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悪女の悪あがき ~九条ロゼリアはデッドエンドを回避したい~  作者: 杏仁堂ふーこ
本編

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233.来るその日に向けて③

『ん? 別に何もしなくていいぞ?』

「でも報いろって言ったじゃない」

『あいつらが困ってたらなんかしてやれってだけだ。後は普段通りでいい』


 まぁ、そんなもんなのかな。九龍会に入ったからと言って特別扱いをして欲しいって言われてるわけじゃないし、蚊帳の外にしないで欲しいって言われてるだけだし……今すぐどうにかする必要はなくて、落ち着いてからちゃんと相談した方が良さそうね。

 今は伯父様の了解も取れたってことで良しとしよう。


「……わかったわ。細かいことはまた今度相談させてね」

『わかった、ちゃんと時間は作る。……あの件もな』


 あたしが今その話題を出さない理由を伯父様なりに理解してるのかも。今話をしだしたらちょっとの電話じゃ済まなくて、時間がかなり取られるのはやはりネック。ちゃんと時間を取って話をした方がいいのは伯父様も認識してる。


「よろしく。じゃあ、またね。──大好きよ、伯父様」

『ああ、俺もお前を大切に想ってる。……またな』


 別れの言葉を言い合い、ピッと携帯の通話ボタンを押して伯父様との話は終了。

 ふー、と息を吐きだしてからジェイルへと視線を向ける。


「待たせて悪かったわね」

「いえ、問題ありません。……あの、よろしかったのでしょうか? 電話中に部屋に入れて頂いてしまって……」


 待つことよりも伯父様との電話を聞いてしまったことの方がジェイルには気がかりな様子。そもそも駄目なら部屋に入れないし、ジェイルも知っている話を伯父様に報告してただけなのよね……。

 よくよく考えると伯父様に向かってとは言え「大好きよ」ってセリフを聞かれたかと思うとちょっと恥ずかしいけど! それはそれ、これはこれ!

 携帯を机の上に置いてから、ノートがちゃんと閉じてあることを確認してからジェイルを手招きした。


「聞かれて困るような話じゃないもの。あんたに言われた通り、メロとユウリのことは伯父様に報告してただけよ。快諾してもらえたし、とりあえずは問題ないわ。……まぁ、却下されるどころか歓迎されるとまでは想像してなかったけど……」

「問題がないようで何よりです。ガロ様もお嬢様の決定を信頼されているようですね」

「信頼っていうか……今回はちょっと違うと思うわ」


 伯父様としては元々あの二人(ひょっとしたらキキも?)を九龍会に入れたいと考えていたらしいから、期待通りになった? って方が近い気がする。

 移動してきたジェイルが執務机の目の前に立った。

 相変わらず、あたしが座っててジェイルが立ってる状態で向き合うとジェイルからの威圧感がすごいのよね。ずううん、って感じで、見下されてる感がすごい。背が高いのとガタイが良いのが相まって普段でも存在感がある。

 あたしが呼んだわけじゃないから何か用があって来たのよね? 机に少し突っ張るような形で両手を置いて、ジェイルを見上げた。


「で。何の用だったの?」

「はい。先ほど、羽鎌田の使いだと名乗る人間が現れて、これを……」


 そう言ってジェイルは一通の封筒を机の上に置いた。

 宛名は『九条ロゼリア様へ』と書いてある。住所なんかは特に書いてないから、バートの部下が持ってきたらしい。そういえばアリスはしれっとした顔で普通にメイドとして働いているのよね。こういうパイプ役はアリスが専任かと思ってたけど、どうやら違うみたい。

 封筒を手にして、裏側を見れば『羽鎌田バート』とやけに達筆な字で署名があった。無論、住所なんかの余計な情報はない。

 封は切られているので、ジェイルが先に確認したらしい。


「確認したの?」

「はい。受け取る際に、自分が先に開けてもいいかと確認し、了解を得ました」

「ふうん。中身は何だったの?」

「アキヲ様とミリヤ様の今後のスケジュールでした」


 スケジュール……?

 怪しげなものじゃないようなので、中に入っている紙を取り出す。六枚つづりのものと三枚つづりのものがワンセットずつ。ジェイルが言っていたように片方がアキヲのもの、もう片方がミリヤのものらしかった。

 来週から十一月十一日にかけてのスケジュールが記されている。どこで何をしているのか、誰と会う予定なのかが簡潔に。

 アキヲの方は結構スケジュールが詰まっていて、休みらしい休みはないかった。計画も大詰めで最終調整のために走り回ってる感じがする。

 対して、ミリヤの方は仕事なのかプライベートなのかわからない予定ばかりだった。買い物とか会食とかパーティーとか……なんか過去のあたしのスケジュールを彷彿とさせて嫌な感じね。

 ざっと見終わったところで書類から顔を上げる。


「? 何なの、これ?」


 突然こんな情報が送られてくるとは思わなかったのでひたすら不思議。

 ジェイルは表情を変えずに、視線を書類と封筒に向けた。


「計画に正式に協力すると表明しましたので、向こうが持っている情報の共有ですね。実行は羽鎌田たちですが、お嬢様たちの協力なくしてはあり得ないので……あちらなりの誠意の一端かと思います」

「誠意、ねぇ」


 そういうものか、と納得をしておく。アキヲやミリヤのスケジュールをもらってもあたしには役立てようがないからね。外出の際にはお気をつけください、って感じだとしてももう南地区に行く予定はないし、第八領なんてもっと行く必要がない。だから、二人と鉢合わせなんてあり得ないのよね。

 とは言え、折角の情報は貰っておくに限る。

 ミリヤの方は自分のスケジュールを思い出して微妙な気持ちになるのでアキヲの方を眺める。


「アキヲ、来月に入ってから随分頻繁に倉庫街周辺に行くのね」

「……ええ。恐らくですが、オークションなどの『商品』の確認のためでしょう」


 なるほど、商品。そう言えば、その『商品』に何が含まれるのかはわからないのよね。人身売買の話もあったから、その中に人間が含まれないのを祈るばかりだけど……何ていうか『商品』の流通や出荷元(?)までは流石にあたしが探れることではない。それこそ、伯父様くらいの力がないと出所を探ったり流れを止めたりってことはできない。

 あたしは手を切ったけど──、最初に手を出したからこそ、こんなことになっているという事実はあたしに重くのしかかる。

 なんだかな……。


 とんとんと書類をまとめ、封筒にしまい直してからジェイルに差し出した。すぐに受け取るかと思いきや、何故かジェイルは書類を受け取ろうとしない。

 何かあったのかと思いきや、ジェイルは中途半端に手を持ち上げたままあたしを見つめていた。

 何? あたしの顔に何かついてる?

 怪訝に思って見つめると、ジェイルは慌てた様子で書類を受け取った。


「? 何よ、急に」

「何でも──……いえ、商品のことは、少し軽率だったなと思っただけです。お嬢様が責任を感じるかもしれないということに考えが及ばず、申し訳ございません」


 いや、実際責任がないとは言い切れないからそこはしょうがないんだけど……!? むしろ『商品』の下見という可能性に気付かないままの方が問題だったと言うか……。

 それらを説明するにはちょっと冗長になりそうだったので深追いはしないことにした。


「気にしないで。ところで、これってユキヤにも届いているのかしら?」

「まだ確認していません。お嬢様に見て頂いてから確認をしようと思いまして……」

「わかったわ。ユキヤにも同じものが届いてるならアキヲを刺激するような行動は控えるように言って頂戴。届いてなかったらコピーを渡して、同じことを伝えて頂戴」

「承知しました。コピーを取ってから、原本はお嬢様はお返しします」


 そのうちバートから計画書も来るし、その確認の時間も作らなきゃ。けど、計画書なんて眺めてもきっとあたしには何もわからないと思う。ジェイルとユキヤに丸投げしちゃおうかな……。

 ……? 話は終わったと思ったのに、ジェイルは出ていこうとしなかった。


「どうかした?」

「……ガロ様とのお電話中に入れていただけたのが、……なんというか、嬉しかったので」


 何ソレ? っていうかそんな噛みしめるように言わなくても……!

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