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悪女の悪あがき ~九条ロゼリアはデッドエンドを回避したい~  作者: 杏仁堂ふーこ
本編

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249.確認会④

「けど、やるとなったらあんたたちも手伝ってよね」


 釘を刺す意味で伝えると、ジェイル以外がきょとんとしてしまった。

 背後に大きく『きょとん』って書いてるんじゃないかってくらいにわかりやすい『きょとん』だった。

 ……こいつらはなんであたしが一から十まで全部やると思ってんの? あたしの背中を押したのはこいつらなんだから当然手伝うのがスジってもんでしょう? 若干の苛立ちをクッキーとともに胃の中に落として、口の中を潤してから再度口を開く。


「なに他人事みたいな顔してるのよ。あたし一人で全部やれるわけないんだから、アキヲからの想定質問集を作ったり、その場でさっとカンペが出せるように待機してもらうし、何なら代理で喋ったり割り込んだりしてもらうわよ。

大体、その場で会話が発生するかも知れないのはあんたたちもでしょ。ユキヤ、ハルヒト」


 そう言ってユキヤとハルヒトを指差す。

 すると、二人は一瞬固まってから互いの様子を窺うように視線を送り合っていた。何なのよ、その反応は……!


「確かにそう、ですね。私はその場にいてもおまけみたいなものなのですが……」

「ユキヤ、あんたその場で『裏切ったのか?』ってアキヲに言われたら何て言う気?」

「それは──……。……。……す、すみません、考えておきます」


 流石に咄嗟に答えは返ってこなかった。というか、この場では言い辛いことを言っちゃったわ。ちょっと反省。

 ユキヤに向けた言葉に思うところがあったらしいハルヒトがちょっと考え込んでいた。あたしはミリヤのことはほとんど知らないけど、その場で大人しく黙って捕まるような殊勝な人だとは思えない。そんなに殊勝な人種だったらハルヒトが死ぬかも知れない嫌がらせはしないと思う。

 

「……オレも考えておくね」

「ええ、そうして頂戴」

「あとハルヒト」

「うん、何?」

「あんたが多分適任なんじゃないかと思うんだけど──当日あたしをエスコートできるようにしておいて」


「えっ」


 この「えっ」という声が誰のものだったのかわからない。

 ハルヒトだったような気がするし、他の誰でもなかったような気がするし、ただ単に複数人の声が重なったのかも知れない。

 けど、この「えっ」という声のせいで、場の空気が完全に凍りついたのは間違いがなかった。

 なんで空気が凍りついたのかは不明よ。わけわかんないわ。


「お、お嬢、当日のエスコートって……な、なに……?」

「場所は小さいにしてもオークション会場よ。エスコートしてもらって中に入るのが普通でしょ? もちろん正装でね。やるからにはとことんやって、アキヲの度肝を抜きたいわけよ」


 メロが震える声で聞いてきたので、ちょっとやけっぱちに答える。

 こうなったら中途半端にはしない。着ていく服はあのドレス以上に派手にするつもりはないけど、ハルヒトのエスコートで中に入ってアキヲを唖然とさせてやるわ。あたしとハルヒトがペアで入ってきたらアキヲだけじゃなくてミリヤも驚くでしょ。先制パンチってやつね。これでその場の主導権を完全に握ってやるって寸法よ。

 エスコートに指名されたハルヒトは変な顔をしていた。口元がむにむにしてるけど、どうしたのかしら。やっぱり嫌?


「ハルくんばっかりずるくない?!」

「ちょ、メロ! やめなって……!」


 いきり立つメロを慌てて止めるユウリ。

 ずるいって何が……? 一番面倒な役じゃない……?


「ハルヒトが嫌なら、別にくじ引きとかじゃんけんで決めてもらっても構わないわよ」

「じゃあ、そうするっス」

「だから駄目だって……! ロゼリア様が言う適任って言葉の意味わかってる!?」


 メロとユウリのやり取りを眺める。

 他のみんなも同じように眺めていた。ジェイルとノアは呆れているし、ユキヤは困ったように笑っているし、ハルヒトは口元をむにむにさせたままだった。多分メロ以外はあたしが言う「適任」の意味をちゃんと捉えてる、と思う。

 やがて、ジェイルが大きくため息をついた。


「花嵜いい加減にしろ。お嬢様が指名されたんだからエスコートはハルヒトさんだ。……ハルヒトさんも問題なさそうだしな」

「えっ。あ、まぁ、うん。エスコートなんてしたことがないけど、ロゼリアがいいなら……うん、大丈夫」


 ジェイルも不満そうではあるけど納得してる。ハルヒトはなんかやけに機嫌が良くなっていた。

 しかし、メロはぶすっとしてしまってかなり不満そう。

 どうしても嫌ならエスコート役はそっちで決めてもらっても構わないんだけど、ハルヒトは乗り気っぽいから変えるのは微妙そう。


「もー、お嬢! 適任ってなんなんスか! おれでもいーじゃん!」

「……序列考えたらハルヒトさん以外ないじゃないですか。馬鹿じゃないの」

「あァ!? ノアてめー今馬鹿っつった?!」

「馬鹿に馬鹿って言って何が悪いんですか。こんなの普通に考えたらわかりますよ。次点でユキ」

「ノア、そこまでですよ」


 思わぬところ勃発する口喧嘩に呆気にとられてしまった。ノアが喋るとは思ってなかったから、反応が遅れた。

 口喧嘩が更に悪化しそうになったところでユキヤが止めに入る。ノアはハッとなって口を押さえて、ちょっと青くなっていた。可愛い。


「花嵜さん、失礼しました。ですが、ロゼリア様がお決めになったことですので……ここは穏便に」

「……わかったっスよ」


 ユキヤに言われて渋々黙るメロ。ユウリがホッとしているのが見えた。ジェイルが深くため息をついてから、周囲をぐるりと見回す。


「会場にはミリヤ様もいらっしゃるからな……九龍会と八雲会のことを考えればロゼリア様のエスコートはハルヒトさんしかいないだろう。とことんやりたいというお嬢様の意向を汲むなら、オークション会場に相応しい振る舞いも必要になる。──ハルヒトさん、正装とのことですので墨谷さんか小山内に一度見てもらってください」

「わかった。……こっちに来てから何着かスーツを仕立てて貰ったから大丈夫だと思うよ」


 あたし、ハルヒトがどんなスーツを仕立てたのかは知らないのよね。いちいちスーツを見せてもらってるわけじゃないし、そもそもスーツを仕立ててるってことも後になって知ったくらいだもの。どうやら八雲会の中ではおちおちスーツものんびり作れなかったという話らしい。

 ……どれだけ不自由な生活だったのかしら。しかもそれにミチハルさんが我関せずだったのも未だに意味不明。

 スーツを選ぶなら、キキに聞いて貰った方がいいかも。


「キキとアリサに相談して当日のドレスは決めてあるから、合わせてもらって頂戴」

「そうなんだ? ちょっと楽しみ」

「……遊びに行くんじゃないのよ」

「わかってるよ」


 にこにこと笑って答えるハルヒトがちょっと不安。なんか浮かれてるみたいだし。


 なんか、計画外のことばかり話していた気がする……。全く無関係ではないにしろ、本筋とは違う話というか……でも、これもひとえに『陰陽』の立てている計画がしっかりしてたってことよね。人員配置や警備も不足は感じられなかった。

 あとは心の準備だけ──って感じ。

 それは問題でもあるんだけど、とにかくやるしかない。

 これが終われば明るい未来が待っている、はず……!


 その後は必要に応じて集まること、気になることは随時共有することを決め、三十分程度お茶会をして解散となった。

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