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悪女の悪あがき ~九条ロゼリアはデッドエンドを回避したい~  作者: 杏仁堂ふーこ
本編

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194.考える人①

 翌日。アルコールのせいなのか、結構早くに目が覚めてしまった。

 なんとなくハルヒトとは顔を合わせづらかったし、いつもよりかなり早い時間に起きて厨房に向かった。あんまりスッピンは見せないようにしてるものの、屋敷の中じゃ今更よね。

 既に水田をはじめとする使用人たちが朝ご飯の準備をしていた。


「おはよう」

「えっ!? ロ、ロゼリア、様?!」


 みんなが手を止め、口々に「おはようございます」と言う。それを片手で制していると、一番近くにいた若いメイドがあたしの傍までやってくる。


「あの、どうかなさいましたか?」

「早く目が覚めただけよ。……悪いんだけど、部屋でのんびり食べたいから……朝食を部屋まで持ってきてくれる? ああ、急がなくていいのよ。いつも通りの時間で構わないから……」


 目の前にいるメイドは「かしこまりました!」としっかり頷く。先に飲み物だけ用意して持ってきてくれるということだったので、それはありがたく持ってきてもらうことにした。

 今日は過去の資料とかを眺めながらゆっくり考えようかな。

 バートが提示した期間も三日しかないし、適当に考えていられない。提案を断るにしても代案も考えておきたいし……ここはジェイルと一緒に考えよう。ジェイルは反対してたから、代案は一緒に考えてくれるでしょ。

 そんなことを考えながら一階の厨房から出て自室へと向かう。

 階段を上がったところで、ユウリとばったり出くわした。


「あ、あれ? ロゼリア様……? あ! おはようございます」


 朝っぱらから屋敷内を歩いているあたしを見て驚き、慌てて挨拶をした。

 ユウリは花瓶を抱えている。花か水を変えている最中だったっぽいわ。……必要とは言え、屋敷中の花瓶の花や水を変えるのも大変よね。

 

「おはよう」

「は、はい、……どうかなさいましたか?」


 厨房に行った時のメイドと同じことを聞いてくるものだからちょっと笑ってしまった。ユウリが不思議そうにする。


「なんでもないわ。早く目が覚めちゃっただけ」

「そうでしたか……では、失礼します」

「ええ、またね」


 それだけの言葉を交わして歩き出す。ユウリが軽く頭を下げてあたしのために道を開けたので、あたしはその横を抜けていった。

 ……ユウリはすぐに移動しなかったようで背中に突き刺さる。なんだろうと思ったけど、いちいち振り返るのもどうかと思ったので無視して自室に戻った。


 自室に戻ったところで、テーブルに置きっぱなしだったグラス類に気付く。

 しまった。さっき持っていけばよかったわ。ぼんやりしてて完全に存在を忘れてた。まぁいいか、飲み物を持ってきて貰った時に代わりに持って帰ってもらおう。

 あたしはベッドに腰掛けて、そのまま後ろに倒れた。


「どうするのがいいかしら……」


 期限も差し迫っている上に、かなり重要な選択。

 メリットもデメリットもはっきりしている──ように思う。

 ハルヒトはあたしに任せると言ってたし、ユキヤも自分じゃ選択ができないようだった。ってことは、あたしが最終的な判断をするしかない。可能な限り禍根が残らないようにしたいし、個人的な都合を考えるならケリをつけてゲームの中にあった問題を終わらせてしまいたい。

 つまり、デッドエンドを完全に回避した、という実感が欲しい。

 そんな実感をどう得るのかも問題なんだけど……本当にちゃんと考えなきゃ……。


 ぼけーっと天蓋の内側を眺める。これ、天井に星座とか刺繍されてたらロマンチックな気がする。次に買い替える時はそうやってリクエストしてみようかしら。

 未来のことを考える反面、それが実現不可かも知れないという不安に襲われる。

 いや、やりたいことや楽しいことを考えて、それを実現するためにこの難局を乗り越えるのよ……!


 などと考えているせいで、ノックの音に気付くのが遅れた。

 ユウリの「ロゼリア様?」という不安げな声にようやく我に返った。


「──入っていいわよ」


 えい、と勢いをつけて起き上がりながら、廊下に向かって返事をした。

 ゆっくりと扉が開き、さっき廊下ですれ違ったユウリが入ってくる。手にはマグカップの乗ったトレイを持っていた。花瓶は誰かにパスしたんだろうな、この様子だと。

 そのままゆっくりと進み、テーブルの上にトレイを置こうとしたユウリが困った顔で振り返った。


「あの、ロゼリア様……これは?」

「昨日の夜、ハルヒトとちょっと飲んでたのよ」


 軽い調子で答えると、ユウリが一瞬何を言われたのかわからないという顔をした。


「……。……え?」

「ハルヒトと飲んでたの」

「ふ、ふたりきりで、……ですか?」

「そうよ。悪いけど、グラスとか厨房に持っていってくれる?」


 以前みたいに出張ホストを連れ込んでた時に比べれば随分と健全だと思う。

 が、ユウリは何故かひどく動揺していた。自分でもトレイを持ったままが危ないと思ったのか、テーブルの上を手早く片付けて、マグカップを静かに置く。


「ハルヒトさんと……な、何を……」

「何、って……話をしていただけよ」


 そんなに驚く? 前に比べたら全然マシでしょうが。

 ユウリの動揺が全くわからず、あたしは首を傾げてしまった。

 ただ、ユウリが変な想像をしている可能性があることに気付く。確かに前よりマシだけど、全ての汚名が返上されたわけじゃない。名誉の回復も道半ばで、ちょっとした行動から誤解を招く可能性もあるわ、これ。

 とは言え、変な想像をされるのも癪なわけで。


「……あんた、変なこと考えてない?」

「ぅえっ?! っそ、そういうわけじゃない、です!」


 顔を赤くして否定しても全然意味がないのよね。あたしは思わずため息をつく。


「本当に飲んで話をしてただけよ。──大体、ハルヒトはあくまで『お客様』なんだから、変なことするわけないでしょ」


 何もなかったことを強調する。……頬にキスはされたけど、あれはノーカンよ。おやすみの挨拶みたいなもの!

 ユウリの考えている『変なこと』は十中八九アレよ、アレ。男女の関係的なやつ。そういう誤解を受けやすい過去の振る舞いを今更ながら後悔する。本当に今になってみるとデメリットしかない言動だったわ。過去のあたし。


「そ、そう、ですよね……」

「何ならハルヒトにも確認してくれて構わないわよ」

「いえ、それは大丈夫です……。……けど、何の話をされたのですか?」


 恐る恐るという雰囲気で聞いてくるユウリ。

 あたしはベッドから立ち上がり、テーブルへと向かう。ユウリが持ってきてくれたマグカップを手にし、一口飲んだ。ホットはちみつレモンだったわ。甘くて美味しい。

 椅子に腰掛けながらユウリを見る。


「秘密」


 ふっと笑う。

 ユウリはちょっと面食らってから、すごくがっかりした顔をした。


「そう、ですか」

「そうよ。──ユウリ、朝ご飯を食べたら執務室に移動するわ。ジェイルが屋敷に来たら執務室に来るように伝えてくれる?」

「かしこまりました」


 ユウリはがっかりした顔のままテーブルの上に置いたままになってる昨日のグラスマグなどを一つのトレイにまとめていた。

 ……目の前でなんでそういう顔をするのよ。ハルヒトと飲んで話してたのがそんなに気に食わないわけ?


「ユウリ、何か言いたいことがあるの?」

「そ、そんなことは──……。……いえ、僕はお酒が飲めないので、羨ましいなって……」

「ああ、あんた下戸だものね」


 そう言えばユウリってアルコールを一口飲むだけで顔を真っ赤にしちゃうんだった。誰かが無理に飲ませようとする度にメロとキキがフォローしてたっけ。


「まぁ、あんたとお酒を飲むのは無理だけど……お茶くらいなら付き合ってあげるわよ」

「──ありがとうございます。ぜひ……お願いします」


 ユウリが大きく見開いてから、困ったようにはにかんだ。……こういう顔が可愛いのよね、虐めたくなるほどに。

 自分の加虐嗜好を抑え込むようにはちみつレモンを飲み、部屋を出ていくユウリを見送った。

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