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240.計画書の余白③

 何も言えずにただ驚いていると、アリスが俯いてスカートをぎゅっと握りしめた。


「……わ、わたしが、ロゼリアさまと二人がいいって……言って、組ませてもらいました……」


 アリスはものすごく恥ずかしそうに、消え入りそうな声で言った。俯いたまま顔を赤らめて、途中でちょっとこっちを見上げてからすぐに視線を逸らすという挙動に不覚にも加虐心が唆られる。って、いやいや、ダメダメ。ほんっと根本の部分は変わってない。

 自分自身を抑えるように静かに深呼吸をしてから、アリスを見つめ直す。


「何か理由でもあるの?」

「……ロゼリアさまと二人きりでお話できる最後のチャンスだと思ったんです」

「最後……?」


 思わず繰り返してしまった。アリスは気まずそうに頷く。

 アリスがあたしの調査であったり、この計画のためであったり、要は『陰陽』の指示でメイドとしての仕事をしているのを知っている。あたしが外出すると言うと仮病を使い病欠をして変装をして追いかけてくるという徹底ぶり。

 この『計画』が終わったらアリスが去っていくというのは理解してたはずなんだけど──。

 こんなにすぐ!? ほとぼりが冷めるまでとか、落ち着いてからとかじゃないの!?

 驚きがアリスにも伝わったらしい。言いづらそうに口を開いた。


「絶対に最後というわけじゃないんですが、計画とか『陰陽』内部の兼ね合いで、すぐ次に移らないと行けない可能性があるんです。わたし個人としては次の人とか、引き継ぎとかそういうものの関係でせめて年内は、とお願いをしているんですけど……ちょっと難しそうで……」

「はぁ、色々あるのね……」


 馬鹿みたいな感想が口をついて出る。いや、それ以外なんて言えって言うのよ。『陰陽』の内部事情なんて知るわけがないし、案外人材不足なのかもしれないし、向こうには向こうの都合があると言われちゃったら、こっちも変なことは言えない。むしろ、いなくなることが決まってるなら早く言ってくれ、って言うところよね。それこそ引き継ぎの問題もあるんだから。

 南地区への移動時間がアリスとの最後の時間……そう言われちゃうと無碍にもしにくい。

 ジェイルたちをなんて言って説得しよう……。


「だから、最後になるかもしれないので、きちんとご挨拶がしたいと思ったんです。こんなタイミングなのは本当に申し訳がないと思っています。

移動の際、それぞれに『陰陽』のメンバーが同行するので、ロゼリアさまについて行くのはわたしにして欲しいとお願いをしました」


 確かにそれも計画書に書いてあったわ。同行者を最低一名は『陰陽』から出すことと、運転手と車も『陰陽』が手配するって。

 あたし個人としては異論はないんだけど……うーん。


「なるほどね……仕方がないとは思うし、あたしとしてはアリスとの時間があるのはありがたいんだけど」

「ありがとうございます、そう言っていただけて嬉しいです。──ジェイルさんたちが気にするってことが、気掛かりなんですよね?」


 それくらいは想定済みだったらしい。ジェイルはバートとの話の中でかなりずけずけ言ってたから、実質あたし一人での移動って内容に納得するかと言うときっと納得しない。

 ジェイルにとってはアリスは『陰陽』のメンバーで、多分信用ができないのよね。信用に足るような何かがあったわけじゃないから、余計に。

 あたしは元々『レドロマのヒロイン』ってことを知ってたし、デパートや南地区で助けてもらった実績がある。あとなんかやけに懐かれちゃったから、最初はめちゃくちゃ警戒してたけど今では不信感らしい不信感はない。

 ……この差よね。

 これをどうする気なんだろう。


「そうよ。ジェイルはあんたのことを……なんていうか、いまいち信用しきれないみたいだし……」

「すみません。前は、わたしもちょっとムッとして……要らない言葉を言ってしまいました……」

「まぁ、それはそれとして……あたしからも大丈夫だと伝える気だけど、多分納得はしないでしょうね」

「……ですよね」


 ゴリ押しで認めさせることができるかも知れないけど微妙なラインだわ。最悪、ジェイルが計画には賛同できないと言い兼ねない。あたしの決定を覆すようなことは言わないだろうけど、気持ちよく参加できなくなる可能性はある。

 ジェイルにも諸々納得して参加して貰いたいから、あんまりゴリ押しでこの話を進めたくはない。とは言え、かなりあたしの意志が通っちゃってるけど。


「あんたからジェイルには?」

「直接ご説明させていただくつもりです。……前に『ジェイルさんに信用してもらわなくていい』なんて言っちゃいましたけど、ロゼリアさまが信頼されている方ですので、やっぱり納得していただきたいです……。……本当に失言でした」

「吐いた唾は飲めないから、どう挽回するかを考えないといけないわね」

「はい、一度きちんと話をしてみたいと思います」


 そう言ってアリスは真面目な顔をして頷いた。一応、アリスは自分の力でなんとかする気でいるみたい。

 一旦信じてみようかな。

 何でもかんでもあたしが間に入ってフォローするのも良くないし。ジェイルだってアリスとちゃんと話す機会を持った方がいいに決まってる。

 付き合いが残り僅かだとしても。


「──わかったわ。一度話をしてみてくれる?」

「はい!」

「ジェイルがどうしても納得しないようなら教えて」

「そうならないようにがんばりますっ!」


 アリスは力いっぱい返事をし、胸の前で両手をぎゅっと握りしめていた。……かわいい。

 移動のことはアリスに任せて問題があるようなら間に入る、と。

 さて、最後の質問。ちょっと聞きづらいわね……。

 なかなか次の話題に入ろうとしないあたしを見て、アリスが不思議そうに首を傾げる。


「ロゼリアさま? ご質問、もう一つあるんですよね?」

「ええ、そうよ」

「……何か聞きづらいこと、でしょうか……?」


 聞きづらいと言えば聞きづらい。いざ言葉にすると恥ずかしいってだけで。


「こんなこと聞いて良いかわからないんだけど……」

「は、はい」


 変な反応されたら嫌ね。聞かなくてもわかるでしょ? みたいな反応や、自分に聞くなって反応が多分一番ムカつく。

 とは言え、聞かないとキキにも相談ができないし……! 変に躊躇わずに堂々と聞けばいいのよ、堂々と!

 そう自分に言い聞かせ、腕組みをして少しだけ顎を持ち上げた。


「あたしって、当日どういう格好をしてくべき?」


 当然の疑問でしょって態度で聞くと、アリスが目を丸くした。

 かと思えば、すぐにその目はキラキラと輝き、胸の前で握りこぶしを二つ作ってずいっと距離を詰めてくる。


「ドレスでかっこよく決めて欲しいですっ!!!!!!!」


 ち、力いっぱい叫ばれてしまった……。

 っていうかそれアリスの希望よね? しかもマインドが完全にメロと一緒なんだけど?

 色々と言いたいことは思い浮かんだけど、勢いに押されて直ぐに反応ができなかった。アリスが近付いてきた分、あたしはちょっと仰け反るような格好になってしまったので、腕組みを解いてアリスの肩を押した。


「あ、す、すみません。こ、興奮しちゃって……」

「……興奮するようなこと?」

「だってロゼリアさまのかっこいいところが間近で見られるんですもん。やっぱり綺麗な格好で来て欲しいです。綺麗な格好と言えばドレスですよねっ」


 本当にメロとほぼ同じっぽいわ。やっぱりくっつく可能性があるんだもの、意見は合うのね。

 でも、あたしが聞きたいのはそういうことじゃないのよ。


「確かに綺麗な格好と言えばドレスね。けど、ドレスを着て行っていい場所なの?」

「えっ? あ、えっと……」


 そこで口ごもるアリス。やんわりとした軌道修正に、ようやくまともに考え出してくれた。

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