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悪女の悪あがき ~九条ロゼリアはデッドエンドを回避したい~  作者: 杏仁堂ふーこ
本編

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266.退院①

 あたしが目覚めてから三日間、ものすごく色々な検査をされたけど何も異常がなく、医者は揃って首を傾げていた。一ヶ月も眠っていた理由が全くわからないそうだ。

 ……ただ単純に疲れてただけじゃない? って個人的には思ってるけど、まぁそれでも一ヶ月も眠るのは異常よね。

 本当に何だったのかしら?

 とは言え、あたし自身はめちゃくちゃ元気なのよね。翌日には病室のベッドの上は退屈になっちゃったし、お見舞いに来てくれたジェイルに「何でも良いから暇つぶしになるもの持ってきて」と頼んだらちょっと面食らっていた。すぐに近所の本屋で新刊を三冊買ってきてくれたので良かった。好みがわからないとかでミステリ、恋愛、歴史と店員によく売れているものを聞いて買ってきたらしい。……歴史モノってあんまり読まないなと思ってそれから手を出すことにした。

 検査の合間に読み、三日後には医者からは「問題ありません、健康そのものです」とお墨付きを貰い、四日後である十四日には退院をしても良いと言われた。

 聞けば、椿邸もあたしが目覚めてからいつでも戻れるように準備をしてくれていたそうなのでさっさと帰ることにした。……病院食にも三日で飽きたしね。


「お嬢様、明日はガロ様がお迎えに来るそうです」

「えっ? あ、そう……なの? 伯父様、忙しいんじゃない?」


 午前中には検査が全部終わっていて、午後にその報告をして──夕方にはジェイルがそんな言葉を持ってきた。


「そのはずなのですが、お嬢様の退院には絶対に付き添うと言って仕事をかなりのスピードで処理しています」

「無理してなければ良いんだけど……」


 年末だし、こないだ話してたパーティーの準備もあるだろうし、年始には王室にご挨拶に行かなきゃいけないだろうし、暇ではないのよね。間違いなく。

 あたしの方はたっぷり睡眠を取ったおかげで元気そのものなんだけど、周囲の人間はそうじゃない。特にユキヤはストレスのせいで全然食べれてなかったって聞いているから心配だわ。まぁ、ユキヤが特に酷いものの、他のみんなも心配で食が細くなってたって話なのよね。……あたしの方は食欲も問題ないから何だか申し訳ない気分。

 撃たれたとは言え健康そのもののあたしと、周囲のギャップよ……。


「そう言えば……ユキヤが本邸にいるって聞いたけど、大丈夫なの?」


 ユキヤが改めてお見舞いに来てくれた時に教えてくれたのよね。南地区にはいづらいのと恐らく自分が邪魔だろうっていう配慮、そして九龍会による保護という名目でノアと一緒に一時的に身を寄せていると話していた。ほとぼりが冷めた段階で、他領に移動するとも。

 誰かの目があるところで生活していたなら安心だわ。あんなことがあった後じゃ、一人にするのはみんな心配だっただろうし。


「ええ、問題ありません。……まぁ、昨日はガロ様に少々詰められたと言ってましたが」

「え? なんで?」

「それは──いえ、ガロ様かユキヤ本人に聞いた方が良いかと思います」


 何の話──と、不思議に思ったけどすぐに思い当たった。

 あれだわ。ユキヤがあたしに言い寄っているという噂についてに違いない。アキヲの目を欺くためだから伯父様だってそこまでムキにはならないと思うけど……ユキヤ、上手く説明してくれたかしら。

 あたしからも伯父様には説明しておこう。もうすっかり忘れたしね。


 目覚めてから、ジェイルもそうだけどメロやユウリ、キキ、ユキヤ、ハルヒト──。みんな代わる代わるお見舞いに来てくれてるのよね。

 メロ、ユウリ、キキは三人で一緒に来てくれて、メロが突然盛大に泣き出すから何事かと思ったわ。ユウリもキキも貰い泣きしちゃって収集つかなくて、病人のはずのあたしが慰めるという変な展開だったし……泣くほどだったんだ、という驚きと感慨深さがあった。そして、三人にはやっぱりちゃんと謝って、償いをしていかなければいけないという気持ちを強く持つことになった。

 退院した後、三人と個別に話す機会を作って、とにかく話をしよう。


 ユキヤとハルヒトが何故か一緒に来たのよね、そう言えば。

 この二人仲良かったっけ? と不思議に思ったものの、顔面の破壊力がすごくてどうでもよくなった。だって、推しとゲームの王子様よ? 並んだら色々とどうでもよくなるわよ。

 二人は揃って「目が覚めた時に思わず抱きしめてしまって申し訳ない」と謝罪をし、「抱きしめたことは誰にも言わないで欲しい」と半ば懇願してきた。目が覚めた時、確かに二人に抱きしめられたけど──正直、突然のことだったから抱きしめられたって実感がないのよね。そっちよりも二人が泣いていたことの方が印象的だったと言えば、二人とも恥ずかしそうにしてたのが可愛かったわ。


 病院のベッドの上は退屈だったけど、ちょっと新鮮な三日間だった。

 そして翌日。

 ジェイルが言っていた通り、伯父様が迎えに来てくれた。


「ロゼ、帰るぞ」

「はーい。ねえ、今日は伯父様だけなの?」

「そうだ。他の奴らは屋敷で待たせてる。忘れ物はねぇか?」

「ないわ、大丈夫」


 荷物らしい荷物はなく、伯父様に言われて病室を出る。伯父様が腕を差し出してくれたので、病院内だったけどまぁいいやという気分でその腕に抱きついた。

 そう言えば秘書の式見とか、普段伯父様の周りにいる護衛がいない。どうやら病院内だからということで遠慮したらしく、病院のすぐ外にあるロータリー付近にはうちの黒塗りの車がちらほらあった。

 そのうちの一台の後部座席に伯父様と一緒に乗り込む。運転は式見だった。


「式見、出してくれ」

「かしこまりました」


 すーっと静かに進む車。晴天だったのもあって気分が良かった。

 伯父様がにこにこと機嫌良さそうにあたしを見つめている。


「伯父様?」

「元気になって本当に良かったと思ってよ……。ああ、二十四日のパーティーはこないだ言った通り快気祝いも兼ねるからな。お前が倒れた後、見舞いをしたいってヤツが結構いてな……まぁ、昏睡状態だったから断ってんだ。退院が今日、ってのはそういう奴らに知らせてるからそのうち退院祝いが届くぞ」

「ふーん」


 とは言え、そこまで大した数じゃないでしょという気持ちがあった。伯父様に忖度するとしても、花がいくつか届くくらい?

 なんて気軽に考えていると運転席にいる式見がバックミラー越しにあたしを見る。


「ロゼリア様。快気祝いの品は真瀬にいくつか見繕うように指示をしています。お時間がある時にご確認ください」

「わかったわ、ありがとう」


 快気祝いか……。要は「心配かけてごめんなさい。元気になったわよ」と報告する会を兼ねる、と。まぁ退院のお祝いをいちいち述べられにきちゃ面倒くさいものね。お見舞いに来たいと言ってくれた人や、お見舞いの品を送ってくれた人に、改めてお礼を言う場、と。

 これまでそういうのに関わって来なかったからちょっと面倒ね。とは言え、色んな人に心配をかけたのは事実だからちゃんとやらないと……。


「それから、ロゼ」

「なぁに?」

「年明けからはスケジュールをいつでも調整できるようにしといてくれ」

「? しばらくのんびりしたかったから大丈夫よ。……何かあるの?」

「今はまだ言えねぇ」


 そう言って伯父様は意味ありげに笑う。

 え、何? なんかあるの? あ! ひょっとして以前話をしたちゃんと時間を取って欲しいってお願いを聞いてくれるとか!? 「明日から一週間旅行だ」って展開もあるかもしれないわ! 伯父様からのサプライス、すっごく楽しみ!

 期待が高まり、年明けからのスケジュールは空白にしておこうと心に決める。

 これからどうするかは伯父様との旅行を終えてからにしよう。うふふ、楽しみだわ。

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