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悪女の悪あがき ~九条ロゼリアはデッドエンドを回避したい~  作者: 杏仁堂ふーこ
本編

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217.オフレコ㉙ ~ジェイルとメロとユウリⅠ~

 ユキヤに部屋の鍵を預けて、家の中にあるものは好きにしていい旨を伝えてから敷地内で別れた。

 大分気軽にメロとユウリの二人に諸々を伝える役を買って出てしまったが、ユキヤとハルヒトの杞憂を聞かされた後だとなかなかハードルが高そうな話だったらしい。ロゼリアが自分の口から言いたくない理由は本人が言っていた通り「自分の言ったことを翻すようでなんか嫌」で、それは理解できる。朝令暮改になるので嫌だという個人的な感情だとしても、それくらいは自分が代わりに言っても問題ないと思っていた。

 しかし。

 ジェイルが予想してなかった事情があることを聞かされて困っている次第だ。

 ユキヤに耳打ちされたことを思い出してため息をつく。


『仮定の話として、想像してくださいね?

君がもし花嵜さんや真瀬さんと同じようにロゼリア様に拒絶された後、俺に「ロゼリア様を説得してきたから安心してください」なんて言われたら腹が立つでしょう? 仕事上の話ではなく、君はごくごく個人的な感情で腹が立つはずです。

……君がロゼリア様に抱いているような感情を、あの二人も抱いている可能性がある、という話ですよ』


 以前より関係が改善されたとは思っていたが、その可能性はあまり考えてなかったのだ。

 何故なら、ロゼリアに何らかの変化がある前──メロとユウリの二人はどう見てもロゼリアを嫌っていた。もちろん、それはジェイルも例外ではなく、何故こんな女が九条家唯一の後継者候補なのかと悔しい思いをしたものだ。そこからジェイル自身の感情に変化があったのは、ロゼリアに接する時間が長かったからだと思っている。

 あの二人に限っては嫌悪レベルがジェイルよりも高かったせいで、感情が反転するなんて考えもしなかった。

 今思い出してみれば、思い当たる節やその可能性に気付けそうな言動はあった。

 とは言え、ユキヤもハルヒトもその可能性を示唆しただけだ。決めつけてはいない。その可能性を踏まえて話をしろという趣旨なのは理解している。

 再度ため息をついた。


「……うーん」


 庭の端で考え込んでいるものの、どう話をすればいいのかがわからない。

 ハルヒトの父親であるミチハルが他人の感情への配慮をしない人間だという話を聞いたが、ひょっとしたらこういった状況が煩わしくてそういうスタイルにでもなったのだろうかと考えてしまうほどだ。しかし、ミチハルの考え方が生来のものらしいので、ジェイルの悩みとは全く別種のものだろう。

 更にユキヤに言われた言葉を思い出してみる。


『簡単ですよ。君がロゼリア様から直接「関係がない」と突き放された時、他人にどうフォローされるなら納得できるのかを考えればいいんです。

ハルヒトさんが聞き出してくれた背景も交えて、角が立たないように伝えてみてください。……難しいようなら、余計なことを言わずに結論だけ伝えるものアリですよ』


 自分だったら──と考えてみるが、どうフォローされても面白くない気持ちになる。

 まず第一に何故それを伝えてくるのがロゼリアではないのかと言う疑問が湧く。そして、その次にロゼリアに事情を説明するように言われた経緯が気になるし、その事実に対しても『ロゼリアに信頼されているから』と自分で想像してしまって更に面白くない気分になるのだ。

 それらがジェイルの説明でどうにかなるのだろうか。

 しかし、ユキヤが言っていたように「結論だけ伝える」というのも負けた気分になってしまって駄目だ。

 第一、今後もロゼリアの傍にいたいと思うのなら、この手の対応は自分の仕事にもなるに違いない。ロゼリアに気持ちよく仕事をしてもらうためにも先回りやフォローなどができるようになっておかなければいけない。出来うる限り、ロゼリアの意に沿う形で。


 すぐにでも伝えようと思っていたのだが、考えがまとまらないのでメロとユウリの二人を呼びつけることもできない。

 かと言って時間もかけられない。明日にはバートが来るのだ。

 最悪結論だけ伝えて納得してもらうしか──と、口元に手を当てて考え込んでいると声が聞こえてきた。


「……やっぱ蚊帳の外なの納得いかねー」

「その愚痴何度目? ……聞かされる僕の身にもなって欲しいよ」

「だってユウリしか話す相手がいねーし」

「僕はゴミ箱じゃないんだけどな……」


 メロとユウリだ。声のする方に視線を向けると、揃って花壇の傍にしゃがみこんでいた。

 何をしているのかと思い、目を凝らしてみる。どうやら草取りをしているようだった。手入れは専門の庭師がいるが、たまにああして屋敷の人間が草取りをしているのを見かける。

 あの二人も庭の手入れに駆り出されているのだ。

 またユキヤの言葉を思い出す。

 ──仕事と私生活の境界が曖昧、というのはこの状況だろう。

 本人たちもどこまでが仕事で、私生活なのか線引ができてないのではないか。


「別に何を聞かされても言い触らしたりしないのにさー」

「だから、そういう問題じゃないと思うよ……」


 メロの拗ねたような声と、ユウリの呆れ声が聞こえる。

 ユウリの方はある程度理解を示しているように見えるが、表情を見る限りそうではない。それこそハルヒトの言っていた『わかっていても納得はしていない』心境なのだろう。

 理解と納得は別物だという話は理解できる。以前のジェイルだってロゼリアが九条家唯一の後継者候補であるとはわかっていても、彼女がゆくゆくは正当な後継者に祭り上げられることには全く納得していなかったからだ。今ではそういう考えではなくなっているけれど。

 少し考え込んでから、二人の方に近付いていく。

 考えが完全にまとまったわけではないが、二人に聞いてみたいことができた。


「おい」


 花壇の一面を挟んで、しゃがみこんで草取りをしている二人に声を掛ける。

 メロは元々ジェイルの存在に気付いていたらしく嫌そうな顔をしてジェイルを見る。ユウリは気付いてなかったらしく驚いた顔をしていた。


「……んだよ、ジェイル。急に。おれらは草取りしてるだけなんだけど?」

「ちょ、メロ! ジェイルさん、すみませんっ……!」

「いや、いい。──花嵜、真瀬、お前たちに聞きたいことがある」


 ゆるく首を振って繰り出すと、メロもユウリも怪訝そうな顔をした。自分たちに何を聞くんだと言いたげな表情だ。

 周囲には誰もいない。離れたところでメイドが荷物を運んでいるのが見えたが、自分たちの会話は誰かに聞かれることはないだろう。


「お前たちは……今回話し合いの場に呼ばれない理由は何だと思っている?」


 メロが「けっ」と悪態をつき、ユウリがそれを嗜める。いつもの光景だ。


「聞かれたら困るからだろ、おれらに」

「そうだな。では、何故聞かれたら困るか想像はついているのか?」

「……それは、南地区や九龍会に関わるデリケートな話だから、ですよね……?」

「何故デリケートだとお前たちに話を聞かせたくないんだ?」


 そこでユウリが言葉に詰まった。非常にいやらしい問答だというのは理解した上で聞いている。

 そして案の定、メロが不機嫌そうに立ち上がった。


「知るかよ、ンなの。お嬢は何も言わねーし、教えてもくれねーし」


 ふいっとメロが顔を背けてしまう。まるで拗ねているようだ。いや、実際ずっと拗ねているのだろう。ロゼリアに蔑ろにされたと思って。

 しかし、決しそうではないことをジェイルは知っている。

 軽く息をついてから、メロとユウリの顔を見比べた。ユウリは不安げにこちらを見つめている。


「俺は自ら望んで九龍会に所属し、尽くしている。九龍会に身を置くことを誇りに思っている。これまでもそうだし、今後もそのつもりだ。無論、お嬢様は俺の意志をご存知のはずだ。……だからこそ以前は煙たがられていたのだと、今ならわかる」


 二人とも何の話だと言わんばかりの視線をジェイルに向けていた。更に続ける。


「……花嵜、真瀬。お前たちはどうなんだ? これまでのことはともかく、今後のことはどう考えている?

九龍会のために働けるのか? 仮にそうだとして、お嬢様に自分の意志を伝えたことがあるのか?」


 矢継ぎ早に聞き、そこで言葉を切る。

 二人ともぽかんとしており、すぐに返答はなかった。

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