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悪女の悪あがき ~九条ロゼリアはデッドエンドを回避したい~  作者: 杏仁堂ふーこ
本編

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226.ルート確定③

「時間が必要なら待ってもいいわよ」


 そう笑いかけると、バートはあやふやな表情を浮かべた。

 バートがすぐに判断できないんだったら多少考える時間を与えてもいいと思っている。けど、基本的に条件については譲歩をするつもりはない。あたしとハルヒトとユキヤだけで現地に行けっていうのはやっぱり厳しい。

 ゲームでは主人公であるアリスの所属していた組織だから、そういう意味で『陰陽』のことを疑うわけじゃないし、別に戦争に行こうって言うんじゃないんだからあたしの命が直ちに危険というわけじゃないと思う。けど、あたしは何が何でもデッドエンドを回避したいわけで……危険の可能性というものはできる限り排除しておきたい。もちろん、ジェイルたちが傍にいるから必ずしも安全というわけじゃないにしろ、知らない人間ばかりに囲まれるよりはマシ。

 色々と考えながらバートの様子を見る。バートは小さくため息をついてから、困ったように笑った。


「ありがとうございます。しかし、ロゼリアお嬢様をお待たせするわけにもいきません。

一ヶ月という時間は長いようで短く、私どもとしては調査や計画を考える時間が一分一秒でも欲しいのです」

「ふーん? じゃあ、どうするの?」


 譲歩はしないわよ。と言う意味も込めて、答えを促す。

 バートは困ったような笑みのまま、あたしを見てからジェイルへと視線を移動させた。


「ジェイルさん」

「何だ?」

「あなたが連れていきたいという部下の方、今ここで人数を決めていただけませんか?」


 おっと。ジェイルを振り返ってみると、表情の読めない顔をしていた。

 とは言え、これも想定済みの会話なのよね。バートの方から「二人まで」と指定があるかも知れないし、「ジェイルの部下は連れてこないで欲しい」と言われるかも知れないし、全部飲んでくれる可能性もあるという話は色々としていた。

 で、この場合の答えは事前に決めている。のだけど、話し方はジェイルに任せていた。

 とは言え、会話の主導権を握りたいだけで険悪になりたいわけじゃないから、あまり威圧したり不機嫌にならないようにとは伝えている。


「今ここでか?」

「はい、そうです。その上でこちらの計画を組み立てたいと思います。……ジェイルさんも人数が増えても問題ない場合の計画と、きっちりと人員の確認したい計画の違いはわかるでしょう? 何卒、ご協力をお願いいたします」


 そう言ってバートは頭を下げた。

 あたしやハルヒトに頭を下げるのは何でもなさそうだけど、ジェイル相手だと微妙な気持ちになってそう。なんせバートの方が年上だしね。あたしとハルヒトは後継者候補だったりそれに近い立場だから、バートが礼儀を尽くすのはある意味当たり前。

 ジェイルは軽く息を吐き出して、少し考えていた。


「……。つまり、他の人間の同行は認める、ということか?」

「ジェイルさんの返答次第ですね」


 そこでバートはニッコリと笑った。悪い笑顔だわ……。

 気配でしかわからないけど、両隣にいるユキヤとハルヒトの微妙な反応が伝わってくる。ここでジェイルに判断を委ねることで実質特定の回答以外を封じていると言うか、あたしがさっき伝えた条件を飲まないという可能性が出てきてしまった。ジェイルが人数を言わないという判断ができなくなってしまっている。ここであたしが異を唱えても同じことになってしまう。

 あたしはジェイルを振り返った。


「ジェイル、二人でいいわね?」

「はい、問題ありません」


 視線を合わせたところでジェイルがしっかり頷いた。

 変装して南地区に行った時のも連れてきた二人のことだ。あの二人はジェイルの信頼がかなり厚いらしい。あたしはジェイルの部下とはそんなに親しくしてないからわかんないのよね。

 バートの方を向き直り、軽く笑ってみせた。


「ってことで、バート。ジェイルの部下は二人よ。──あたし、ハルヒト、ユキヤの他に八人ね。合計で十一人。これでいいかしら?」

「はい、問題ありません。ありがとうございます。そのように計画を組み立てさせていただきます」

「……言っとくけど、連れて行く人間が屋外で待機だなんてことにならないようにして。あたしたちの護衛として連れて行くんだから」

「それはもちろん心得ております」


 釘を刺すと、バートは深く頷いた。流石にそんな姑息なことは考えてないみたい。

 ジェイルとその部下、メロ、ユウリはあたしとハルヒトの護衛。ユキヤが連れていきたいと言った三人も同じだと思う。ノアにしろ他の二人にしろ護衛としての能力がどの程度なのかわからないのがちょっと不安だけど……そういう『万が一』が起こらないように、『陰陽』だって手を打つでしょ。自分たちが計画の中で負傷者が出ることは流石に望んでないでしょうし……。……アキヲのことは多少傷つけてもいいかも知れないとは思ってるにしても、聞く限りだと、血を流さない計画っぽいしね。

 どうか『陰陽』の計画があたしのデッドエンド回避に繋がりますように……!!!


「皆様のことは一つのチームとして考えて導線などを考えさせていただきます。その上で、皆様に万が一のことが起こらないように私どもが護衛をつけ、周りを警戒できるような配置をいたします」


 ふむ、あたしとハルヒト、ユキヤの三人だけがオークション会場に誘導されるってことはなさそう。ちゃんとジェイルたちも連れていけるってことね。

 その返事に少し安心したところで、バートがあたしを真っ直ぐに見つめてきた。

 さっきの笑顔は消え失せ、真剣な表情になっている。流石に背筋が伸びた。


「ロゼリアお嬢様──……敵地に赴くのですから、全く危険がないとは言いません。アキヲ様も万が一に備えて警戒をし、警備を置いているでしょう。

しかし、このような形で攻められることは流石に想定していないはず……計画を隠し通せているおつもりのようですので……不意を突くことで危険は最低限に押さえられると考えております。

ご不安は尽きないでしょうが、そういったご不安を取り除けるよう最善を尽くします。──どうか、お力をお貸しください」


 バートは重々しく告げ、さっきよりも深々と頭を下げた。見れば、アリスも同じように頭を下げている。

 最初会った時や前回の話し合いではふざけた相手だと思ってたのに、要所要所はきっちり押さえてくると言うか……胡散臭さが少しは払拭された。これだけで完全に信じるわけじゃないし、計画に関しては任せるしかないんだけど、「任せてもいいか」と思うくらいには真剣な声と態度だった。

 たっぷり数秒間、頭を下げたままだったバートは顔を上げて、ハルヒトとユキヤへと順番に視線を向ける。


「ハルヒト様、ユキヤ様。何かございますか? ロゼリアお嬢様のご意見を尊重するような形になってしまいましたが、御二方にもご協力をいただく身ですので……何かあれば仰ってください」


 バートの言葉を受けて、ハルヒトがちらりとユキヤを見る。ユキヤは「お先にどうぞ」と言わんばかりの視線を向けていた。順番的にはハルヒトが先よね。

 ハルヒトは少し躊躇ってからゆっくりと口を開いた。


「じゃあ、一ついいかな」

「ええ、何なりと」


 バートは笑顔で頷く。ハルヒトは真っ直ぐにバートを見つめていた。何を言う気なのかしら……?


「この計画が君たちの思うように終わったとしても、事後処理があるよね?」

「仰るとおりです」

「君たちが何をどう考えているのかはオレの知るところではないけれど──……ユキヤには十分な配慮をお願いしたい」


 目の前にいるバートは笑顔も忘れて驚いていた。もちろんあたしも驚いた。

 けど、恐らくこの場で驚いているのはユキヤ本人だろう。目を丸くしてハルヒトを見つめていた。

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