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27.幼馴染②

 グミを半分くらい食べ終えたところで、今日はこれくらいにしておこうと袋を閉じた。さっき情けない声を上げていたメロはけろっとした様子で、あたしがグミの袋を片付けようとしているのを見て首を傾げる。


「お嬢、もう食べないんスか?」

「夕食が食べれなくなっちゃうもの」

「お菓子で腹が膨れるのって幸せじゃないっスか」

「……。あたしはそうは思わないのよね」

「ふーん、そういうもんなんスね」


 太るからと言ってもメロには響かなさそう。こいつは体重を気にするような体つきじゃないし。

 横でキキが微妙な顔をしてメロに視線を送っていた。多分、あたしと同じように体重のことを気にしてるんだと思う。

 ……キキともこういう女子トークができたはずなのよね。

 そういう機会をことごとく潰してきたのはあたしで間違いない。


 三人を引き留めて、一緒にこうしてお菓子を食べて……

 懐かしさと少しの寂しさ、そしてこれまで感じることがなかった罪悪感というものを今更自覚した。

 罪滅ぼしをしたいということはつまり罪悪感を抱えているということで、自分の気持ちはいつも遅れてやってくる。


 けど、やっぱりその罪悪感の正体も、突き詰めればデッドエンドを回避するためなんじゃない?

 悪いとは思ってる。

 なのに、それがあたしの心からの本心なのかどうか、未だに判断がつかない。そうだって言い切れない。これまでの自分自身の言動の酷さがわかっているのもあって、自分自身が信用しきれなかった。


「ねー、お嬢。今日みたいにまたおれにお使い頼む予定あるんスか?」


 軽い調子で話しかけられて少し考え込む。


「このお菓子がなくなったらね」

「またお駄賃くれる?」

「……あんたねぇ」

「だって今回のお駄賃使っちゃったし?」


 それはあんたの判断でしょうが。と、言おうとして、やめた。

 だとしても、あたしの好きなものを買ってきてくれたんだし、メロはメロで色々と我慢していることもあるんだろうし、もう少し色々聞いてあげた方が良さそう。

 ……それこそ、現状に不満を持ってあたしを突然殺すかもしれないし。あんまり考えたくないけどね。


「……?」


 あたしとメロが話をしている横で、キキが何か思い悩んだ顔をしていた。

 たまにあたしの顔を見てはちょっと考え込んで、いやいやと言いたげに首を振って……みたいなことを繰り返している。

 メロはずっと何か食べててキキの様子に気付いてないけど、ユウリは気付いているらしく正面からキキをじーっと見つめていた。ただ、キキはユウリの視線に気付かずって感じ。あたしはキキとユウリを見比べてしまって、何か声をかけた方がいいのかもう少し様子を見た方がいいのか悩んでしまう。


 あたしの横でユウリが少し考え込んでから、キキを真っ直ぐ見つめてにこりと笑いながら口を開いた。


「……キキ、どうかした? あ、トイレ?」

「ちょっ?!」

「へ? 我慢せずに行ってきたら?」

「ちが、う、わよっ!」


 ユウリの発言にぎょっとしたのはキキだけじゃなくてあたしもだった。

 まぁ、メロはいつも通りに変なツッコミしてたけど。

 キキはユウリのずれた発言のおかげ(?)で、迷いが吹っ切れたみたい。すう、はあ、と軽く深呼吸をしてから、あたしに体ごとを向けて真っ直ぐ見つめてきた。


「……あの、ロゼリア様」

「何?」

「そのう、この間……私に何かしたいことはないかって聞いてくださった件ですが、」

「!!」


 あたしの目は多分キラリと輝いた。

 聞きたくても聞けなくてモヤモヤしてたからキキから切り出してくれるのはすごく嬉しい。

 あたしだけじゃなく、メロとユウリも興味津々といった様子でキキを見つめていた。


「実は、あの……美容師というか、そういう方面に興味が、あって……」

「あー、キキって昔は暇さえあればお嬢の髪の毛弄らせてもらってたもんなー」

「メロ、ちょっと静かにしてくれない?」


 メロに黙るように言うとメロは口を尖らせてお菓子を口に放り込んでいた。

 あたしはキキの話を聞きたいのよ! あんたはすぐ口を挟んでくる……!

 キキもメロのことを軽く睨んだものの、静かになったとわかると話の続きをしはじめた。


「もちろん、九条家での……ロゼリア様付きとしての仕事はきちんとします。美容師になりたいとか、そういうお話ではなくて、……興味のあることを、きちんと学んでみたいんです」

「いいと思うわ!」


 あたしは間髪いれずに、ぐっと握りこぶしを作って胸のあたりまで持ち上げ、賛同を表明した。

 はー、やっぱりキキにもやりたいことがあったのね! よかったわ、教えてくれて。ちゃんと協力しよう。これまで酷い扱いをしちゃった分ちゃんと応援しよう、サポートもしていこう。

 気分が良くなってきて、あたしはオレンジジュースを一気飲みしてしまった。祝杯みたいなものだわ。


 キキはこんなに簡単に話が通るとは思ってもなかったのか、目を丸くしていた。


「じゃあ、学校よね! 専門学校!」

「えっ。あ、は、はい」

「決めてる?!」

「さ、流石にまだそこまでは……」

「決めたら教えて頂戴! なんかこう、入学金とかあるでしょ? あたしはお金を出すくらいしかできなさそうだけど、それくらいはサポートするわ! あ、その前に受験とかあるのかしら? 何ならユウリと一緒に勉強してていわよ!」


 あたしは無駄にウキウキしてしまい、矢継ぎ早に思いついたことをガンガン口にしてしまった。

 キキとメロがあたしの勢いに引いている。

 けど、ユウリだけはどこか落ち着いた様子で、穏やかに笑っていた。


「ロゼリア様。僕の勉強の進捗と、キキの美容学校の件はまた改めてご報告しますね。多分、キキは学校を調べるところからだと思うので……」

「あ、……え、ええ、そうね。よろしく」


 あたしを落ち着かせるようなゆったりとした口調だった。

 我に返って上品ぶって頷くとユウリが「よかった」と言いたげに笑う。


 なんか、最近ユウリがちょっと変わった……?

 前みたいにおどおどすることが少なくなって、堂々としたところを見せるようになった、気がする。周りをよく見ているのは昔からだと思うけど、なんだろう。何かあったのかしら?

 ……デ、デッドエンドの前兆と言うか、あたしを殺す覚悟ができたとかじゃ、ないわよね……?

 嫌なことを考えてしまい、思わずゾッとしてしまった。


「ユウリもキキもいいなー。やりたいことやらせてもらえてさー」


 そんなあたしになんて気付くはずもなく、メロが不満そうに口を尖らせていた。

 ユウリがこっそりため息をついている。


「……。じゃぁ、メロは何かやりたいことがあるの?」

「それは……ねーけど」

「なら、君はやっぱりロゼリア様の傍にいた方がいいんじゃない?」


 メロが「えぇ……」という顔をするのを見てキキが脇腹に肘をお見舞いし、ユウリはそれを見てニコニコと笑っていた。

 それを見て少し笑ってしまう。

 いい方向に進んでいると思いたい。

 ゲームみたいに決定的な間違いは犯してないと思いたい。


 その後、ジェイルが「お嬢様、明日のご予定ですが」と部屋に来たので、ジェイルにもこの輪に加わるように言い、怪訝そうなジェイルを見てまた笑うのだった。

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