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悪女の悪あがき ~九条ロゼリアはデッドエンドを回避したい~  作者: 杏仁堂ふーこ
本編

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257.所謂『断罪イベント』③

 答えないアキヲを見てため息をつく。この場で答えるなんて思ってないから良い。


「別に答えなくていいけどね。──口にするのも反吐が出そうな見返りだもの」


 ちらりとミリヤに視線をやると、びくっと肩を震わせていた。当然心当たりがあるわよね?

 ミリヤにとって邪魔な存在、ハルヒトの暗殺。

 だからこそハルヒトは椿邸から一歩も出させてもらえなかった。伯父様が厳命していたに違いない。ハルヒトもそれを察していたのか、自主的に出ようとすることはなかった。唯一出たいと言ったのはあたしがユキヤと一緒にデパートに行った時だけ。

 こうやって自分の口でアキヲの悪事を挙げていくと──それがそのままじゃないにしろ、いくつかは自分に当て嵌まっているからすごく微妙な気分。

 アキヲとミリヤを見下ろし、二人の間に自分の幻影があるような気すらした。

 余計な考えを追い払い、そろそろ良い頃合いだろうと思ってあのセリフを言おうと軽く深呼吸した。


「とにかく、あんたたちの悪事は──」

「ユキヤッ! お前は何故そちら側にいるんだ!? お前は私の味方だろう!?」


 セリフを遮られてしまった……。

 アキヲの矛先がそれまで傍観していたユキヤに向く。

 あたしの左手、座席の間に立っているユキヤは僅かに顔を顰めてこれみよがしにため息をついた。


「……父上。俺はあなたの味方じゃありませんよ。ロゼリア様の味方です」

「貴ッ様、ここまで育てて貰った恩も忘れて裏切るのか?!」


 うっ! やっぱり言った。ユキヤがダメージを受けるセリフ。

 恐る恐る視線だけをユキヤに向ける。

 ユキヤは──驚くほどに冷たい表情をして、実の父親を見下ろしていた。これまで見たことがない表情に言葉を失う。同時にゾッとしてしまった。あんな顔をするなんて思ってもみなかったし、あまりに冷たい表情だったから。


「ええ、父上。金銭的には何不自由なく育てて貰ったことは……本当に、心から感謝しています」

「そうだ! お前の教育や身の回りにどれだけ金をかけてやったと思ってるんだ! 稚児趣味にも目を瞑って、そこにいるガキを飼うことも許可してやっただろう!?

とにかく、お前は!!! 私に恩があるはずだ!! そしてそれを返す義務もな!!! そうでなければお前を育てた意味などない!!!」


 ミリヤとは別方向に最悪。あたしの位置からじゃ見えないけど、ノアが顔を真っ赤にして怒っているのが目に浮かぶようだわ。

 どこからどう見ても立派な毒親。そして、こんな親でもユキヤの心は揺れてしまっていた。吹っ切ったようなことを言っていたけど、面と向かってこんなことを言われるのはきっと辛いに違いない。

 隣にいるハルヒトがハラハラしているのが伝わってくる。さっきのミリヤのセリフも相当だけど、アキヲは実の父親だからね……。こんなことを実の親から言われたらと思うとゾッとする。少なくとも、あたしのお母様やお父様はこんなことを言う人じゃなかったから、余計に。

 何とも言えない緊張感が場を支配する。

 全員がユキヤの言葉を待っているのだ。

 計画の台本部分、混乱を避けるためにできる限りセリフや会話の邪魔をしないというルールを設定していた。絶対じゃないし、ユキヤには「我慢ができなかったら割り込む」とは伝えている。とは言え、ミリヤもアキヲも想像以上だわ。


「そうですか。不出来な息子で申し訳ございません。俺が領の内外で作った人脈を自分のものにしておいて、まだ足りないとは思いませんでした」


 ユキヤは驚くほど淡々と話す。敢えて感情を殺しているようで、あたしの不安が逆に煽られてしまう。

 もっと強く「無理するな」って言えばよかった。全部あたしがやるから、って言い切っちゃってよかったのに……もう今更だけど。


「大体、裏切るも何もあなたは俺に何も話してないでしょう。不審な金の動きなどを追いかけたら父上の不正に行き着いた──裏切る以前の話ですよ」

「き、さまッ……!」


 そこで初めてユキヤが言葉尻に嘲笑を乗せる。アキヲの表情がわかりやすく歪み、体を怒りで震わせていた。

 らしくない、本当にらしくない。ユキヤがちょっと怖い。

 こんな決断をさせるべきじゃなかった。こんな形で決着させるべきじゃなかった。

 今更ながらに後悔が襲いかかる。『陰陽』の計画が最適だったとは言え、見世物みたいにするのは間違ってた。少なくともゲームでは全ての元凶はロゼリアだったから、父親に対するユキヤの想いが少しは守られていた。けど、今のこの状態は守られるどころじゃない。

 ハラハラしていたし、ユキヤに対する後悔の念でちょっと気分が悪くなっていた。


「──ロゼリア様」


 ユキヤがいつもの穏やかな口調であたしの名を呼ぶ。

 さっきの淡々とした冷たい声とは違っていて、反応が少し遅れてしまった。


「これ以上は時間の無駄でしょう。このあたりで幕引きにしませんか」

「……そうね……」


 終わらせる以外ないのは、わかってるんだけど……スッキリしない。もちろんユキヤのことだけを切り取れば、最初からスッキリする結末ではないことはわかっていた。

 ただ、実際にユキヤとアキヲのやり取りを目の当たりにしたら、ユキヤを傷付けるだけだったんじゃないかって疑念が拭えない。

 けれど、ここでこれ以上問答を続ける事自体、ユキヤの精神衛生上よくないのは理解していた。

 実の父親であるアキヲへの感情が、あたしではどうにもならないことも。


「──湊アキヲ、そして八千世ミリヤ。あんたたちの悪事はここまでよ。大人しく捕まって頂戴」


 ゆっくりと宣言すれば、それまでステージ以外にいた『陰陽』のメンバーがさっと姿を現す。

 アキヲもミリヤもぎょっとして、周囲を見回していた。


「くそ! 何の権限があって貴様に──」

「わ、私は関係ないわッ! 大体八雲会の私に、」


 じわじわと囲まれて逃げ場を失っていく二人。二人は慌てて色々と言い募っているけど、この場では何の意味もなかった。


「うるさいわね。あたしは九条ロゼリア。九龍会の会長である九条ガロの姪よ。

そして、ここは九龍会が治める第九領──九条家の人間が自治をして何が悪いの? この領内であんたたちの企んでいた犯罪行為なんて無視できるはずないわ。言い訳は彼らにたっぷりと語って頂戴。語るだけならタダよ。……まともに取り合ってくれるかどうかは知らないけどね」


 堂々と、偉そうに、最後は笑って。

 周囲に散々言われた演技指導を心の中で繰り返しながら無心で言う。

 何度口にしても「お前が言うな」と言いたくなる。けど、ここはちゃんと言わないと決着がつけられない。


「バート、二人を捕まえて」

「はっ。──捕まえろ」


 バートに『命令』すると、彼はすぐさま頭を下げ、『陰陽』のメンバー全員に命令を下した。

 アキヲとミリヤは逃げられないと悟ったのか、大人しく捕まってくれそう。彼らは警察じゃないから手錠は持ってないようだったけど、二人の手を後ろに回させている。

 それを黙って眺めていると、ハルヒトが肘でつついてきた。


「終わったね」

「……そうね」

「長居する必要もないし、帰ろうか」

「ええ──」


 あとはバートたちに任せておけばいいでしょう。あたしたちの出番はこれで終わり。

 ハルヒトはミリヤにあんなことを言われたにも関わらずあんまり気にしてない様子だった。「じゃあどうぞ」とハルヒトが来た時と同じように腕を差し出す。帰りは別にいらない気がしたけど、まぁいいか。ここを出るまでが計画だと思えば。

 そう思い、ハルヒトの腕に手をかけた。


 ──パンッ!!!


 それは日常的に聞いたことがない音で、面白いくらいに軽い音だった。

 音とともに腹部に衝撃があり、自分の意思とは裏腹に体の力が抜けて倒れそうになる。

 何が起きたのかわからない。


「ロゼリアッ!!!」


 あたしを呼ぶ声はまるで悲鳴のよう。認識できたのはハルヒトの声だけだったけど、遠くで口々にあたしの名前を呼ぶのが聞こえた。

 倒れそうになるあたしをハルヒトが支える。

 混乱する中で視界に映ったのは、小銃を手にしたアキヲが複数人に一斉に取り押さえられるシーンだった。

 アキヲが誰かに向けて発砲したのだと理解するのと同時に腹部が燃えるように熱くなる。恐る恐る触れてみると、ぬるりとした液体の感触があった。


 撃たれた……?

 まさか──あたし、死ぬの?


 一気に不安と恐怖が襲いかかる。

 デッドエンドを回避したくてここまで来たのに結局殺される運命なのかと混乱する。不安、混乱、恐怖──それらがあたしの頭と心を支配していき、気がおかしくなりそうだった。

 けれど。

 次の瞬間には、気が狂いそうになる不安も混乱も恐怖もどこかに消える。


 視線の先にユキヤがいた。

 銃を構え、その銃口を真っ直ぐアキヲに向けているユキヤが。

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