214.結論②
結論は出たし、あとはバートに計画の詳細を聞いてからじゃないと動けない。ユキヤは来てもらったばかりだけどこれで終わりかしら。一応水田には昼食を追加でユキヤとノアの二人分用意できるようにお願いはしてあるから、早めに昼食にしてもよさそう。
そんなことを考えながらお茶を飲むと、ユキヤが何か言いたげにしていた。
他にも何かあるのかと首を傾げ、お茶を置く。
「どうかした?」
「ロゼリア様、一つご相談です」
「ええ、何?」
あたしに促される形でユキヤが話し出した。あたしが切り出さなかったら何も言わなさそうだったわ。
相談、という言葉にジェイルもハルヒトも首を傾げる。対して、ハルヒトはユキヤが話し出す前に口を開いた。
「待って。それはオレも聞いていい話? 何なら席を外すけど……」
「ええ、問題ありません。さっきの話の続きのようなものなので……」
そうなんだ、とハルヒトは安心した様子。結構ぐいぐい関わってくる割に、こういうところでは気遣いを見せるのね。ユキヤの事情が事情だから、ハルヒトなりに気を遣ってるだけかもしれない。
さっきの続きってことは、バートの提案に対してなのか、それ関係であたしに何かあるってことよね。あたしが聞いてどうにかなる話ならいいんだけど……。
「ノアと、私の側近二名を連れていきたいんです」
……ほう?
予想外の話にちょっと驚く。そういう発想はなかったわ。
ユキヤは続ける。
「自分の周りに事情を知る人間を作っておきたいというのが理由です。……疑うようで申し訳ないのですが、『陰陽』がどのように動くのかが少し不安で……」
「ユキヤの疑いは最もだろう。ガロ様やミチハル様が了承しているとは言え、計画全てをご存知だとは思えない。これから詳細を詰めていくという話もあったしな」
「計画自体に口を出すつもりはないのですが……それくらいは聞いて貰えるかと思いまして……」
全部『陰陽』が計画するって話だったし、こっちから人を追加するのは駄目かと思ってた。
けど、そうよね。交渉する価値はあるというか、それくらい要望してもいいような気がする。元々まるっと計画を飲むのは抵抗があったし、それはジェイルも同じ。ユキヤの話にジェイルは乗り気と言うか賛成みたい。
納得しているとハルヒトが不意にあたしを見た。視線が合ったところで、ハルヒトが不思議そうに首を傾げる。
「……何?」
「ロゼリアは連れて行かないの? メロとユウリ」
思いもよらぬ発言に黙り込んでしまった。
最初にジェイルとユキヤを同席させることを求めたから、あたし側の人間をこれ以上追加するのはどうかと思ったけど……話してみるだけならアリ? いや、でもこんなことに巻き込むのもな……。巻き込んだらなかったことにできなくなるから、そこが気掛かりなのよね。
それにメロとユウリには「聞かれたくないこと」「話したくないこと」って言っちゃってるから、今更という気持ちもあった。
返事をしないまま悩んでいると、ジェイルがあたしの顔を覗き込んできた。
「お嬢様」
「え、何?」
何かと思い顔を上げ、ジェイルを見る。ジェイルは何を悩むのかと言いたげな表情をしていた。
「自分は花嵜と真瀬を連れて行くことに賛成です。ユキヤの言うように、事実を知る人間は多い方がいいと思います。……プロパガンダを行いたいという話でしたが、それもどのように行われるのか謎ですしね。
『陰陽』側の理由に、お嬢様が遠慮をする必要はありません。……あなたは九条家の人間なのですから」
要はもっと強気に行けと。遠慮をしているなんてあたしらしくないと。
この場合、遠慮をしているのはメロとユウリに対してなのよね。『陰陽』の事情なんて知ったこっちゃないと言うか……。あ、例外でアリスのことは心配だけどそれはそれ、これはこれよ。
尚もあたしがすぐに答えないでいると、三人が不思議そうに顔を見合わせていた。
「……ロゼリア様、他に何か気掛かりが……?」
ユキヤが心配そうな顔をして聞いてくる。あ、まずい。深刻そうに見えてるっぽい。
あたしが二人のことでめちゃくちゃ悩んでるみたいになるのはちょっと嫌ね。悩んでるのは確かだけど!
「あ、あー、別に大したことじゃないわ。……メロもユウリもバートが来た時に部屋に入れなかったし、その後も二人から何の話だったんだって聞かれたんけど、話せないって突っぱねたところなのよ。それを翻すみたいで、どうかなって思っただけ。……あたし側の都合よ」
何でもない風を装って気楽に話す。
が、ジェイルもユキヤもハルヒトも変な顔をしていた。
「……ロゼリア、突っぱねちゃったの?」
「え? 突っぱねたっていうか、話せないし話したくないからって言っただけよ。やけにしつこくて手を焼いたわね。あんまり納得した様子じゃなかったし……」
メロとユウリ、それぞれと話した時のことを思い出しながら話す。
なんかメロはどうにか納得してくれたけど、ユウリは最後まで納得してくれてなかったわよね。あれ。途中で話が変な方向に行っちゃったから、バートとの話云々よりもあたしに対して不満があるようだったし……ユウリなんてあたしから一番酷い目に遭わされてたはずだから、あんな風に食い下がってくるのが本当によくわからない。理解に苦しむ。
そんなことを考えるあたしとは裏腹に、三人はやっぱり変な顔をしたままだった。
何故かあたしに呆れているようだった。……なんで?
「他に何か、お二人に言われましたか? ……こう、あなたには関係のないことだ、とか……」
控えめにユキヤが聞いてくる。なんでそんなことを聞くのかしら。しかも「流石にそんなこと言ってませんよね?」みたいな空気を滲ませている。
おかげですごく答え難いわ……。
「……メロには言ったわ」
「真瀬さんには言ってないんですね?」
「ない、けど……」
「けど、なんでしょう? 諦めさせるために何か言われましたか?」
何よこれ、尋問!?
推しに詰められてるみたいで落ち着かない! その上ジェイルもハルヒトもすごい変な目で見てくるし! 何!? だって実際話せないし話せなかったんだから、何とか言い聞かせるしかないじゃない!
居心地の悪さを感じながら、三人から顔を背ける。
「ユウリには、聞き分けて、って言ったわ。……話ができないことよりも、あたし自身に不満があるみたいだったけど」
渋々言えば、三人がため息をつくのが聞こえてきた。本当に何なのよ!
しかも視線がちくちくと刺さる。これまでこういう視線は受けてこなかったから落ち着かない上に、ジェイルとユキヤに至ってはあたしのことを『九条ロゼリア』じゃなくて、『年下』として見てるのが伝わってくる。年齢的にしょうがないな、みたいな空気がある! これでも成人してるのに。
……メロとユウリは年下で、ハルヒトは同い年、ジェイルとユキヤは年上なのよね。
これまで意識してなかった年齢差というものを感じる。
「ロゼリア。どうしてメロとユウリが──……あ、いや。いいや。こういうのってあんまり口出しするの良くないよね。けど、もうちょっと言い方あったんじゃない? 今は話せないだけ、とか……」
「元々今回の件は関わらせるつもりはなかったのよ。何があるかわからないし、あいつらは成り行きでここにいるだけだし……」
「お嬢様」
ジェイルの呆れ声が届く。ちらりと視線を向けると、やれやれとため息をついていた。
「花嵜と真瀬の心情はともかくとして、中途半端はよくありません。成り行きとは言え、南地区の件に関わってきたのですから顛末くらい知る権利があるでしょう。あの二人がもう関わりたくないと言うなら関わらせなくていいのですが……関わりたいというなら最後まで付き合わせた方がいいです。
と言うわけで、ユキヤの提案とともに花嵜と真瀬も連れて行けるように羽鎌田に話をしましょう。いいですね、お嬢様?」
あたしが何も言えずにいると、ユキヤとハルヒトはその提案に賛成だと言わんばかりの表情をした。
……ジェイル、メロとユウリを連れて行くことを勝手に決めた……!