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210.ジェラシー②

 いい感じの反応があるとばかり思っていたからユウリの表情に驚く。

 メロといい、ジェイルといい、なんでこういう反応になるのかしら。アリスは可愛いじゃない。一目惚れしちゃっても全然おかしくないのに何なのよ。ゲームの中であった「ひと目見た時からずっと……」って感じのセリフは一体何だったの!?

 出会うまでの過ごし方も、出会い方も違ってるからしょうがないにしても、何だか腑に落ちないのよね。

 あんまりしつこく聞くと答えないかもしれないと思って、それ以上は何も言わなかった。ユウリは苦虫を噛み潰したような顔のまま、何故か深くため息をつく。


「……別に。何とも思ってないです」


 素っ気ない返答だった。

 照れてるから素っ気なくなったとか、隠しておきたいから素っ気なくなったという雰囲気ではない。

 ユウリにしては可愛くない態度だと思ってしまった。


「ふーん。なんで?」

「な、なんでって……何か感じるほど話をしたり、何か時間を持ったわけじゃないので……」


 我ながら雑な追求だった。ユウリが動揺しながら答えている。

 確かに、屋敷内で様子を見ててもアリスがユウリと個人的に話しているシーンなんて見ないのよね。そういう雰囲気もないし。とは言え、先輩にあたるキキとは一応上手くやってるみたいだし、他の使用人たちとは普通に話をしているところを見かける。屋敷内での振る舞いには問題なさそうだけど、ゲームの攻略キャラクターたちとはほとんど接点やゲームみたいなミニイベントは起こってないみたい。

 こうしてユウリから「何とも思ってない」とはっきり言われてしまうと、やっぱりがっかりしちゃう。

 あたしのことは気にせずに恋愛を発展させてくれていいのに……。

 がっかり感というか落胆が滲み出ていたのか、ユウリが訝しげな顔をする。


「ロゼリア様、どうしてそんなことを気にされるのですか?」

「別に。キキの後任だからあんたたちとも接点が多くなるだろうし……上手くやれてるかどうか気になったのよ」

「……そういう空気ではありませんでしたが」


 そりゃ今のはただの口からでまかせだもの。ユウリにじっと見つめられてちょっと居心地が悪い。あたしがアリスとのことを気にしているのが不思議みたい。


「仕事の上でのやりとりは問題ない、と思います」

「そう、ならいいわ」


 仕事の付き合いだけじゃつまらないのよね。あたしはその先が知りたいというか、二人の関係が進むのを願ってるんだもの。そんなことを口にしようものなら絶対変な目で見られるから言わないけど!

 とは言え、あたしの返事がユウリは不満だったらしい。


「──仲良くしろと仰るなら、仲良くします」

「えっ?」

「彼女に対して思うところがないわけではないんですが、……ロゼリア様がそれでご満足されるなら……」

「え? えーと……?」


 拗ねるような顔をして、花瓶を抱きかかえるユウリを見て混乱する。

 なんでそういう話になるの!?

 無理に仲良くなっ──……いや、とりあえず接する時間を多く取れば自然と惹かれ合う可能性もあるのでは? でも、あたしに言われて仲良くするのってなんか違うわよね。しかもユウリはちょっと嫌そうだし……。なんで嫌そうなのかわからないけど……。

 って、ちょっと気になるセリフが飛び出してるわ。


「待って。アリサに対して思うところって何?」


 実はちょっと気になってる、って感じじゃないのよね。一体何なのかしら。

 眉を寄せて問いかけるとユウリが気まずそうな顔をした。


「……。……彼女、ずるいじゃないですか」

「ず、ずるい……?」


 メロの専売特許みたいなセリフをユウリが言うものだから驚いた。

 しかも何がどうずるいのか、さっぱりわからないし何も思い当たらない。あたしはアリスをずるいだなんて思ったことないもの。不安なところが多すぎて心境としてはドジな妹を電柱の陰から見守る姉の気分よ。

 あたしが「ずるいってどういうこと?」と聞くよりも先にユウリが口を開いた。


「そうです、彼女はずるいです……僕の方がロゼリア様と一緒にいる時間は長くて、ロゼリア様のことをたくさん知ってます。なのに、最初はすごく警戒されていたのに……たかだか二ヶ月でロゼリア様に気に入られて、気にかけてもらえて……ずるい」


 俯いて花瓶をぎゅっと抱きしめるユウリ。

 えっ。えっ!? 何?! 何言ってんの!?

 焦るあたしを置いてけぼりにして、ユウリが更に言い募る。


「一昨日だって話し合いの中にいて……僕はその場に入れないのに……!」


 ユウリの感情が高ぶっているように見えた。あたしの質問への答え以上のことを口にしてて、少し危うい気がする。

 慌てて執務机から離れ、ユウリの傍に行く。俯くユウリの顔を覗き込むと苦しそうな顔が目に入り、やけに胸が締め付けられた。


「ユウリ、落ち着いて頂戴」

「っ!? ロ、ゼリアさま、」

「ちょっ!?」


 我に返ったユウリの手から花瓶が滑り落ちる。慌てて花瓶に手を伸ばして触れるのと、ユウリが花瓶をキャッチするのはほぼ同時だった。

 か、花瓶が落ちなくてよかった……。

 怪我の恐れがあるし、片付けるのが面倒だし、この場合ユウリの責任になっちゃう。

 安堵したところで手元を見ると、花瓶を支えるあたしの手の上にユウリの手が重なっていた。

 しかもユウリの顔が近い。


 ……はー、ほんっとうにユウリって可愛い顔してるのよね。

 ハルヒトよりも淡い金髪にやや自信なさげな黄緑色の目。ハルヒトはザ・王子様って感じなんだけど、ユウリは儚さというか薄幸さがあって──まぁ、加虐心がくすぐられるタイプ。『九条ロゼリア』はこういうのが好みなのよね。

 間近で見て、ああ好みだなぁとしみじみと実感してしまった。

 前世の記憶に引っ張られているせいでユキヤのことは『推し』として好きなんだけどユウリは本当に好みって感じ。

 あくまで顔が、だけど。


 顔が至近距離にあるせいでそんな物思いに耽ってしまった。

 手を引き抜こうにも花瓶の重みのせいでちょっと抜けないわね。ユウリに持ち上げさせないと……。

 と思ってユウリを見ると、ユウリは顔を赤くしていた。


「……ユウリ?」

「ぅえっ?! は、はい!」

「顔赤いわよ」


 指摘してみると更に赤くなってしまった。可愛い。

 とは言え、顔を赤くする理由が……いやいや、あんまり考えてないでおこう。


「花瓶ちょっと持ち上げて頂戴」

「え、ぁ、はい」


 二人ともちょっと屈んだ状態だったので一緒になって花瓶を持ち上げる。地味に重いのよね、花瓶が……。

 視線が伸びたところでユウリを見ると、やけに視線が近いのが気になった。

 ……そっか。ユウリって172センチであたしと4センチしか違わないんだったわ。ヒールを履いたら簡単に追い越しちゃう身長なのよね。


「ロゼリア様……?」

「何でもないわ。花瓶、ちゃんと持ってて頂戴」

「はい、大丈夫です」


 ユウリが花瓶を抱え直すのを見てから手を引き抜いた。あ、ちょっと赤くなってる。花瓶の重さのせいだわ。

 ひらひらと手を揺らしているとユウリが申し訳無さそうにしていた。


「あ、あの、申し訳ございませんでした……」


 そう言って小さく頭を下げるのを見て小さく息を吐き出す。

 多分ユウリが今謝ってるのって花瓶のことよね。さっきのアリスがずるいって話はどうしたものかしら。聞かずに済ますとなんか拗れそうな気がするから、ここでちゃんと聞いておいた方が良さそうな気がする。


「いいわ。次は気をつけて。……ユウリ、さっきの話なんだけど」


 ぎくり。とユウリの肩が震え、表情が強張った。

 そういう反応されると聞きづらいんだけど……!?

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