさー、おまえらばっかり! いい思いして!」


 もう何度目になるかわからないメロの文句を聞きながらユウリがおかしそうに笑う。

 ユウリはここ最近雰囲気が少し変わったようだ。少し前まではもっとおどおどしていて、こうやって三人で話していても笑い方がぎこちなかった。なのに、今では自然な顔をして笑っている。

 キキがじっと見つめていることに気付いたのか、ユウリがキキを見つめ返して不思議そうに首を傾げた。


「キキ、どうしたの?」

「……ユウリ、少し明るくなったなって」

「えっ。そ、そう、かな……?」

「うん。前まではずっと怯えてる感じだったから……」


 メロも「確かに」みたいな顔をしていて、その反応は予想外だったと言わんばかりにユウリが目を見開いた。そして、自分自身を振り返るように視線を伏せて少し考えこむ。

 どうやら自覚がなかったらしい。


「……確かに、そう、かも。前までは、なんていうか……ずっとあの人が怖くて、いつ呼ばれるのかいつぶたれるのかって怯えてた。けど、今は……そういう心配や不安が薄らいで、ようやく呼吸ができるようになって、あの人のことを真っ直ぐ見れるようになった、んだと思う……」


 思い返してみれば、今日のユウリはロゼリアに対して臆することなく言葉を発していた。これまでならどもったり、挙動不審になったりするのに、テンションの上がってしまったロゼリアを上手く落ち着かせていたのを思い出す。

 これまでなら考えられないなとしみじみしてしまった。

 ひょっとしたら、自分が知らないうちに良い方向に変わっているのかも、と思う程度には心が軽い。

 これまでロゼリアの前に立つと緊張しっぱなしで、いつ手が出るかと気が気じゃなかったのだから。

 これまでユウリが一番被害が大きかったと感じているので少しでも落ち着けたならよかったと思う。友人として何の力にもなれなかったのが歯痒かった。ロゼリアが変わった、という自分たちではどうしようもない理由での平穏だったが、そこはほっとしている。


 ユウリは自分で自分の変化に納得しつつ、そっと胸を撫で下ろしていた。その様子を見て、キキもほっとする。メロは我関せずという顔をしているものの、どこかほっとしてるようだ。


「てゆーか、キキが美容系に興味あったとか知らなかった」

「言ってないもの。言える環境でもなかったし」

「昔、お嬢の髪の毛弄ってた影響?」

「……さぁ?」


 キキはメロの視線から逃れつつはぐらかす。

 そうだ、と言いたくはなかったのだ。心情的に。

 散々な目に遭わされてきたのに、自分のやりたいことの根っこにロゼリアがいるという事実を。

 ただ、昔から友人の髪の毛を弄るのが好きだった。その記憶の中にたまたまロゼリアがいるだけ、と自分に言い聞かせている。


「何でも良いんじゃないかな。それはそれ、これはこれじゃない? 僕だってあの人に邪魔をされてちゃんと勉強できなかったからって理由も確かにあるけど、邪魔をされずに高校を卒業してたとしても……やっぱり大学に行きたいって気持ちはあったと思うよ」


 ユウリがキキの戸惑いや葛藤を察したように、その話題を終わらせようとする。メロは「そんなもん?」と首を傾げていた。

 ふと、やりたいことがないことと、やりたいことがあってもできないこと、どちらが辛いのだろうと考えてしまった。とは言え、辛さの方向性が違うだろうと思い直し、キキは緩く首を振った。


 まだ何も始められてないけど、一歩進んだ気がする。

 ロゼリアの援助がなければ何も進まないのが歯がゆいものの、それでも何か変わっている。

 その変化が良いものであるようにと願いながら、二人と笑い合うのだった。

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