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悪女の悪あがき ~九条ロゼリアはデッドエンドを回避したい~  作者: 杏仁堂ふーこ
本編

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227.ルート確定④

 ハルヒトの発言に室内にいる全員が驚いていて、視線がハルヒトに集中している。

 隣に座っているユキヤが思わず、と言った様子で腰を浮かしていた。


「ハ、ハルヒトさん、私のことは──」

「いいや。そういうわけにはいかない。……バートさん、あなたはユキヤのことを軽んじているよね?」


 ユキヤの言葉を視線を遮り、ハルヒトが強く発言する。

 あの夜だけでハルヒトとの話は終わらせていて、他に話す時間を特に持たなかった。しまった、もう一回くらいハルヒトに話を聞くべきだったわ。ハルヒトの言葉に異論はないんだけど、打ち合わせ外の話を持ち出されるとは思ってなかった。ずっと黙っていてもらうつもりだったし、バートから「何かありますか?」と聞かれても答えることを想定してない。

 ちゃんと事前に聞いていれば気の利いたフォローができたのに。しっかり打ち合わせて話し合いに臨むって大事なのね。ジェイルとしか細かいことは話してなかったわ。

 あたしのそんな気持ちとは裏腹にハルヒトはバートを静かに睨んでいる。バートは何とも言えない曖昧な笑みを浮かべていた。


「決してそんなことはございません」

「この件で一番被害を被るのはアキヲさんの実子であるユキヤのはず。……オレとしては、彼の名誉や身の安全は守られて欲しい」

「ハルヒト様のお気持ち──いえ、ご友人を想うお気持ちはよくわかりました。最善を尽くさせていただきます」


 バートが笑顔のまま頷く。……イマイチ信用できる言い方じゃないわね、今の。ハルヒトもそう感じたのか、胡散臭そうにバートを見つめていた。

 ハルヒトがユキヤのことを心配するのは意外だわ。二人の間に全く接点がないわけではない。あたしとユキヤが買い物に行った帰りはユキヤの車で帰ってきたと言っていたし、変な話だけどバートが話を持ってきた時から共通の話題の中にいたのよね。……その中で何か思うところがあったのかしら。父親に迷惑をかけられている、という境遇はよく似ていて、ユキヤは明確に抵抗しているのと、ハルヒトは流されつつのらりくらり躱しているって違いはあるけど。

 自分のことだから、ユキヤは流石に何も言えないみたい。

 まぁ、バートに向かって「気にしないでください」なんて言えばハルヒトの気遣いを無視することになるし、かと言って「お願いします」というのもユキヤの立場や性格上言えないに決まっている。

 後ろの三人に至っては口を挟もうにも挟みづらい話題。

 と、なると……あたしが言うしかない。あたしだってユキヤへの配慮をして欲しいもの。

 じっとバートを見つめると気まずそうにあたしを見て、あやふやな笑みを浮かべた。あたしはにこりと笑って見せる。


「あたしからもお願いね。間違ってもユキヤが後ろ指さされるようなことがないようにして頂戴」

「しょ、承知いたしました」


 笑顔のままで言うと、バートは冷や汗でもかいてそうな表情で頷いた。

 バートの中の優先順位は、あたし>ハルヒト>ユキヤ、で間違いなさそう。しかも三人の間の優先順位にはかなりの差がある。伯父様の影響力なんかが関係しているのはなんとなく想像がつく。

 ハルヒトやユキヤが軽く見られているのは面白くないけど、あたしはあたしの立場や伯父様の影響力を使うだけだわ。


「あんた、あたしとユキヤが『契約』したことは知ってるんでしょう? その結果、ユキヤの名誉が傷付いたり、危険があったりしたら……あたしの信用問題にも繋がるのよね。もちろんアフターケアもバッチリよね? 伯父様にも期待してるって言われてるし……まさか、話を持ってきたあんたたちが期待を裏切ることはしないわよねぇ?」


 語尾を上げて言ってやる。バートは笑顔を崩すことはしなかったけど、やはり冷や汗が見えた。

 横でハルヒトが少し笑っている。あたしがここまで言うとは思わなかったと言わんばかりだわ。対してユキヤは申し訳無さそうにしていた。別に気にしなくてもいいのに。

 ふとアリスを見ると、アリスの口元がニマニマしていた。……あんたはバート側の人間でしょうが、わかりやすくニヤつくんじゃない!

 バートがきちんと返事を寄越さない内にユキヤを見る。


「ユキヤは? 何かあれば今のうちに言っておきなさいよ」


 促すと、ユキヤは静かに首を振った。眉を下げて困り笑いを浮かべている。


「いえ、私からは特に何も……。ハルヒトさんとロゼリア様のご厚意に感謝いたします」


 流石にユキヤからはもう何も言えないらしい。ハルヒトが何も言わなくてもユキヤからは何も言わなかったでしょうね。

 相当な覚悟を持ってこの件に臨んでいるから、アキヲが罰された時に自分自身が非難を浴びることは織り込み済みだったんだと思う。父親が悪事に手を染めていて、その息子が一切何も知らなかった──というのは、信じてもらえないだろうから。父親を糾弾する側になってもユキヤに何らかの非難や苦言があるのは想像に難くない。

 それはしょうがないにしても、ハルヒトはそれを最小限にしてくれと言っている。もちろんあたしもそれには賛成。

 ……元々はあたしのやらかしが原因だからね! 本来ならあたしから念押しをするところをハルヒトが言ってくれたという図の方が正しい。

 やがて、黙り込んでいたバートが諦めたように笑った。


「ユキヤ様のことは考えていたつもりですが……もう一度考えさせていただきます。ユキヤ様が今後憂いなく歩んでいけるように……」

「ええ、そうして頂戴」

「そうだね。期待してるよ」


 あたしとハルヒトの言葉を聞いたバートはあやふやなまま笑って頷いた。

 思い出したようにお茶に手を伸ばせば既に温くなっている。まぁ置きっぱなしだったからしょうがないわね。一口飲んでからカップを静かに下げた。


「──さて、と。条件付きであんたたちの計画に協力する、という回答はしたわ。これでいいわね?」

「はい、問題ございません。ご協力ありがとうございます」

「今後の予定は?」

「計画の内容が固まり次第、共有させていただきます。ご不安な点やご意見を伺った上で調整はいたしますが、時間もあまりなく、相手方のスケジュールなどに左右される部分がございます。全てのご要望をお受けできるかわかりませんので、その点だけはご容赦ください」


 そう言ってバートは頭を下げた。今日何度目かしら。大変ね。

 あたしは頷きかけ──たところで、ジェイルの存在を思い出して、ジェイルを振り返った。ジェイルは「仕方がないです」と言わんばかりに頷いていた。ハルヒトとユキヤを見ても同じように頷いている。

 必要な意思確認を済ませてからバートを見た。


「わかったわ。まぁ、しょうがないわね」

「ありがとうございます。……お茶をいただきますね」

「ええ、どうぞ」


 残して立ち去るのは流石に失礼だものね。ハルヒトとユキヤも思い出したようにお茶を飲んでいた。

 全員が出されたお茶を飲み干したところで、バートがゆっくりと立ち上がる。

 そして、あたしたちに向かって深々と頭を下げた。


「ロゼリアお嬢様、ハルヒト様、ユキヤ様。良いお返事が聞けたこと、嬉しく思います。

本日はお忙しい中、お時間をいただきましてありがとうございました。──私はこれで失礼させていただきます」


 あたしもゆっくりと立ち上がり、何となくバートに向かって手を差し出した。差し出された手に気付いたバートが驚いたように手とあたしの顔とを見比べる。そして、恭しく両手で手を握ってきた。

 それを見て笑みを深め、目を細める。


「よろしくね。羽鎌田バート。……さっきも言ったけど、期待してるから」


 念押しのように言えば、バートは「もちろんでございます」としっかり頷く。

 あたしの望みと、バートたち『陰陽』の望みは一致しているはず。少なくとも今のところ『陰陽』があたしを殺すことはない。だから、きっと大丈夫──そう言い聞かせながら、その場を解散させるのだった。

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