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悪女の悪あがき ~九条ロゼリアはデッドエンドを回避したい~  作者: 杏仁堂ふーこ
本編

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22.イライラ解消法①

 昼食後、ノアが椿邸にやってきた。

 前回通した応接に案内させる。メイドがお茶とお菓子を持ってきてノアの前に置くけれど、ノアは一瞥しただけで手を付けようとしなかった。あたしはお昼を食べてそう時間も経ってないからお茶だけ。

 そして、ジェイルとメロもいつも通り同席していた。


「ロゼリア様、突然の来訪失礼します」

「ユキヤから話は聞いているわ。わざわざ悪いわね」

「いえ、これもぼくの仕事なので……」


 ノアがそう言って首を振る。そして、手に持っていたバッグから簡素な封筒を取り出した。

 中に何が入っているのか、聞かずともわかる。

 封筒がテーブルに置かれ、あたしの方にすすすっと移動してきた。


「これが例の?」

「はい、例の、です。どうぞご確認下さい」

「ええ、悪いわね」


 あたしは封筒を手にして、中に入っている紙束を取り出した。同じものが二部入っているから、片方は予備のつもりで用意してくれたのね。

 片方を取り出して、膝の上に置く。ぺらぺらと捲ってみると、確かにあたしがアキヲに話したこと、もしくはアキヲがあたしに話していた内容が、当時の会話よりもずっと詳細に記載されていた。


 違法カジノ、薬物の取引とそのルート、闇オークション……。

 この辺はあたしの記憶にもあるんだけど、記憶にないのが人身売買であるとか、ぞ、臓器の取引であるとか……ひょっとしたら、そこはあたしが絡んでない部分なのかもしれない。

 あとはあたし専用のホストクラブのこともあった。

 これらが実行されていたら、間違いなく南地区は犯罪都市になっていただろう。

 ユキヤはこれを見て何を思ったのかしら。


 今思えば……。

 これらを実行しようとしたのはお金のためでも何でもなく、ただただ復讐のためだったように思う。復讐というか、漠然と、周りに不幸を撒き散らしたかった。

 「その権利がある」という、あたしの間違った考えの行き着いた先。

 その気持ちが皆無になったわけじゃないけど、思い留まれてよかったとは思う。


 自分のこととはいえ、何だか気分が悪くなってきたので一度書類から顔を上げた。


「ノア、これを見てユキヤは何か言ってた……?」

「いえ、特には……何も……」


 ノアは申し訳無さそうな顔をして首を振る。

 何も思わなかったってことは流石になくて、でもノアには伝えなかったのかもしれない。あたしへの愚痴や文句になってしまうから……ユキヤは本当にそういうところまで気を使う人間なのよね。

 あたしも今のこの場でわざわざそんなことを聞きたいわけじゃないからいいか。そのうち、ユキヤに会う時にちゃんと聞いてみよう。


 ぐう。と、何かが鳴った。

 見れば、ノアが「しまった」と言いたげな顔をして自分のお腹あたりを押さえている。

 ……やっぱり昼食抜きでここまで来たんだわ。真面目だから途中でご飯を食べるということもせずに、そして出されたお茶もお菓子も手を付けず……。

 ここは何か食べさせてあげたいところだわ。


「ノア」

「は、はい。申し訳ございません、お聞き苦しいものを」

「いいのよ、気にしないで。で、あんたのためにお菓子もお茶も用意したんだから食べて頂戴」


 ノアの目の前にはお茶とお菓子。

 お菓子は何が好きかわからなかったからとりあえず適当に用意させている。前回出したチョコにクッキー、和菓子、お皿にぎゅっと乗せられている。

 お腹空かせてるだろうから多めに持ってきてと言ったけど……よく見るとやりすぎた?

 ノアはお皿に乗っているお菓子を見て、ごくりと喉を鳴らして、それからふるふると首を振っていた。


「い、いえ! いいです、大丈夫です! どうかお気になさら」


 ぐううううう。

 またお腹が鳴った。ノアは青い顔をしている。

 あたしは思わず吹き出してしまった。


「昼食も取らずに来てくれたあんたのために用意させたのよ? あんたが食べてくれないと困るのよね。あたしはお昼は食べたから、もう食べられないし……」

「うう、ううう……」


 あたしがいいと言っているのに、さっき自分が「いいです」と言ってしまったから、妙な葛藤してるみたい。無理やり食べさせるのも違うし、逆にさっさと解放してあげた方がいいのかも。

 そうやって悩んでいると、後ろからメロの溜息が聞こえてきた。


「ノアさー、ここで食べないと逆に失礼っスよ?」

「……!」


 ギッとノアがメロを睨む。多分ノアはメロがユキヤのことを”くん付け”にして呼んだの、根に持ってるのね。しかも自分のことは呼び捨てにされてるし。

 メロのこういうところを人懐っこいと判断すべきか、図々しいと判断すべきなのか悩むわ。


「お嬢も『あたしが出したお菓子が食べられないって言うの?』くらい言って無理やり口に突っ込んでも」

「ジェイル」

「はい」

「いって?!」


 ジェイルがあたしの意図を汲み取ってメロを頭を殴ってくれた。スッキリしたわ。

 メロのこういうところは本当によくないと思うんだけど、目の前でノアがちょっと笑ってくれたからよしとしましょう。メロが殴られたことでスッキリしたんでしょうね。

 ノアがちょっと落ち着いた表情であたしを見つめる。


「あの、ロゼリア様」

「ええ」

「ご配慮くださってありがとうございます。……えっと、いただき、ます」

「どうぞ」


 そう言ってノアはチョコに手を伸ばした。

 うきうきした様子でチョコを口に入れている。

 なんか、最初見た時は無表情って印象だったのに、打ち解けて(?)来ると結構表情豊かなのね。人見知りなのかもしれないわ。


 チョコを食べるノアが可愛い。

 皿の上にチョコは三つ乗ってたけど、残りには手を出さずに今度はクッキーを口に運んでいた。クッキーを食べたノアの表情がぱああっと明るくなる。食べきるのがもったいないと言わんばかりにちまちまと食べていた。


 ──この可愛い生き物は、何……?!


 人が食べているところをガン見するなんてよくないのはわかっていてもあたしの目は釘付けだった。

 なんか、こう……胸の中が満たされる、ような……?

 ノアが単純に可愛いのと、ノアがお菓子を食べて幸せそうにしている姿が刺さる。ずっと見ていたいし、何かを与え続けたくなる。

 ユウリを虐めて遊んでいた時の高揚感や征服感に似てるけどちょっと違うわ。

 もっと満足感があるっていうか、こっちも幸せになるっていうか……?


 自分の感覚に戸惑いつつ、あたしはあたしでお茶を飲みながら残りの書類に目を通していた。あとはこまごまとした話をまとめたものね。でも何か書いてあるのかは、あとできちんと確認しなきゃいけないわ。

 ジェイルにも確認させたいし。


「ジェイル、時間がある時に一緒に確認して頂戴」

「承知しました」


 そうしている間にノアは用意したお菓子を食べ終えていた。それを見て笑みが深まる。

 膝に腕を置いてノアをじっと見つめた。


「あの、ごちそうさまでした。すごく美味しかったです」

「良かったわ。お菓子だけで大丈夫?」

「えっ、はい。十分です。……ユキヤ様には帰りに何か食べてきていいと言われてますし」

「食べてく? 用意させるわよ?」

「流石にそこまでお世話になるわけにはいきません! あの、本当にお菓子だけで十分ですので……!」


 ノアはぶんぶんと首を振った。

 ……正直、ノアが食べているところをもっと見ていたかったんだけど、これ以上引き止めたりしても可哀想かしら。ノアも早くユキヤに報告しに帰りたいだろうし、そもそもあたしの前だと緊張しっぱなしかもしれないし……。

 残念だわ。ノアに何か食べさせるのはまたの機会にしよう。

 とはいえ、不思議な感覚だわ。

 何なんだろう、この感覚……。


「ろ、ロゼリア様。長居をしても申し訳ないので、ぼくはこれで……」

「──ああ、そうね。ユキヤのことも待たせてるでしょうし……今日はわざわざありがとう」

「は、いえ、あの。とんでもないです。ぼくの仕事なので……!」


 礼を述べると、ノアが首を振った。

 そしてちょっと慌てた様子で立ち上がって、あたしに向かって頭を下げる。


 そういえば、あたしはあんまり「ありがとう」を口にしない気がするわ……。周りはあたしに気を遣って当然だし、あたしのために動いて当然って感じで……いやもう本当に感じが悪い人間よね。

 人間性に問題がありすぎた……。


「えっと、ロゼリア様、これで失礼します」

「ええ、またね」


 そう言ってノアはそそくさと応接室を出ていく。

 これはどう考えてもあたしのことを警戒しているのよね。この間のこともあって気まずかったりするのかも。

 見送ろうと思って腰を浮かしかけたところでジェイルに制されてしまった。

 ……ユキヤの時は良かったけど、ノアのことは見送る必要ないってことみたい。それも何だかなぁって感じだけど、ノアもあたしがあんまり関わりすぎても気の毒だし、しょうがないか。


 つくづくあたしは嫌われてる。

 関わると良いことにならないって判断されてるっぽい。

 自業自得なのは本当によくわかってるんだけど、寂しいのよね。

 ……あたしの評判が変わる時って本当にあるのかしら?

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