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232.来るその日に向けて②

 考えが百八十度変わった人間?

 なんかその中にあたしも入ってそうだけど、どういう意味だったのかしら。

 再度あたし一人になった執務室、メロに見られないようにしていたノートをもう一度開いた。


 前世の記憶を思い出してから今日まで、自分だけのメモ用として色々と書き連ねていったノート。

 読み返してみると、一番最初に前世の記憶を思い出した当時はめちゃくちゃ慌てているのが伝わってきた。文字がぐちゃぐちゃで、「!」とか「!?」とかがすごく多い。伯父様のルート以外はクリアしているもののやり込んだわけじゃないから情報に不安があったのよね。

 事あるごとに色々とメモしていって今に至る。

 前世の記憶がなかったら、ここまで来れなかった。多分ゲーム通りに死んで、いや、殺されていた。

 ……正直、誰かと結ばれるはずだったアリスには申し訳ないし、攻略キャラクターも本来ならアリスと恋に落ちるはずだったのに全くと言って良いほど接点もいい雰囲気もないまま来てしまったから本当に申し訳ないと思う。誰か紹介してあげたいけど、あたしはまともに友達がいないから紹介もできないのよね。

 そのあたりは追々考えて行こう……。


 物思いに耽っていたせいで携帯が鳴ったのに気付くのが遅れた。

 あ、伯父様だわ! 

 携帯をぱっと掴んで、通話ボタンを押した。


「伯父様?」

『おお、ロゼか? 悪ぃな、昨日は電話に出れなくてよ……今大丈夫か?』

「ええ、大丈夫よ!」


 自分でも声が弾んでいるのがわかる。伯父様に思うところはあっても、なんだかんだで伯父様が好きでしょうがないのよね。


『元気にしてるか? ジェイルはちゃんと役に立ってるか?』

「元気にしてるし、ジェイルはよくやってくれてるわ」

『そうか、よかった。……えぇと、あの件、か……?』


 伯父様が声を潜める。どこか遠慮がちで、言いづらそうな雰囲気。

 あの件っていうのは──バートというか『陰陽』の件よね。この話で電話をしてきたんだろうって思うのは当然で、ひょっとしたら伯父様は昨日、このことに答えたくなくて電話に出なかったとか? 考えすぎ? 心の準備というか色々と話をまとめてから今日かけてきた、とか?

 それは杞憂なのよね。

 色々聞きたいことはあるし、何だったら文句も言いたい。

 けど、今は聞かないつもり。

 全部が終わって、あたしがちゃんと生きていられたら──思いっきり文句を言おうと思ってる。

 今回のことだけじゃなくて、これまでのことも。

 だから今は我慢。


「バートのこと? それは今はいいの。伯父様の伝言通り、好きにやらせてもらうわ」

『お、おお……? わか、った……』


 サラッと流したからか、伯父様が驚いていた。当然それ以上は追求してくる気配はない。


「あたしが電話したのはね、メロとユウリのことなの」

『あの二人が何かしたのか?』

「何もしてないわ。……相談っていうか、報告になるのかしら……」

『おう、なんだ?』


 ここで伯父様に告げたら、あの二人は正式に九龍会所属に、なる。

 本人たちが希望したことだし、あのまま蚊帳の外に置いておくわけにもいかなかったからしょうがない、と自分に言い聞かせた。


「メロもユウリもね、九龍会に所属したいんだって。……今回の件、どうしても九龍会に所属してない二人を巻き込むわけにはいかないって話をしてたら……なら、所属したいって話になって……無下にもできないから了解したのよ。──事後報告になってごめんなさい」


 本来なら、事前に相談してから正式に二人を所属させる、というルートになる。

 けど今回はそんな時間がなかったし、メルもユウリも、その場にジェイルも「今決めろ」と迫ってきた。少なくともジェイルは伯父様への事前相談なしにあたしが決めていいと判断していたということになるから、まぁ本当に問題ないはず。いざ、言ってみると「本当に良かったのかしら?」ってなるけど!

 伯父様からすぐ返事がなくてちょっと焦った。実はまずかった!?


『……そうか。そうか! 良かったな、ロゼ!』


 焦りとは裏腹に、ものすごく上機嫌な伯父様の声が聞こえてきて驚く。しかもかなり声が大きい。

 何かを叩いているらしくバシバシという音も聞こえてくる。伯父様の笑う声に混じって「痛いです、ガロ様」と式見らしい声が聞こえてきた。

 っていうか、「良かったな」って何!? 別に良かったなんて思ってないけど!?


『あいつらのことはなぁ、俺も心配してたんだよ。いつまでもフラフラさせとくわけにもいかねぇし、かと言ってこっちが何かしてやるのも限界があるし……ユウリの大学の話があった時は、出ていっちまうのかと寂しい気持ちもあったがロゼが認めたんならしょうがねぇと思っててよ……。案外将来のことを見据えた話だったのかも知れねぇな?

まぁとにかく問題ねぇ。いや、大歓迎だ。……ロゼ、お前にも仲間ができて本当に良かった』

「……なかま」

『おう、そうだ。自分から入ってきてくれるやつは貴重だ、大切にしろよ。──ジェイルのこともな』


 仲間って言われると、なんかむず痒い。そんなつもりなかったもの。

 でもそっか。九龍会に正式に入るってことは、確かに『仲間になった』と言っても差し支えないのかもしれない。

 九龍会に限ったことじゃないけど『会』に所属するって結構仰々しい話で、普通の会社とかと違って……ちょっとヤ●ザっぽいところがあるから、簡単に抜けられなくて、ちょっとルールとか面倒なのよね。だから気が進まなかったというか……。

 けど、伯父様がこんなに喜んでくれるとは思わなかったわ。

 っていうか喜ぶこと自体想定外……。


「うん、わかったわ。……ねぇ、教えて。伯父様は二人が九龍会に入ることが、そんなに嬉しいの?」

『嬉しいぜ? 最初に連れてきた時にもう入れちまおうって思ってたんだが……まぁ、クレアが怒ってよ。この子たちの人生を他人である自分たちが勝手に決めるのか、ってそりゃあもうすげぇ勢いだった……。だからあん時は、キキもだが──引き取っただけだったんだ』

「……お母様が」

『勝手に引き取ってきたこと自体にも怒ってたしな。……まぁ、俺が考えなしだったわけだが……。それであいつらがちゃんと大人になってから聞いてみようってことで保留にしてた状態なんだよ。

今回あいつらから入りてぇって言ってくれて……俺はホッとしてる』


 そんなことが……!

 お母様は結構厳しい人だった。そんな厳しい人に育てられたのに、あたしみたいな傲慢で我儘な女が出来上がってしまって申し訳ない……。でも今はちょっとくらいはマシになってるはずだから……!

 三人が連れてこられて、紹介された時もお母様はあくまで三人をあたしにとって対等な人間として紹介した。「弟と妹だと思って大切にしなさい」って。

 けど──お母様がそのつもりでも、周りの人間はそう接しなかった。やっぱりあたしが『上』で、三人を『下』として扱っていた。だから、あたしは周囲の人間に流されて三人を自分よりも圧倒的に下の人間だと思ってしまった。表面上は『友達』として扱っていたけど、心の中では見下してたのよね……。


「そう、だったの……」

『俺に言えることはあんまりねぇが……報いてやってくれ、ロゼ』

「難しいわ、そんなの」


 ちょっと焦った声が出てしまった。

 だって、そんなの困る。あたしにはあいつらにしてやれることなんて何もない。それどころか、マイナスなことしかしてないのに。

 けど、あたしの心境などつゆ知らず、伯父様は小さく笑うだけだった。


『メロもユウリも、今のロゼを見て決めたんだろ? あんまり気にすんな』

「でも──」


 そうは言っても、と言い募ろうとしたところで、扉がノックされた。もう、誰よ! 手元に置いたままのノートを閉じて引き出しにしまう。


「お嬢様、ジェイルです」


 ジェイルだった。あたしは少し考えてから立ち上がる。

 廊下で待たせようと思ったけど別にジェイルなら伯父様との会話を聞かれても大丈夫だと思う。携帯を耳に当てたまま歩いて扉の方に向った。


「気にするなって言われても気になるのよ」

『いいんだよ、今まで通りで』


 話をしながらドアノブに手をかけて開ければ、そこにはジェイルがいつも通りの仏頂面で待っていた。電話をしているあたしを見て目を丸くする。ドアノブから手を離して、携帯を指さしてから口元に人差し指を当てる。「電話中だから静かにしてて」のジェスチャーは伝わったらしく、ジェイルは困惑した様子のまま頷いた。

 そして、手招きをして「入って」とジェスチャーをして、執務机の方に戻る。


「伯父様はそう言うけど、何かしなきゃいけないような気がして……」


 あたしが伯父様と話していると気付いたジェイルは動揺しているように見えた。何なのかしら。中途半端な位置で立ち止まってこちらを凝視していた。

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