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悪女の悪あがき ~九条ロゼリアはデッドエンドを回避したい~  作者: 杏仁堂ふーこ
本編

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228.食事会①

 バート、そしてアリスを玄関で見送って、玄関扉が閉まったタイミングで全員が緊張から開放されたようだった。「はー」と全員のため息が玄関ホールに響き渡る。

 ……墨谷たちには人材派遣の話、って言って誤魔化してるけどなんか無理がある気がする! ハルヒトやユキヤまで入っているんだもの。もう少し気の利いた言い訳を考えておかないといけないわね。

 そんなことを考えながら振り返り、玄関ホールに置いてある大きな時計を見る。


「あら、いい時間ね。お昼にしましょ」


 言いながらその場にいるメンバーを振り返った。

 十時から始まった話し合いは一時間以上も掛かっていた。十一時半を過ぎている。

 今日の話が終わったら全員で食事をしようと呼びかけていた。今回はメロもユウリも含まれている。直前に決起集会的なものをやるという案も出したけど、ジェイルに「直前だと時間が取れない場合がある」と言われて今日にしたのよね。

 食事会の提案に対してハルヒトは嬉しそうにしていたものの、ジェイルとユキヤは遠慮気味だった。メロは「やったー」って感じで、ユウリは「いいんでしょうか」とこれまた遠慮している様子だった。

 とは言え、たまにはこういう機会があってもいいと思うのよね。なかなかこんな時間も取れないし。


「食堂に行くわよ」


 ハルヒトとメロは意気揚々と移動を始めた。ジェイルは一度だけため息をついてから、仕方ないと言いたげについてくる。ユウリとユキヤ、そしてノアは「本当にいいのだろうか」という表情をしていた。

 ……メロとユウリを見たキキが嫌な顔をするくらいで、あとは別に……。キキは後でちゃんと労うし……。


 食堂に入ったところで、いい香りが漂ってくる。

 水田には「急で悪いんだけど……」と大人数で気兼ねなく食べられるものをお願いしていた。いや、本当に前日になってからお願いしちゃったから何だったらピザとかのデリバリーでいいと伝えたものの、椿邸の厨房を預かる身としてデリバリーは絶対に有り得ないと言われてしまっている。軽く地雷原に足を踏み入れてしまったみたいだったから、それ以上は言わなかったんだけど……。

 すごい。

 ピザのいい香りがしてくる。

 あたしが「ピザとかのデリバリー」なんて言っちゃったから多分対抗したんだわ。デリバリーでは味わえない本物のピザをお見せしますよ、的な……。水田の料理人のプライドを舐めていた。


 あたしは何も考えずにいつもの席に座り、ハルヒトも何も考えずにいつも通りあたしの正面に座った。

 が、食堂で食事を取ることが初めてのメンツはそうではない。適当に座って、とも言い辛いと思ってたら、キキともう一人のメイドが厨房からすすすっと出てきた。ジェイルとユキヤ、ノアの三人を最初に席に誘導してくれる。あたしの隣にはユキヤとノアが座り、ジェイルはハルヒトの隣に案内されていた。

 キキがメロとユウリに向かって「そこ座って」と指示だけ出しているのがおかしかったわ。


「お隣、失礼します」

「どうぞ。──強引に食事に誘っちゃって悪かったわね。こうでもしないと時間が取れなさそうで」

「いえいえ、むしろこういう時間を作ってくださって感謝しています。私からはなかなかお誘いできませんし……」


 並び順はあたし、ユキヤ、ノア、メロ。正面にハルヒト、ジェイル、ユウリという具合。

 本来なら上座下座の意識があってあたしとハルヒトがど真ん中になるところなんだけど、お互いにそんな意識もせずにいつも通りに端っこに座っちゃったからこうなってる。キキもわざわざ普段の席から移動させるほどじゃないと判断してくれたみたい。正解よ。

 隣に座るユキヤに話しかけていると、飲み物とサラダ、前菜が三種類セットになったものが運ばれてきた。大したものじゃなくていいと言ったのに案外最初からきっちりしたものが出てきちゃったわ……。……この先出てくるのはピザなのに。それは果たして本当に普通のピザなのかしら……?

 ユキヤは表情に変わりはないけど、ノアがちょっと心配そうにしている。本当にこんなものを食べていいのかって表情。

 ……食事の前に一言必要そう。


「──みんな、今日は朝からお疲れ様」


 全体を見回して声を張ると、全員の視線が集まった。

 あ、なんかこうやって視線が集まるのって新鮮……! っていうか、ちょっと緊張する。

 周囲にはメイドもいて、具体的な話はできないからふわっとさせておかなきゃ。


「一旦話も一区切りついたところだし、美味しいものを食べて英気を養って頂戴。水田が腕を奮ってくれてるみたいだから、期待していいわよ。

もう前菜も来てるし、遠慮なく食べてね」


 お酒も何もないし、別に何かの記念でもないから乾杯違うわね。全てが終わった時にお酒をがっつり飲みたいわ。

 言い終わったところでハルヒトがニコリと笑い、軽く手を合わせた。


「じゃあ、いただきます」


 ハルヒトの「いただきます」を皮切りに、口々に「いただきます」と言ってから食べ始める。

 あたしがあのまま「いただきます」って言うのも微妙だったからハルヒトが言ってくれて助かった。バートとの話があってから、ハルヒトもハルヒトなりに自分が『そういう立場の人間』だというのを自覚した、ような気がする。そうじゃなかったら、今日も最後にあんなことは言わなかっただろうし……。

 自覚ができるのはいいこと、よね? 無自覚に我儘を言うのはまずいし、分かってて好き放題していたあたしには何も言えないけど。


「げっ。セロリ……」


 サラダを食べていると端っこからメロの声が聞こえてきた。ほぼ全員の視線がそっちに向かう。


「セロリくらい食べなさいよ」

「いやいや、食べれないわけじゃないっスよ。好きじゃないだけで。……ノア、これいらね?」

「え、ちょ、」

「メロ、やめなさい」


 隣にいるノアに絡むメロ。呆れて咎めると、流石にそれ以上セロリを押し付けることはしなかった。ユウリが「君ねぇ」と呆れているのが見える。

 そう言えば、食事会をするのにユキヤとノアに食べ物について聞いてなかったわ。いや、食べれないものない? くらいは聞いてるけど!


「ユキヤとノアは好き嫌いない? 大丈夫?」

「ありません、大丈夫です。ね、ノア」

「は、はい、大丈夫です」


 ユキヤが笑顔で答える。……妙な圧を感じたから、ノアはこの中に苦手なものがありそう。メロと同じでセロリかしら。あたしは特別好きでもないけど嫌いでもない。けど、前世ではりょーこがセロリ嫌ってたな……。セロリの人気がないのは知ってるから苦手だと言われても驚かない。

 正面にいるハルヒトが興味深そうにユキヤとノアの二人を眺めている。


「ユキヤ。ノアとはいつも一緒に食事を取ってるの?」

「ええ、一緒に食事を取ることは多いです」

「いいよねー、誰かと一緒に食事を取るのって。オレ、ここに来るまでは一人で食事することが多くて……今日はこうやって大人数で食事を囲むことができて嬉しいよ。ユキヤ、ノア、今日はありがとうね」


 ハルヒトにお礼を言われるとは思わなかったのか、ユキヤもノアも驚いている。

 二人とも姿勢を正して「こちらこそありがとうございます」なんて言っちゃってた。ハルヒトはそんな重っ苦しい意味で言ったんじゃないと思うわ。ほら、ハルヒトも苦笑してる。


「あんまりかしこまらないで欲しいな。そう言えば、ノアは今日の話──」

「ハルヒトさん」

「っと、そっか。ごめんね」


 不特定多数の目と耳がある今ここで話をするべきじゃないと言わんばかりにジェイルがハルヒトの名を呼ぶ。ハルヒトは慌てて口を噤んでいた。


「いえ、大丈夫です。ノアには今日の帰りにでも話をしますので……」

「……そっか。よかったね、ノア」


 ユキヤが上手く誤魔化して笑っていた。

 それを聞いたハルヒトが目を細めてノアに笑いかける。ノアは気恥ずかしそうに静かに頷いていた。

 ……かわいい。

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