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悪女の悪あがき ~九条ロゼリアはデッドエンドを回避したい~  作者: 杏仁堂ふーこ
本編

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198.後継者問題②

「アリサ、一つ確認よ」

「は、はい! なんでしょうか?」


 しおしおと萎れていたアリサはシャキッと背筋を伸ばして元気に返事をした。


「あたしがあんたたちに計画に乗るための条件をつけることはできるの?」

「条件……? それは具体的にどんな……?」

「ユキヤの返答次第よ」


 アリサが「むう」と頬を膨らませる。あ、ちょっとかわいい……じゃなくて、なんでそういう反応なのよ。

 っていうか都合よく名前を出しちゃってユキヤには悪いことをしてる気分。単純にあたしが気に食わないからなんか条件つけてやろうって思ってるだけなのよね。まぁ、ユキヤの返答次第というのはあながち嘘じゃないけど、どちらかというとものすごく個人的な理由。

 ふーっと息を吐き出して、アリサが少し考え込んだ。


「計画にご協力いただけるなら、ご希望は聞きたいと思いますが……どんな条件かにもよるかと……。計画が変わるようなものでなければある程度調整はできる、と思います。……すみません、わたしからだと、これくらいしか……」

「いいわよ、わかったわ」


 申し訳無さそうに言って視線を伏せるのを見て、小さく頷いた。

 日程を変更したいとか場所を変えて欲しいとか、そういうのは当然ながら無理よね。日時と場所ありきだし。計画が問題なく進められる程度の条件であれば飲んでもらえそう、って認識でいいかしら。……何を条件にするかなんて、今のところは考えつかないわ。ユキヤの返答を待つ間に考えてみよう。


「白木、自分からも確認したいことがある」

「……はい、なんでしょうか?」


 今度はジェイルがアリサに質問を投げかけようとしていた。あたしに時と違って渋々感があるわね、アリサ。


「仮に協力するとして、だ。計画の詳細は教えてもらえるんだろうな?」

「はい。もちろんです」

「いつ頃の予定だ?」

「……月末から月初にかけて、でしょうか。今月中には相手の行動を把握して計画を詰めます。ただ、相手ありきなので、前日に突然変わる可能性もあります」

「なるほど、わかった」


 例えばアキヲかミリヤが突然体調を崩してそもそもの予定が中止になる可能性も否定できないしね。

 ジェイルだってそれは当然わかっているはずなので、神妙な顔をして頷いていた。こっちは『陰陽』の立てたスケジュール通りに動くだけとは言え、ジェイルはジェイルで色々準備があるんだろうな。流石に護衛を『陰陽』に任せきりにはさせられない。『陰陽』もこっちが護衛を何人か連れて行くことは想定してるはずよ。

 今のところ、聞きたいのはこれくらいかしら。

 あとはあたしの出す結論次第ってところね。


「アリサ、これで──……」

「白木」


 もういいわよ。と、言おうとしたところをジェイルに遮られた。こいつ、今わざと遮ったわね? ジト目で睨んでみるけど、ジェイルはこっちをちらりとも見なかった。ちょっとムカつく!

 当のアリサはきょとんとして首を傾げた。


「え?」

「最後に一つ聞きたい」

「は、はい……?」


 何故かジェイルの雰囲気がおかしい。そのせいか、アリサは怪訝そうにしていた。

 ジェイルは右手の拳をぎゅっと握りしめてテーブルの上に置き、何かを堪えているように見える。なんだろうと思って見守った。


「……お前は何故、お嬢様に『その気』がないと知っていた……?」


 ──あ。

 アリサの顔がさっと青褪める。あたしも釣られて「しまった」という顔をしていたと思う。

 あたしの記憶が正しければ「九龍会の後継者に興味がない」ってはっきり言ったのはキキだけ。あれはホテルでの会話だったけど、これまでアリサはあたしがユキヤと話したことなんかを知っていた。だから、あたしが声に出して告げた情報がアリサに知られていてもあんまりおかしいとは思わなかった。前世のことを書いたノートは厳重に隠していたから見られてはいないし、最初に怪しい行動を牽制したおかげなのか部屋に忍び込むような真似はもうしてなくて……多分盗聴器をいくつか仕掛けたことで満足したのだと思う。気付いた時は気分悪かったけど、それであたしに対する疑惑が晴れるなら良かった。

 キキが雑談の中で聞いたという話になるならまだしも、そういう話をしてないアリサがこの話題を出すのは明らかにおかしい。

 アリサはちょっと顔が青いけどしれっとしていて、それでも焦りが伝わってくる。

 ……これは、あたしが助け舟を出さないとまずい、わよね……?


「俺が知らないことを何故お前が知っている?」


 あ、なんか怒ってる。抑えてるけど怒ってる。

 何でもかんでもあんたに話すわけないでしょうが、聞かれなかったし! と言おうとしたけど、これはこれでジェイルが更に機嫌を損ねそう。えーっと、どうやって言うのが一番穏便に済むかしら。

 そう、そうだわ。キキとの雑談の話題をそのままアリサに置き換えたらいいんだわ!

 アリサにアイコンタクトを送るけど、こっちを見ないせいでダメだった。

 あたしは静かに深呼吸をして、なんでもない風を装って口を開く。


「少し前に聞かれたのよ。──興味はあるんですか、って」

「え?」


 ジェイルの視線がこっちを向く。アリサも何も言わずにこっちを見た。二人とも驚いている。

 とは言え、アリサはあたしの言い方で意図を察したらしい。ちょっとわざとらしくモジモジしていた。


「……そ、そうなんです。あの、不躾かと思ったんですが……ロゼリアさまに聞いたら、答えてくださって……」

「お前、まさか今回のことがあったから聞いたのか?」

「ち、ちがっ、います! 本当に単純な興味でした。ロゼリアさまのことを知りたかっただけですっ……!」


 強い口調で、ほとんど詰問口調で言い募るジェイルに対し、アリサは手と首をぶんぶん振っていた。

 計画に関係があるから聞いた、なんて口が裂けても言えないでしょうね。っていうか別にアリサが聞いてきたわけじゃないし、キキは本当に興味本位で聞いてきただけだし、雑談の中で聞いたということにしないと色々と辻褄が合わなくなる。

 あたしにできるフォローはしたから、あとはアリサが自分でなんとかして欲しい。


「白木、デリケートな問題だとわかっているだろう?」

「それは、そう、ですけど……」

「お前は外部の人間だ。興味があっても軽々しく聞いていいこととそうじゃないことくらい区別をつけてくれ」


 あ、今度はアリサがカチンと来てる。どうやら「外部の人間」というのが気に食わなかったみたい。

 なんか、二人とも地味に沸点低い……?

 アリサは頬を膨らませて、ぷいっと顔を背けた。子供じゃないんだから……!


「……。……ロゼリアさまの一番お傍にいる人が、こういうことを知らないのもどうかと思いますけど!」

「なっ──!?」


 あたしはテーブルに頬杖をついて部外者ヅラで二人の話を聞いていたんだけど、ずるりと体勢が崩れかけた。

 アリサは拗ねた物言いでジェイルをチクリと刺した。ジェイルは痛いところを突かれたとばかりに苦々しげな表情をする。二人を交互に見ると、何をどう見ても間にある空気が良くない。


「ジェイルさんが一番知ってなきゃいけないんじゃないですか? わかったつもりにならずに、ロゼリアさま自身にちゃんと聞いて、知ってくださいっ」

「くっ……!」


 ジェイルは返す言葉もないようで俯き、拳を震わせていた。

 いや、言わなかったのはあたしだし……。聞かれなかったから言わなかった、というのもあるけど……。

 変な喧嘩、と完全に外野な感想を抱いてしまった。


 ……あ、仲裁しなきゃ。

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