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悪女の悪あがき ~九条ロゼリアはデッドエンドを回避したい~  作者: 杏仁堂ふーこ
本編

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251.そして、その日がやってきた

 一ヶ月という時間は結構余裕があるようでなかった。

 準備期間としては十分だったと思うんだけど、あっという間に過ぎていった。あれから何度か打ち合わせをして、万全(なのかどうかはよくわからないけど!)の準備はできたと思う。


 今日、十一月十一日。

 計画の実行日、ゲームではルート分岐日になるはずだった日。


 この日を迎えることであたしの未来はもう既に決まっているに違いない。シュレディンガーの猫みたいな気分だわ。意味合いがちょっと違うだろうけど!

 今日という日が終わった時、あたしはどんな気分を抱いているのかしら。晴れやかな気分になれているのか、はたまた後悔の念に苛まれているのか──。終わってみないとわからない。正直、早く終わらせてしまいたい……。

 はー、最近ずっと緊張してたのよね。

 今日も朝から……いや、夜、その前から──緊張しっぱなし。

 周りもそうなのか、いつからか妙な緊張感が漂っていた。

 ジェイルもメロもユウリも、ユキヤもノアも、そしてハルヒトも、きっと緊張と不安を感じていただろう。

 でも、それも今日で終わる、はず……!



◇ ◇ ◇



「ロゼリア様、お似合いです」

「そう? よかったわ。試着はしたけど不安だったのよね」


 キキに笑いかけられてホッとした。

 以前、キキとアリスに選んでもらった黒いドレスに着替えたところである。

 正装で、とは言ったもののアキヲのために気合を入れすぎるのもなんか癪だった。しかし、中途半端な格好にもできないし、椿邸のみんなには「パーティーに呼ばれたからハルヒトと一緒に行ってくる」と言っている手前、結果としては普通に気合を入れたような形になっている。

 大きな鏡を前にし、体を動かしておかしくないところがないか確認した。


「地味じゃない? 大丈夫?」

「いえ、シックなのに足元がセクシーで素敵です」

「丁度いい靴があってよかったわ。色々探してくれてありがとうね、キキ」

「とんでもないです」


 いい靴があるか心配だったけど、またしてもいつ買ったのか記憶にない靴があって助かった。

 ヒールは高めなんだけどヒール自体が太くて安定感がある。かと言ってダサくもなくて……本当にコレいつ買ったんだろう。試し履きをした時も違和感はなかったから案外特注で作ったのかしら? コレを買った時はこういうのが欲しい気分だったんだろうな……。

 無事に帰ってこれたら、今後はこういう無駄遣いは控えるようにしよう。


「外だと寒いかも知れませんが、あとはこちらを」


 そう言ってキキが淡いゴールドのショールを羽織らせてくれた。外にいるのも短時間だし、あとは車で移動だし、これでいいでしょ。

 もう一度鏡の前でくるりと回ってみる。


「よし、いいわね」

「はい。とってもお綺麗です」

「キキのおかげよ。いつもありがとう」


 振り返り、キキを見つめて笑いかけた。

 キキは驚いたように目を丸くしてから、はにかんで視線を逸らしてしまう。


「……いえ、とんでもないです。あの、今日は頑張ってください……!」


 キキは詳しい事情は知らないし、教えて欲しいとも言わなかった。それは以前話した通り、本人に知る気がないのと深く関わりたくないと思っているから。それでもキキとはちゃんとコミュニケーションが取れてると感じているので全く問題ではなかった。むしろありがたいとすら思っている。

 程よい距離感だと感じてるのよね、一応。

 ……昔もこうやって仲良く出来てれば──って今更だわ。

 悔やんでも悔やみきれないことが多くて、キキは今でこそあたしに好意的に接してくれてるけど……やっぱり心の中ではどう思ってるかわからない。

 これからはキキに頼らずに生活できるようにしなきゃ。


「ええ、頑張ってくるわ。この後はのんびりしてて頂戴」

「気をつけてくださいね……」


 ちょっとだけ心配そうに言う。

 大丈夫よ、と笑いつつも、やっぱり不安は拭えない。これで本当に終わるのかどうかって、不安に思わないわけがない。

 そこにコンコンとノックの音が響く。


「ロゼリア~、準備できた?」

「もう出るわ」

「もうすぐ出発時間だよ」


 ハルヒトの声だった。それに答えたところで、キキが足早に扉の方へと向かっていく。あたしがキキの後を追ったところでキキが扉を開けてくれた。

 誰かが息を飲む音がする。

 扉の前で待ち構えているのはハルヒトだけかと思いきや、ジェイルにメロ、ユウリの三人がいた。

 ユキヤは南地区から直接移動ってことになってるから今日は流石にこっちまで来ないのよね。二度手間になるし、椿邸まで来ちゃうと怪しまれかねないし……。

 目の前にはハルヒトがいて、あたしのことをやけに見つめていた。


「……何よ」

「えっ。あ、いや……き、綺麗だな、って……」

「そう? あんたもそのスーツ似合ってるわよ」


 珍しくどもったハルヒトを笑い、パーティー向けのデザインのスーツを眺めた。

 スーツは「当日まで秘密」とか言われていたので見るのは今日が初めてなんだけど……オシャレだわ。

 ん? これって──……。

 不審に思い、眉を寄せつつ手を伸ばした。


「ちょ、な、なに」

「あ! やっぱり! 伯父様と同じテーラーだわ。伯父様ったら……!」


 スーツに触り、襟元を見て確信した。自分が使ってるテーラーを紹介して使わせるするなんて、結構ハルヒトのこと気に入ってるのかしら? それとも面倒だっただけ? 紳士服しか扱ってないから、あたしは同じところで仕立ててもらったことないのに……。

 地味に悔しく思っていると、ハルヒトが呆れた顔をしていた。


「……何よ、その顔」

「ううん。なんでもないよ。……ガロさんがライバルなの、かなり厳しいなって思っただけ」

「誰も伯父様には勝てないわ」


 何の話をしているのかいまいちわからなかったけど、伯父様を相手にして勝てる人間なんていないと確信してる。そう思って笑うと、ハルヒトは苦笑を零すばかりだった。

 そして、ハルヒトを押しのけるようにしてメロがにょきっと生えてくる。び、びっくりした。


「お嬢! すっげー綺麗! 似合ってる! 今日がんばって!」

「え、ええ……」

「メロ! ちょっとくらい大人しくしてなよ! ロゼリア様がびっくりしてるだろ!」


 いつも通りと言えばいつも通りにユウリがメロを押さえて、後ろに引っ張っていく。二人とも普段よりちょっと良い格好をしていた。一応あたしの付き添いとして同行するという体になってるからね……。変な格好もさせられなかったのよね。服を選んでくれたのは墨谷らしくて、墨谷ってキキを含めた三人のことを孫かなんかだと思ってるフシがある、かもしれない。

 メロを引っ張るユウリと目が合う。ユウリはあたしを見て何故か顔を赤くした。


「あの、ロゼリア様」

「どうかした?」

「えっと、お、お似合いです」

「そう? ありがと。……何かあったらちゃんとフォローするのよ、あんたは」

「は、はい。大丈夫です。……たぶん」


 たぶん!? 不安になるようなこと言わないで欲しいわ……! ただでさえ不安と緊張で落ち着かないんだから、これ以上落ち着かなくさせないで欲しい。


「ロゼリア様、大丈夫です。自分が必ず傍に控えてますので」


 あたしの不安を感じ取ったのか、それまで静かにしていたジェイルが落ち着いた声で話しかけてきた。


「ならいいわ。今日はよろしく」

「はい、お任せください。──今日は一段とお綺麗ですね」

「……あんたまで。どうしたのよ、一体」


 一気に綺麗だの似合うだのと言われてちょっと困惑する。こいつらがこんなに褒めるなんてなかったじゃない? なんか怖い。

 そりゃ結果として気合を入れた装いになってるけど! 遊びに行くわけじゃないのよ? 変に褒められるせいで情緒がおかしくなりそうだわ。

 すー、はー。と、深呼吸をする。

 ぐるりと周囲を見回して、周りにいるみんなと視線を合わせた。


「じゃあ、行くわよ」

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