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悪女の悪あがき ~九条ロゼリアはデッドエンドを回避したい~  作者: 杏仁堂ふーこ
本編

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213.結論①

 そして、ジェイルの言っていた通り、お昼前にユキヤがノアと一緒にやってきた。

 二人ともどこか硬い雰囲気。こればかりはしょうがない。

 ついてきてもらったノアには悪いけど、部屋の外で待っててもらうことになった。てっきりユキヤが話をしているのかと思ったら、ノアには今回のことは一切話しをしてないらしい。どうやら、これ以上は巻き込みたくないという気持ちがあるみたいだった。ノアはまだ少し年が若いからしょうがないのかも。


「……お嬢、今日は一緒にいてもいいっスか?」

「駄目」


 応接室にユキヤを入れる時にメロが珍しく控えめに聞いてきた。

 が、当然答えは「否」。

 間髪淹れずに答えたからか、メロも、そしてその後ろにいたユウリもものすごく不満そうな顔をしていた。

 メロとユウリ、それぞれと除け者にされて傷付くって話をしている。二人の気持ちはわかったんだけど、だからと言って話を聞かせてあげるという気にはならない。念の為にジェイルに聞いてみたら「賛成しません」って答えだったからね。話が広がりすぎるのを防ぐためと、傍にいるからって何でもかんでも話したり巻き込むのはよくないという話だった。

 少なくとも味方してくれる相手がいることにホッとする。

 が、事態をややこしくする相手が一人。


「ロゼリア、オレはいいよね?」


 ハルヒト……! こいつ、面白がってない!?

 にこにこ笑いながら近付いてくるものだからあたしはちょっと気まずいし、メロとユウリは変な顔をするし、ジェイルは小さくため息をついていた。


「……なんでよ。別に必要とは思わないけど」

「え、冷たい。だって他人事じゃないし、……ユキヤはどう? オレがいるとまずい?」


 ひょこっと応接室の中に顔を突っ込んでユキヤに意見を聞くハルヒト。ハルヒトが「まずい?」なんて聞いてユキヤは拒絶できるなんて思えないんだけど!

 振り返ってみると案の定、ユキヤは軽く笑っている。あ、案外悩んでなさそう。


「私は構いませんよ。以前も話を聞いていただきましたし」

「だって。ユキヤがいいなら、いいよね?」

「……好きにして」


 額を押さえながら言い、応接室に入る。

 ハルヒトは当たり前って顔をしてあたしに続いて入ってきて、ジェイルが最後に入ってきた。メロ、ユウリ、ノアの三人に「許可なく入るなよ」と告げてから、静かに扉を閉めてしまう。

 最後の最後までメロとユウリの視線が突き刺さっていて、気付かないふりをするしかなかった。

 地味にこじれた気がする。こんなことなら最初から関わらせるんじゃなかったと思うものの、一番最初にメロを放置するという発想がまずなかったし、ユウリはずるずる関わらせちゃってるし……やり方がまずかったと反省するしかなかった。


 応接室にはあたし、ジェイル、ユキヤ、そしてハルヒトの四人。

 ソファの都合で、あたしとジェイルが並んで座り、正面にユキヤとハルヒトが座る形になった。キキがお茶を持ってきてくれて、漂う緊張感に気付いてそそくさと出て行ってしまう。

 お茶を飲んで一息ついたところで、ユキヤがあたしを見た。


「ロゼリア様、早速ですが本題に入ってもよろしいでしょうか」

「ええ、いいわよ」


 ユキヤはいつも通りだった。

 室内に緊張感はあったんだけど、当のユキヤは落ち着いている。穏やかというか朗らかというか、これから重要なことを話すぞって深刻さもないし、気負っている様子はない。結構短い間で決断しなきゃいけなかったはずなのに、ちょっと不思議だった。

 ジェイルもハルヒトも同じような疑問を持っているらしく、意外そうな視線をユキヤに向けている。

 ……バートから話があった時、ユキヤはかなり深刻そうだったものね。


「バートさんからの提案、受け入れたいと思います。

色々と考えてはみたものの、やはり他に父を大人しくさせるための手立てが思いつかないので……『陰陽』が計画・実行し、それに対してガロ様や八雲会のミチハル様まで話が通っているのであればこれという心配事もありません」


 思いの外あっさりと、ユキヤは自分の意志を口にした。

 さっきまでの『いつも通り』の様子を崩すことなく、穏やかな湊ユキヤのままで。

 何が我慢をしているとか、仕方なく同意している様子は見られない。本当に自分が納得の上で考えて出した答えだというのが伝わってきた。

 なんだか「よく決断したわ」とか「辛くない?」とか、どういう言葉をかけていいかわからずに黙り込んじゃう。ジェイルもハルヒトも、ユキヤの出した答えに対してなんてリアクションするのがいいのか悩んでいるようだった。

 他の三人の様子を見たユキヤが困ったように眉を下げて笑う。


「あはは。──先日は動揺して、大変ご迷惑をおかけしました。三人の目には私がさぞ苦悩していたように見えたでしょうね」

「いや、実際そうだろう?」

「否定はしません。ただ、あの時は急な話だったので驚いたのと、バートさんが私を責めているようだったので、余裕が持てませんでした。

ですが、落ち着いて考えてみれば……やはり悪い話だとは思えなかったんです」


 私情を除けば確かにそうかも知れないけど……!

 ユキヤがいつも通り過ぎてこっちが驚く。悲壮感を出せと言ってるわけじゃないんだけど、「いいの?!」って気持ちがある。

 あたしが何をどう切り出そうか悩んでいると、ユキヤの隣にいるハルヒトが小さく手を上げた。


「ごめん、ユキヤ。ちょっといいかな?」

「はい、どうぞ」

「……オレは君の事情には詳しくないけど、お父さんのことが気掛かりだったんじゃないの? 庇いたい気持ちとか、温情をかけたいって君の気持ちは……いい、のかな? 国家反逆罪だなんて……動揺して当たり前だと思うし、飲み込むのも……かなり難しいような気がするよ」


 ハルヒトはユキヤの表情を窺いながら控えめに聞いていた。

 あたしもだけど、ジェイルも同じ疑問を抱いている。全員の視線がユキヤに集中した。ユキヤに穴を開けんばかりだった。

 ユキヤは一瞬驚いた顔をしてから、どこか照れくさそうに笑う。


「ハルヒトさんの仰る通り、かなり動揺しました。実親を本当に切り捨てていいものか、悩みました。

私は……父のことは好きではありませんが、金銭的には何不自由のない環境の中で育ててもらった恩があります。恩を仇で返すような真似には、良心が咎められたのは事実です。

しかし──今、私がここで決断をしなければ、未来に禍根を残すことになります。それだけは避けたかったんです」


 ほう。と三人揃って息を吐き出した。

 立派だなぁとしみじみと感じてしまう。こういう決断ができるのってすごいわ。すごいって言っちゃうとなんか変な感じがするから言わないけど! 余計なことを言うとユキヤの決意に水を差すことになりかねないから、あんまり内容については言及しないでおこう。

 ユキヤを真っ直ぐ見つめた。


「ユキヤ。あんたの意志はわかったわ。……伝えてくれてありがとう」

「いいえ、とんでもありません。ロゼリア様がちゃんと考えろと言って下さったので、納得するまで考え……今日こうしてお伝えできたのだと思います」

「そ、そう。なら、よかったわ」


 名前を出されてちょっと驚いたけど、見当違いのアドバイスじゃなかったみたいで良かった。ユキヤはすっきりした顔をしているから、やっぱりちゃんと悩み抜いて結論を出せたんだってことがわかった。

 と、言うことで。

 あたしは元々バートの提案に乗りたいと思ってたから、ユキヤの意志を踏まえても結論に変わりなし。代替案を考えなくて良くなったのでホッとしている。

 ……バートには明日伝えるけど、ユキヤたちにはこの場で伝えた方がいいわよね。


「バートへの回答は明日だけど、もう結論は出てるからここで伝えておくわね。

あたし、ハルヒト、そしてユキヤの三人とも『陰陽』の計画を受け入れて、協力するものとするわ。

理由はほぼユキヤと一緒。確実にケリがつきそうだし、ここでしっかり断ち切りたいからよ」


 ジェイルもユキヤもハルヒトも、神妙な顔をして頷いていた。

 ……なんていうか、こんな風に自分の考えが受け入れられて、賛同を得られるっていいわね。伯父様が会長やってる理由がちょっとわかったわ。

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