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悪女の悪あがき ~九条ロゼリアはデッドエンドを回避したい~  作者: 杏仁堂ふーこ
本編

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248.確認会②

 動揺を悟られないように心の中でため息をつく。

 進行はジェイルに任せておけばよかった。こういう場を設けるのも初めてだから、その時になってから準備不足に気付くのよね。今更後悔しても遅いのは十分わかってるけど、「しまった」という気持ちは強い。

 周囲があたしの経験不足や準備不足に目を瞑って、フォローしてくれるのを期待するしかないわ。


「見解、ってほどのものじゃないんだけど……全体の内容には文句はないのよね。というか……」


 そこで一旦言葉を切った。全員の視線が集まってるから言い辛いんだけど、言っておかないと……。


「そもそもこういう計画を実行することも計画書を見ることもなかったから、正直良し悪しはよくわからないわ。色々な想定をしながら考えたけど、読んだ限りでは不安なところや不満なところはないの。『陰陽』としても失敗をしたくないみたいで、結構細かい計画になってるように感じるしね」


 正直な感想を言えばこうなる。

 普通はこんなことに関わることなんてないのよ。九龍会という枠組みの中にいて、あたしがアキヲと組んで悪さをしていたから結果的にこんなことになってるだけ。だから、かなりのイレギュラー案件だと思う。

 こんなことを言って幻滅されるかも──とはちょっと不安になったけど、そもそもあたしに対する期待値なんて大したことがないと思い出した。

 計画書から顔を上げてジェイルを見る。


「この中でこの手のことに関わったことがありそうなのってジェイルくらいなものなんだけど、あんたはどう?」

「そうですね。自分は似たような計画に関わったことがありますが、規模や相手の背景なども違うので単純な比較はできません。しかし、お嬢様の仰るように不満な点、不安な点はほとんどありませんでした」


 ジェイルの言葉にちょっと安心する。ここで「つっこみどころだらけです」なんて言われようものなら本当に困っていた。

 けど、ちょっと引っかかる。


「ほとんど、ってことは多少は不満や不安があるってこと?」

「前後の『陰陽』の動きですね。いつ、どのようにして倉庫の包囲を完了させているのか……詳細に知らせて欲しいとは思いますが、漏洩のリスクを考えると、ここに記載があるものが限界なのは、まぁ理解できます」


 確かにこの計画書というのはあたしたちの移動から、アキヲとミリヤを捉えて、あたしたちが椿邸に戻るまでの記載がメインになっている。もちろん前後のことも書いてはあるんだけど、詳細なことは書いてなかった。『陰陽』の中でのみ共有されていて、あたしたちには伝える必要はないってことらしい。そう言えば、アリスも『組織』のことは別チームがやる、みたいなことを言っていたし……まぁ、向こうにも色々と事情があるんでしょう。

 無論、ジェイルの言っている漏洩リスクのことも薄っすらと納得はできる。

 計画の内容を言い触らすような人間が周りにいるなんて考えたくないものの、万が一ということを考えれば必要以上に情報を与えるのはリスク以外の何物でもないからね。


「じゃあ、ジェイルが敢えて指摘したいような内容って特にないってこと?」

「計画自体にはありません」

「なるほど……。で、ハルヒトはどう? 何かありそうな感じだったけど……」


 さっき一番に手を上げて発言をしていたハルヒトの話題を向ける。ハルヒトは計画書を膝の上に置いて笑った。


「そうだね、計画自体には特に言いたいことはないよ。ただ──」

「ただ?」

「漠然とした不安みたいなものはあるかな」


 それは確かにあたしも感じてるけど……どうしようもなくない?

 とは言え、ハルヒトが感じてる不安とあたしの感じてる不安は多分種類が違うと思う。あたしはここで生きるか死ぬかが決まるものの、ハルヒトが感じてる不安っていうのは多分妹のリルのことも含まれている。


「ごめん、曖昧すぎたね。オレは計画それ自体よりも、計画が終わった後のことを考えたんだ。……ものすごく個人的なことなんだけど、オレは身の振り方が難しいなと思って……八雲会の中にはミリヤさんを支持する声がそれなりにあるし、オレの出自のこともあって居場所がない状態なんだ。計画が成功したとしてもすぐにどうにかなることでもないから……ここが居心地良すぎるせいもあって、ちょっとね……」


 誰も何も言えずに黙り込んでしまった。お家騒動のことなんておいそれと口が出せる問題じゃない。

 本人にもその自覚があるらしく、困ったように笑っていた。


「ただの愚痴だね、ごめん。──オレよりもユキヤの方が大変だろうに」

「いえ、そんなことは……それに一応考えているので、ご心配には及びません」


 考えている、というユキヤの言葉に一同目を丸くしてしまった。ジェイルも初耳だったらしく同じ反応をしている。

 周囲の驚きに申し訳無さを感じているっぽいユキヤが苦笑いをした。とは言え、あたし含めて興味のある話だったので視線が集中してしまい、本人は言いづらそうに続きを話しだした。


「南地区代表の後任の件は改めて選挙をするのかガロ様に指名してもらうのかは、全て内海さんと鶴田さんにお任せしています」

「えっ。君が後任じゃないの?」

「流石に犯罪を犯した現代表の息子がその座につくのはまずいでしょう。父がやったことを綺麗にしていきたい気持ちはありますが……支持は得られないと思いますし……。タイミングを見て他領に身を寄せるつもりです」


 えっ!? じゃあ、ユキヤはそのうちいなくなっちゃうの!?

 なんかショック。でも、ユキヤの言ってることもわかる。単純に犯罪者の息子だって指さされて生きてくのは辛いし、優しいユキヤのことだから自分が出ていった方が南地区のためにいいんじゃないかって思ってる。無関係です、って言い張っても信じない人は信じないしね。出ていくって話を聞くと、やっぱり寂しい……。

 って、あたしも似たようなことを計画してるのに、勝手なことを考えちゃったわ。このことを表に出さないようにしなきゃ……。


「そう。そこまで考えてるのね……えっと、戻ってこないつもりじゃ、ないわよね?」

「そうですね……ほとぼりが冷めれば戻りたいとは思います。生まれ育った土地ですし、何よりロゼリア様もいらっしゃいますしね」

「え? ああ、そう?」


 なんかよくわかんない反応しちゃったわ。その上、周囲の空気がちょっとピリッとした。

 全員の視線がユキヤに集中しているけど、当の本人は涼しい顔をしている。もう決めたことだから、って感じ。ジェイルももっと寂しがってもいいのに……そう思ってジェイルを見てみるけど、なんか不満そうな顔をしていたわ。幼馴染だし、聞かされてなかったことがショックなのかしら。

 メロとユウリは何故かジト目。ハルヒトは何か言いたげな表情をしていて、ノアはなんか黄昏れている。

 反応が色々あって、みんなが何を思ってるのかさっぱりだわ。


「ユキヤは何か計画で気になることはある?」

「いえ、大丈夫です。倉庫街や目的の倉庫のことがかなり詳細に調べ上げられていて驚いたくらいです。調査や情報収集、諜報力はかなりのものですね」

「わかったわ、ありがとう」


 よかった。計画は問題なさそう。

 目的の倉庫に行って、アキヲとミリヤに対して「あんたたちの悪事はここまでよ」と言い、そこで待機している『陰陽』のメンバーに「捕まえて頂戴」と指示をして捕まえてもらい、倉庫内を全て検めて終了。

 あたしの仕事は現地に行って、セリフを言って、終わり。周りはそれを見ているだけ。


「ねー、お嬢。セリフ考えたんスか?」

「またそれ!? この計画書通りに言うつもりよ、『あんたたちの悪事はここまでよ』『捕まえて頂戴』ってね」


 痺れを切らしたように言うメロに対して、ぺしぺしと計画書を叩きながら呆れ声を向けてしまった。

 メロは「えー」とあからさまに残念そうな声を上げるわ、何故か他のみんなも残念そうな顔をするわ……本当に何なのよ。

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