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悪女の悪あがき ~九条ロゼリアはデッドエンドを回避したい~  作者: 杏仁堂ふーこ
本編

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201.嘘と本音①

 一度話を終わらせてから、お茶を持ってくるようにお願いをした。

 お昼の時間も近づいてるんだけどその前に一息入れたい。それに朝はハルヒトを避けちゃったから、お昼を一緒に取るかどうか考えたい。まぁまた別々で食事をしようものなら不審に思われそうだから一緒に取るしかないのよね。ハルヒトの性格だとはっきり聞いてきそうで怖い。

 「避けてる?」とか「夜のこと気にしてる?」とか……。あいつの話し方によっては周りに誤解される可能性もあるから、今はぐっと我慢をしよう。っていうか、いきなり頬にキスされたのはあたしなのに、なんでこっちが気を遣わなきゃいけないのよ。……そう考えたらこっちが気まずくなってるのはなんか違うような気がしてきたわ。

 堂々としてればいいのよね。気にしてませんって顔をして。


「お嬢、お茶っスよ~」


 キキかユウリが持ってくると思ってたからメロがお茶を持ってくるのにびっくりした。

 しかもこいつノックもせずに入ってきた……!


「ちょっと! ノックくらいしなさいよ!」

「い、いや、したっスよ? ……心の中で」


 冷めた目で見るとメロはものすごく居心地悪そうにして、あたしからすーっと顔を背けてしまった。それを見てこれみよがしにため息をつき、しっしと追い払うように手を振ってやる。


「やり直し」

「えぇっ!?」

「冗談よ。──でも、ノックくらいちゃんとして頂戴」

「……はーい」


 メロは肩を落として気のない返事をする。こいつ、また絶対やらかすわ。なんで最低限のことができないのか謎。もうメロだからって諦めている節があるけど、ノックくらいして欲しい。

 呆れるあたしをよそにメロがトレイに乗ったお茶をテーブルの上に置く。リクエスト通りジャスミン茶だわ。


「……っていうか、なんであんたが持ってくるのよ……」

「えっ、ひっど! いーじゃないっスか、おれが持ってきても」

「あんた、お茶入れる時に零すじゃない」


 言いながらメロの手つきをジロジロと見てしまう。ノックはしないわ手つきは雑だわ……改めて大丈夫なの? メロって。

 あたしが指摘をしたからか普段より丁寧だけど、ティーポットやカップを置く時にカチャカチャ音が出るのよね。ユウリやキキは絶対にそういう音は立てないし、音が出たとしても気にならないレベル。


「……見られてると逆にやりづらいんスけど」

「見てないと零すでしょ」


 渋々と言った様子でメロがポットからティーカップにジャスミン茶を注ぐ。あたしの視線が気になるみたいで落ち着かなさそう。けど視線を外さずに観察を続けた。

 普段なら雑に入れるせいでカップからお茶が跳ねるんだけど、今日はそんなことはなかった。まぁ合格。


「どうぞ」

「ありがと」


 カップが目の前に出されたのでそれを手に取り、口に運ぶ。

 ジャスミンの香りが広がってホッとする。アイスも美味しいけど、ホットも美味しい。

 ユキヤはどうしたいって言うんだろうと考えながら飲む。返事を貰うまでは多分ずっと考えちゃいそうだわ、このこと。ユキヤにとっても、あたしにとっても重大な選択だもの。平然とはしていられない。無論それをあんまり表には出さないように気をつけるけど難しいわ。

 が、それはそれとして、メロの視線が鬱陶しい。

 お茶を持ってくるという仕事は済んだんだから出てってもいいのに……。

 カップを手にしたままメロを見た。


「何よ」

「いや、おれの淹れたお茶美味しいかなーって……」

「美味しいわよ? でもあんたが淹れたわけじゃないでしょうが」

「……。……まぁ、水田サンが準備してくれたんスけど」


 ほらね! メロは厨房から執務室までお茶を運んできて、ポットからカップにお茶を移動させただけ。なんてことを言葉にしてしまうと、めちゃくちゃ嫌な感じだから言わない。でも全部自分がやりましたって言われると「違うでしょ」って言いたくなる。

 素知らぬ顔をしてお茶を飲んでいるとメロがあたしの傍まで移動してくる。

 何かと思ってその動きを追いかけると、何故かあたしのすぐそばにしゃがみ込んで見上げてきた。

 な、何なのよ。


「お嬢」

「……何よ」


 どうしてメロがこんな行動をしているのか、当然わからない。

 けど、普段とは違う様子に何故か緊張してしまった。


「昨日さ、……ジェイルとユキヤくんとハルくんと……あと知らない人と、なんか話してたじゃないっスか」

「そうね」

「おれ、と……ユウリはこのまま蚊帳の外なんスか?」


 どういう意味? と言いそうになり、別の言葉を探した。

 答えはYESなんだけど、一応表向きには人材派遣の話をしたことになってる。だから、話の仕方としては「関係ないのは当たり前」って感じになるわ。


「そりゃそうよ。昨日の話はアリサを紹介してくれたところで、人材についての話を──」

「嘘」


 短く、そして鋭く。

 メロがあたしの言葉を遮ってきた。

 何か確証があるらしく、視線からも表情からもカマかけのような雰囲気は一切ない。

 二の句が継げなくて黙り込んでしまった。


「そういう雰囲気じゃなかったっスよ。……墨谷サンとかは、まぁ、納得してたけど……。……なんで今さら嘘つくんスか」


 今更も何も昨日の話はちょっとね……。本格的にメロやユウリは関係がなくなってきたというか、個人的にはそこまで巻き込みたくないと言うか……ジェイルは仕事だからいて貰わないと困るし、ユキヤも当事者だからいて欲しい。ハルヒトは、完全に巻き込まれた感じだけど。

 メロもユウリも、あたしが中途半端に巻き込んだだけで、本来無関係でいいはずなのよ。

 だからわざわざ呼ぶつもりもなかった。何なら、この件には関わらせないつもりだった。

 あたしはゆっくりと息を吐き出してティーカップを置き、メロを見つめ返す。


「……話せないのよ、あんたには」

「なんでっスか?」


 メロがやけに真剣な顔で聞いてくるものだから言葉を選んだ方がいい気がしてきた。

 察して欲しいというか、うまく誤魔化されて欲しいんだけど、すぐにうまい言葉が浮かんでこない。


「話せる内容じゃないから」

「なんで? ちゃんと黙っとくっスよ」

「そうは言っても人の口には戸が立てられないわ」


 む。とメロが口元を歪める。なんで今更、という不満が伝わってくるよう。

 気になる気持ちはわからないでもないけど、どうしてこんなことを言ってくるのかが不思議。どう考えても面倒ごとだし、わざわざ首を突っ込みたいような話でもないと思う。

 ただの興味本位? それとも何か別の理由?

 メロがわざわざ聞いてくる理由、すぐに引き下がらない理由がわからなくて軽く混乱した。


「どうして知りたいの?」

「……だって、ジェイルやユキヤくんばっかりずるい……」


 ずるい……? 益々わからない。

 あたしの「意味がわからない」という表情を見たメロは気まずそうな様子を見せつつ、どこか拗ねたような顔をしている。ユウリもそうだったけど、なんっか最近子供っぽいところを見せるのよね……。


「ずるいって……あいつらだって面倒だと感じてるわ、きっと。できれば関わりたくないんじゃない?」

「そうじゃないっスよ。お嬢に頼りにされててずるいってこと。──頼りにされて嬉しいって気持ちと、仕事とかに対する面倒くささって別じゃないっスか?」


 ため息交じりの言葉にはすぐ答えがあった。

 言ってることはわかる。あたしも勉強が面倒だった時期があるけど、それはそれとして頑張った結果がお母様やお父様、そして伯父様に褒められるのは嬉しかった。家柄の関係でとやかく言われるのが嫌だったのも確かだけど、家族からの誉め言葉が嬉しくて勉強していたからね。

 考えながら言葉を探す。


「言ってることは理解できる」

「なら、」

「言い方を変えるわね。話せないし、話したくない」


 メロが目を見開く。あたしの気持ちとは裏腹に、ショックを受けたのがはっきりとわかった。

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