215.結論③
「ロゼリア様、私はジェイルの言う通り花嵜さんと真瀬さんを同席させることに賛成です」
「あ、オレも」
まるで追い打ちをかけるように発言をするユキヤ。賛同するハルヒト。
何で二人ともメロとユウリを連れて行くことに賛成するんだろう。ジェイルはともかくとして、ユキヤとハルヒトがこの話にわざわざ賛成するのが意味不明だわ。二人にとってはそこまで関係のある話だとは思わないし。
「……ユキヤとハルヒトはどうして賛成なの? 二人には特に関係のある話には思えないけど……何ならどっちでもいい話っていうか……」
不思議に思って聞いてみると、二人とも何とも言えない表情をした。
ユキヤもハルヒトも微妙すぎる表情をしてあたしから視線を逸らしてしまう。なんか気になる反応ね。
やがてユキヤがわざとらしく咳払いをして、珍しく歯切れ悪そうに話しだした。
「大した理由じゃないんです。さっきジェイルが言っていたように、花嵜さんは最初から関わっていたと思いますし、真瀬さんも全くの無関係というわけではありませんでした。今更関係がないと言ってしまうのは……なんというか、先々を考えると良くないのでは、と……」
「先々?」
「ええ。仮に、仮にですよ? 今後、お二人に何か頼み事をしたとします。けれど、今回のことで『どうせ途中で梯子を外される』などと思ってしまい、支障が出るかも知れません。主にモチベーションの面で、ですね」
それは、まぁ、確かに……。
と感心しているあたしの視界の端でハルヒトが何故か感心していた。
あんたたちの考えてることって一緒じゃなかったの? 何だかあたしの知らないことで意気投合してるっぽくてモヤモヤするわ。
とは言え、ユキヤの言うことも一理あるし、翌々考えてみるとあたしへの不満が大きくなるようなら今はそういうことって避けた方がいいわよね。ゲームとは大分違うストーリーになったけど、まだ終わってないもの。せめて事態が収まるまでは我慢した方が良さそう。
個人的にはここでメロとユウリは離脱して欲しいけどね……。……あたしたちと違って立場があるわけじゃないから、変なことに巻き込まれない方が将来的に良いと思うのに。
「そういうことね。……わかったわ。納得できない部分もあるけど、メロとユウリが関わりたいって言うなら……連れてってもいい」
「承知しました。お嬢様から言い辛いのであれば自分から二人には話しておきます」
「ええ、そうして」
今更「こないだの、やっぱなし!」とは言い辛いのもある! あれだけ拒絶したんだもの、本当に今更って感じ。ジェイルが話してくれるならその方がいい。どんな顔をして話をすればいいのかわからないしね。
一旦それで話に区切りがついたかと思いきや、ハルヒトがジェイルをジト目で見つめている。
「……ジェイル、君はメロとユウリにちゃんと話せるの?」
「? どういうことでしょう?」
ジェイルは何故そんなことを聞くのかと不思議そうだった。ハルヒトの横でユキヤが苦笑している。
メロと仲が悪いから、そのことを気にしているのかも。確かにジェイルの言うことをちゃんと大人しく聞いているメロの姿は全く想像ができない。ユウリは「はい!」ってちゃんを聞く様子がイメージできるのに……。
ため息をつくハルヒトに代わって、ユキヤが困ったように話しだした。
「ハルヒトさんが仰っているのは、……えぇと、花嵜さんと真瀬さんがロゼリア様に関係がないと拒絶されて、つまらない気持ちでいることを理解した上で話ができるか、ということだと思います」
「……。それは、わかっているが──……あいつらも子供じゃないんだからこちらの話くらい理解するだろう」
ジェイルの答えを聞いたユキヤは引き続き苦笑し、ハルヒトは肩を落とした。
「ユキヤ、ダメそうじゃない?」
「あはは……」
ジェイルはユキヤの言ってることは理解しているようだけど、何故ハルヒトが「ダメそう」と言っているのかが理解できてないっぽかった。ユキヤとハルヒトの顔を交互に見て、「なんなんだ」と言いたげな表情をしている。
何の話をしているのかがよくわからないからとりあえず見守った。
多分、メロとユウリへのフォローをどうするかという話で……ジェイルにそのフォローができるのかということ?
それくらい流石にできるでしょと思う反面、どうにもユキヤやハルヒトが何を考えているのかわからない。
「……ロゼリア」
「? 何よ」
無関係を装ってお茶を飲んでいたところへ声がかかる。
ハルヒトへと視線を向けながらカップを下ろした。
「君がメロとユウリを関わらせたくないって思ったのはなんで?」
「それは……単純に『陰陽』が絡んできて危なそうだったし、あとは後継者の話がちょっと出てきちゃってるから……これ以上関わらせるとあたしを支持してるって思われそうだったからよ。ジェイルとユキヤは仮にそう見られても自分の意志で上手く立ち回れるでしょ。……メロもユウリも自立できてないから、心配だったの」
「……二人に甘いんだね、ロゼリアって」
甘い? これは負い目だわ。
メロもユウリもあたしのせいで散々だった。身寄りがないからあたしの傍にいるしかなかった。
結果的に関わらせちゃったのが良かったのか悪かったのか、あたしにはわからない。
ハルヒトの視線を避けるようにカップを持ち上げてお茶を飲む。
「別にそういうつもりじゃないわ」
「そっか。……ジェイル、そういう背景なんだって。上手く二人に伝えて」
「ちょっとジェイル、全部伝えるんじゃないわよ」
自立してないから心配だなんてすごく失礼っていうか、お前が言うなって話だもの。絶対言って欲しくない。自立できない理由がどこにあると思ってる!? って感じ。
ジェイルは眉間に皺を寄せて腕組みをしてしまった。
要求が多くて困ってるみたい。ユキヤはおかしそうに笑っていた。
「ジェイル。大変かもしれませんが、花嵜さんと真瀬さんのことはお任せしました。言い出したのは君ですからね」
「わか、った」
ユキヤはそう言うとゆっくりと立ち上がった。そして、あたしに向かって静かに頭を下げる。
「ロゼリア様。今日は聞いてくださってありがとうございました。
あまり長居をするとノアや花嵜さんたちがヤキモキしてしまうと思うので、今日はこれで失礼いたします」
「そうね、今日はありがとう。──ところで、明日はどうする?」
カップをテーブルに置きながら聞くとユキヤは既に決めてあると言わんばかりに笑った。
視線を一度だけジェイルに向けてから、あたしへと戻す。
「はい、明日も同席させていただきます。今後のことも聞いておきたいので」
「わかったわ。明日もよろしくね」
「こちらこそよろしくお願いします」
そう言ってもう一度頭を下げるユキヤ。
……バートと話していた時が嘘みたいにスッキリしてる。よかった、ってことでいいのよね?
そうして一旦この場は解散となった。
最後の最後までジェイルは悩んでいて、大丈夫なのか心配になってしまった。




