02.これからのこと①
「ねえ、ジェイルを呼んでくれる？ あ、別に急ぎじゃないから今やってること終えてからでいいって伝えて」
朝ごはん代わりのクレープを食べ終えたところで控えていたキキに声をかける。キキは片付けを他のメイドに任せて「承知しました」と言って下がっていった。
キキ、よくもまあロゼリアについてるわよね。
なんだっけ、キキにも色々あった気が……そうだ、身寄りがないからロゼリアに従うしかないんだ。あと伯父様が善意で連れてきたから伯父様にも「ロゼリアが嫌」とも言えず、しかもあたしに可愛がられてるって伯父様が勘違いしているから言うに言えないんだわ。しかも髪が長いのは鬱陶しいから切りなさいって言って、ボブにさせてるのよ。我ながら最悪。
ルートによってはアリスに協力してこの子もあたしを裏切るのよね。四面楚歌だわ。
本当の意味で信頼できる人間が周りにはいない。
お付きのメロも、ペットのユウリも、メイドのキキも、あたしのことを良く思ってないから。
さっぱりして、お腹も落ち着いて、ようやく一息ついた。
紙とペンを用意し、あたしは無駄に豪華な執務机に向かった。
前世でやったゲームで覚えてることをまとめるためよ。ゲームはほぼ攻略済みだから多少は助けになるはず。
【話の流れ】
・9月下旬
ハルヒトを拾う。八雲会がハルヒトの捜索をする→ロゼリアの元にいるとわかる。
・10月1日
アリスが九条家にメイドとしてやってくる（ゲームスタート）
アリスがロゼリアの情報を集め、最終的に攻略対象を救うためにも殺すしかないと判断する
・11月11日
ルート分岐
・12月24日
殺される
あ、あれ？ なんかめちゃくちゃ簡単になっちゃったわ。
でもざっくりとした流れはこんな感じなのよね。ルートによって中身が変わるし……。
そもそものスタートラインが『千代野ハルヒトの救出のためにアリスが陰陽から送り込まれる』だし、ハルヒトの救出はマストとして、その中でメロやユウリ、その他攻略対象に出会ってルートが分岐するゲームなのよ。
とりあえず、ゲームの看板はハルヒトなのよね。囚われの王子様的な立ち位置で、見た目も金髪碧眼でザ・王子様ってデザイン。見た目はクールなんだけど生い立ちを隠すためか性格はちょっと軽くて、何でもないって顔をしつつ身体は傷だらけで、それがバレたらすんごい辛そうな顔をして……あ、思い出したらドキドキしてきたわ。
ダメ、考えがずれてきた。
あとはえーっと、そう、ルート分岐！ 11月11日！
ほぼ1ヵ月でルートが分岐する。攻略対象と特定のイベントをこなすことでそのキャラのルートに入るんだったわ。まぁ、どのルートでもロゼリアは殺されるんだけどね……。
とりあえず、次は攻略対象をまとめてみましょう。
【千代野ハルヒト】
21歳。王子様的な看板キャラ。正妻からの虐待紛いの扱いから逃げたと思ったらロゼリアに捕まって同じような扱いを受けて苦しんでいる。王子様風イケメン。
【花嵜メロ】
20歳。ロゼリアの側近その１。ガロに拾われて、命令されて傍にいるだけ。ロゼリアの言う事には従順なものの、我儘や横暴さに辟易している。チャラ男系のイケメン。
【真瀬ユウリ】
19歳。ロゼリアのペット。ロゼリアに逆らえず、毎日怯えながら過ごしている。身体は傷だらけ。子犬っぽい雰囲気の薄幸系イケメン。
【雨宮ジェイル】
23歳。ロゼリアの側近その２。元々はガロの部下で、命令でロゼリアの護衛みたいなことをしている。真面目で堅物系のイケメン。身長が攻略キャラ中一番高い。
【湊ユキヤ】
22歳。南地区代表、湊アキヲの息子。次期代表。ロゼリアが管理代行になったことで荒んでいく南地区の様子に心を痛めている。爽やかお兄さん系のイケメン。
誰のルートに入っても『ロゼリアを殺すしかない』という結論に至るのが最悪よ。
ゲームをやってると「またコイツなの？！」ってげんなりして、ロゼリアに対して殺意が芽生えて、ロゼリアを殺した時はめちゃくちゃスッキリするんだけど……。
自分がその立場だと知るともう冗談じゃないとしか言えないわ。
まっとうに……まっとうに生きるしかない……残り半年を……！
そして生き延びる……。
そして、書きたくない。書きたくないけど、忘れちゃいけない。
このルートに入られたら多分あたしは問答無用で死ぬわ……！！
【九条ガロ】
55歳。九龍会の元締め ロゼリア（あたし）の伯父。最愛の妻であるエリーゼと妹（クレア＝あたしの母親）を失っている。枯れた雰囲気と渋さが売りのダンディ系イケメン。
実は、ガロというか伯父様のルートはほとんど知らないのよね。隠しキャラ扱いだから条件をいくつかこなさないとルートが出現しないし……。そういうルートがあるってことくらいしか知識としては持ってない。
いやもう本当に伯父様ルートには絶対に入って欲しくない。あたし自身の死のこともそうだけど、正直エリーゼさん以外の女に目を向けて欲しくないのよ……！ こんなのあたしの我儘だってわかってるけど！！
本当に嫌、絶対嫌。
なんか苛々してきたし、よくわかんないけどメロかユウリを殴りたい衝動に駆られてきた……！
──ああ、なるほど。
ロゼリアはこういう衝動を抑えることなく好きに発散してたんだわ……。
ちょっとしたことで苛々してその苛々をメロかユウリ、その他周囲の人間にぶつけて、それでも発散できない分は豪遊して金を好きに使って誤魔化してた。
今は前世の記憶が蘇ったおかげで自制ができてるけど、正直この自制心がいつまで持つか不安。
今のあたしにはロゼリアとしての記憶も、前世の女子高生としての記憶もある。
だからこそ、じゃないけど、今はまだ落ち着いていられる。
ロゼリアは。
いや、あたしは、両親が事故で亡くなってからずっと鬱憤を溜めていた。そして、その鬱憤を発散する方法があって、その方法はこれまで誰にも咎められなかった。
だからあたしは調子に乗っちゃったのよ。
誰かが止めてくれたら──って、ダメダメ。こんなの『たられば』だわ。
今更こんなことを言い出してもしょうがない。
とにかく真っ当に！ 真っ当になって、どうにかやり直さないと……！
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