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悪女の悪あがき ~九条ロゼリアはデッドエンドを回避したい~  作者: 杏仁堂ふーこ
本編

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276.本邸

 昨日は結構遅くまで話しちゃったせいで朝起きるのが当然ながら遅くなった。キキやアリスは勉強や仕事があるのに悪いことをしちゃったわ……。

 遅い朝食をとったからユウリに貰った快気祝いのリストを手に部屋を出た。

 既にメロもユウリも本邸に移動しているらしい。もう昼も近いものね……。

 そこでちょっと予定を変えてアリスを探す。

 今後、キキにあまり負担がかからないようにしないといけない。

 廊下ではたきを持ったアリスを見つけて近づいていく。


「アリス、おはよう」

「あ、ロゼリアさま。おはようございます。あの、昨日は楽しかったですっ。ありがとうございました……!」


 アリスは笑顔全開でそう言い、深々と頭を下げた。ここまで感謝されるとは思わなかったわ。


「急な誘いだったから心配してたけど、楽しんでくれたようでよかったわ。寝不足だったら午後は休んでいいわよ」

「いいえっ! 仕事で三轍したこともあるのでぜんぜん大丈夫ですっ。今日はちゃん寝ますし……!」

「そ、そう。ならよかったわ」


 三轍……。あたしもオールナイトで騒いだことはあるけど意味合いが全然違うわよね、これ。『陰陽』の仕事の中で、って話だろうし。スパイやってれば徹夜で行動なんてことは当たり前、なのかもしれないわ。でも、日々悠々自適に過ごしているあたしからはそんなの考えられない。

 今後はちゃんと気遣えるようにしよう。健康的な生活を送ってもらいたいわ。そしてあたしも健康的な生活を送って長生きする。

 そんな思いを胸に秘めたところで忘れかけていた用事を思い出した。


「アリス。ちょっと付き合ってくれない?」

「えっ」

「本邸に行きたいの。ついてきてくれる?」

「もちろんです。ご一緒します!」


 アリスは迷うことなく快諾してくれた。仕事だからじゃなくて、単純にあたしの望みを叶えたいって気持ちが伝わってくる。うう、くすぐったいわ。こんな風に懐かれたことがないし、真っ直ぐにキラキラと見つめられたことがないもの。純粋さに目が溶けそう。

 ぐっと目と顔に力を入れたところで、ちょっとだけアリスがびっくりしていた。


「ろ、ロゼリア、さま……?」

「え。何?」

「……い、いえ、その……変なことを言ったのかと……」


 どうやら顔が怖くなっていたらしい。不安そうな顔をするアリスを見て慌てて手を横に振った。


「違うわ。気にしないで。と、とにかく行きましょう」

「──はい!」


 アリスについてくるように言うと「はたきだけ片付けてきます」と言ってささっと移動し、ささっと戻ってきた。

 そしてアリスを伴い、一応墨谷に本邸に行く旨を伝えておく。アリスが掃除をサボっているなんて思われたら申し訳ないしね。墨谷は当たり前のように快諾してくれて、メロとユウリの様子を見てきて欲しいとも言われた。墨谷にとっては孫みたいなものだし案外寂しいのかも。


 とりあえずそんなこんなで本邸に向かう。

 とは言っても歩いてすぐのところ。正直、アリスを連れてくるまでもなかったかもとは思ったけど、ユキヤと話がしたいのよね。伯父様に目をつけられているようだったから二人きりで話をするのはまずいかと思ってアリスを連れて行こうと思った。別に聞かれて困る話をするわけでもないし、話し辛い時はちょっとアリスに離れてもらうし……要は変な目で見られないための監視。

 あとはユウリに快気祝いの品を伝えて用意してもらうため。

 なんか今後は椿邸と本邸を行ったり来たりしなきゃいけないんだと思ったらちょっと面倒だわ……仕方ないにしても……。

 呼べばいいとも思うけど、やっぱ物理的な距離があるとちょっとだけ遠慮も気持ちが発生する。以前のあたしだったら絶対に「そんなの関係ないから早く来なさい」って相手の都合なんてお構いなしに呼びつけてただろうな……ヒトって変わるもんよね、本当に。


 敷地内をうろついている番犬たちに構って道草を食ってから本邸の敷居を跨いだ。ちなみにアリスはかなり犬に懐かれている。流石ヒロイン。

 本邸の玄関、めちゃくちゃ広いのよね。旅館かと思うわ、本当に。

 あたしは身内だから当然ながら顔パス。玄関前に警備がいたけど「ロゼリア様、おはようございます!」と快く通してくれた。

 中に入ったところで気付いた。

 ……あたし、ユキヤの部屋もユウリの部屋も知らないわ……。

 伯父様の部屋とか執務室とかとは反対側が客用の部屋だからユキヤはそっちだとは思うけど、ユウリがわからない。どういう扱いになってるのかしら?


「ロゼリアさま?」


 アリスが不思議そうに横から顔を覗き込んでくる。まさか部屋情報を知らないまま来たとは思ってないみたい。

 とは言え、知らないものは知らないし──辺りを見回すと、丁度アリスと同い年くらいのメイドが通りかかった。


「ねえ」

「え? あ、えっ。ろ、ロゼリア様?! ど、ど、ど」


 あたしの登場にめちゃくちゃ驚いている……。

 確かに入院する前は本邸には全然顔を出さなかったのよね。伯父様と距離を取りたくて、つい。まぁ今後は出入りが増えるでしょうけど。


「悪いわね。ユキヤの部屋か、ユウリの部屋、知らない?」

「は、はい! ユキヤ様のお部屋はお客様用の蓮の間になります。ユウリさんは……えぇとガロ会長のお部屋の方の離れの手前の──」

「ああ、わかったわ。持て余していた空き室ね」

「そうです。そちらをメロさんとユウリさんのために改装されています」

「なるほどね。ありがとう」


 礼を言うとメイドは頭を下げて仕事に戻っていった。

 さて、と。用事的にはユウリにリストを渡すのが先かしらね。早い方がいいって言ってたし。

 ユキヤとそこまで話し込むつもりはないけど数分で済むとも思えない。よし、ユウリの方に行こう。


「アリス、こっちよ」

「は、はい!」


 今は住んでないとは言え、それこそ幼少時は自分の庭のように歩き回っていた。どこに行っても、どの部屋に入っても怒れることはなく、本当に自由に歩き回っていた。何ならメロたちとかくれんぼをしてたことだってあるくらいなのよ。部屋の改装くらいはするでしょうけど、レイアウトなんかを大きく変えられる屋敷だとも思わない。下手に弄るとまずそうな感じもするしね。

 アリスは物珍しげにあっちこっちを見ながら歩いてくる。

 面接とかで入ったことはあっても、自由に歩き回れることはなかったはず──。アリスにも本邸の間取りを覚えて貰った方がいいかも知れないわ。

 伯父様がメインで使っている執務室、自室、寝室なんかは小さな中庭が一部面していて、周囲には別の部屋が並んでいる。その『別の部屋』がユウリたちに割り当てられている。要は伯父様の部屋に簡単に侵入できないようになっているということ。


「……な、なんか迷路みたいですね」

「そうよね。広い上に部屋がたくさんあるのよ。間取り図はないし」

「間取り図が、ない?」


 やや斜め後ろを歩くアリスが訝しげな顔をする。思わずちょっと笑ってしまった。


「あるにはあるのよ。でも誰も見たことがないの」

「……。あ、なるほど。そう、ですよね。……そっか、意図的に分かりづらくしてるんだ……」


 すぐ納得してくれて助かったわ。そう、うっかり悪意のある人間に侵入されると困るから敢えてそうしている。だから自力で覚えなきゃいけなくて……九龍会に正式に所属するにあたってまず必要になってくる知識なのよね。

 右へ左へと進んでいき、伯父様の部屋の近くまで来た。

 突き当り廊下の右手からユウリが出てくる。


「ユウリ」

「えっ?! ろ、ロゼリア様?!」

「お嬢?! ……なんだよ、アリスもいるじゃん」


 ユウリに声を掛けると、その後ろからメロが出てくる。多分部屋は隣同士なのね。当たり前と言えば当たり前。

 メロがアリスの顔を見て何故かがっかりしていたし、アリスはアリスでどこか勝ち誇ったような顔をしているし……何なのよその顔は、とツッコミたい気持ちを我慢した。

 そのまま二人に近づいていき、手にしていた冊子を差し出す。


「おはよう、ユウリ。これ、決めておいたから手配よろしく」

「よ、呼んでくだされば椿邸に行ったのに……」

「たまには本邸に入りたくなったのよ」


 ユウリは冊子を受け取りながら申し訳無さそうな顔をした。そして、メロがユウリを押しのけるようにあたしに近づいてくる。


「お嬢、おれには? おれには?」

「あんたには用事はないのよね」


 正直に言うとメロはわかりやすく落ち込んでしまった。朝から移動をして部屋の片付けまでしているからか、二人の顔にはちょっと疲れが見える。


「どう? やっていけそう?」

「大丈夫っスよ」

「……えっと、がんばります」


 いつもながら対照的な返事だわ。この場合、心配なのはメロなのよね。そう言えば下馬評最下位だっけ。

 二人の顔を見比べて、なるようになるだろうと楽観的に考える。心配しすぎてもしょうがないもの。何かあったらフォローできるようにはしておかないと……伯父様がどの程度までこの二人に求めているのかわからないし。

 ユウリへの用事が済んだので、「じゃあ」と言って立ち去る。

 メロはついて来たそうにしていたけどユウリに「部屋の片付けが先!」と言われて諦めていた。それを見たアリスがおかしそうに笑っていて、何故かメロと睨み合っていた。

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