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185.描くもの④

 若い世代、か。

 九龍会も八雲会も、そして他の第一領から第七領の『会』もほとんどは血族による会長の継承をしている。たまに例外があったり、目ぼしい候補がいなかったりすると全く別のところから指名することもあるから、あくまで『ほとんど』であって絶対じゃない。

 九条家は基本的に直系血族か傍系血族から会長を継承していたものの、伯父様の次がちょっとね……。

 全体として血統を重視しているのは否定できない。だから、伯父様もあたしを捨てきれないのよ。

 で、バートの話を聞く限り『陰陽』にもそういう思想があるっぽい。とは言え、ゲーム情報を照らし合わせると、血統を重視しつつも現在のシステム(九龍会とかの健全性や存続)が脅かされる場合はその限りではない、ってところ?

 あたしは腕組みをして考え込んでしまった。


「つまり……あたしたち三人がアキヲ、そして遠回しにミリヤさんを糾弾することで、危険がなくなったことと九龍会と八雲会は未来の明るいです、っていうプロパガンダがしたいってこと?」

「ええ、仰るとおりです。理解が早くて助かります」


 バートの表情は明るくなったけど、こっちの表情が渋くなる。

 あたしはそういう場に出たくない。というか「九龍会を背負ってます」みたいな顔はしたくない。多分それはハルヒトも同じようで微妙な表情をしていた。ユキヤはあたしたち以上にそんなことを考えている余裕はなく、困惑している。

 軽くため息をつき、バートを見据える。


「一つ教えて頂戴」

「はい、何なりと」

「あんたは……いえ、『陰陽』は、九龍会と八雲会の次期会長をどう考えているの?」


 バートは一瞬驚いた顔をして、それから緩く首を振る。ちょっと困っているようだった。


「ロゼリアお嬢様。私どもは次期会長への口出しはできません。そんなつもりもございません」

「ふぅん? でも何か思惑がありそうだけど?」


 そう言って目を細めるとバートは困ったように笑った。

 何の思惑もなく手を出すとは思えなかったんだけど、一体何を考えているのかしら。さっきの口上がそのまま行動原理とは思えないのよね。けど、誰かを次期会長に推してる、なんてことは言えないか。それを公言してしまったら会長の継承について『陰陽』が関わっていると疑惑が生まれる。あの時の病死はひょっとしたら? なんて、疑念が生まれかねないし、裏から操っていると疑われるものね。事実だったとしても否定するしかない、か。

 少なくとも、あたしはバートの話に気乗りしない。

 多分ハルヒトも、ユキヤも同じはず。


「ロゼリアお嬢様、そしてハルヒト様。このお話は何もあなたがたを次期会長に押し上げようという意志があるわけではないのです」

「……どうかしら」

「オレにはそうとしか思えないけど……」


 ハルヒトとほぼ同時に呟いてしまった。

 バート自身が怪しいというのがまずひとつ。そして、何をどう考えてもこの件に関わることで後継者候補として名乗り出ることになってしまうのがひとつ。これからのことから、積極的には協力しようという気にはなれない。

 ──もちろん、ユキヤのことが一番の要因。

 渋るあたしたちを見てバートが目を細めた。


「今回協力いただくことで、お二人の発言権が上がると考えています。九龍会、八雲会の中で一目置かれ、あなたがたの発言は無視ができなくなるはずです。

──拒絶の言葉も今以上に力を持つでしょう。周りの人間は、あなたがたが自分以外の誰かを推薦する発言もきっと無視はできない」


 なるほど、それは確かにそう。あたしは他に推薦できる相手はいないけど、ハルヒトには妹がいる。ハルヒトが「妹こそ次期会長に相応しい」と言って妹を積極的に推薦していけば、そのまま後継者候補から外れる可能性だって大きい。今は父であるミチハルの声が大きすぎて、ハルヒトの反論は届いてないだろうし……まぁ、ハルヒトの発言権が上がったとしても簡単に物事は進まないのはわかってる。今よりはましになるという話なだけ。

 ハルヒトにとっては多少魅力のある話だから、ちょっとは悩むかと思いきや悩む素振りは見せなかった。

 意外に思っていると、ハルヒトが笑ってこっちを見る。


「ロゼリア」

「……何?」

「悪いんだけど、君が決めて」

「は?」

「話を聞く限り、オレへのメリットもデメリットも大したことがないように思う。ミリヤさんのことは……確かに思うところはあるけど、この件に絡んでるのはたまたまだろう? だから、正直どちらでも構わない。けど、ここは第九領で、九龍会の領域で……彼は君に話を持ってきている。だから、どうしたいかはロゼリアに決めて欲しい」


 えぇ……。ぽかんとハルヒトを見つめ返してしまった。

 急にそんなことを言われても困るんだけど! そう思っていると反対側から「ロゼリア様」とユキヤがあたしを呼んだ。振り返ると、ユキヤはちょっと気分悪そうにしていたけど、それでも無理に笑っていた。


「私もロゼリア様の判断に従います」

「え? いやいや、ユキヤ、あんたは──」

「申し訳ございません。どちらにしても、多分正常な判断ができないと思いますので……」


 え、困る。二人揃ってそんなに重要な判断をあたしに委ねないで欲しい。

 正直気乗りしない。けど、終わらせるためのチャンスだって言うのはわかる。ここでバートの提案を逃したら、あたしの力で終わらせ方を考えて終わらせないといけない。その間に以前のような危険がないとも限らない。

 本来ならあたしを殺すはずの組織が逆に手伝ってくれるっていうんだから、悪い話じゃない。

 けど、ユキヤとハルヒトの不安を煽るような真似をしたのがどうしても気に食わない。あと自分の行動がただのパフォーマンスで済むならいいけど、話が大きくなりすぎるのは困る。

 色んな考えがぐるぐると巡る。こんなの、すぐに答えられるはずが──。


「お待ちください、お嬢様」


 あたしが悩んでいるとジェイルが思考をストップさせるために声を張った。視野が狭くなっていたけど、ジェイルの声でぱっと広がったような気がした。変な思考に飲まれるところだった、危なかったわ。

 ジェイルを見るといつもどおり真面目くさった顔をしていた。


「重要な話です。直ぐに判断すべきではありません」

「そ、それもそうね……」


 よかった。ジェイルがいてくれて。勢いのままに考えて返事をしかねなかった。

 あたしの反応を見たジェイルが胡散臭そうにバートを見る。


「羽鎌田バート」

「はい、なんでしょうか?」

「全体的に話が漠然としすぎている。既に計画はあるんだろう? 判断するのに必要な情報は全て出すべきだ。例えば明日決行と言われても流石に無理に決まっている」

「ご尤もです」


 ジェイルが淡々と告げると、バートは深く頷いた。なんだかんだで言いたいことをはっきり言うジェイルの性格、助かる。あたしやメロとは別の意味で物怖じしないし、相手が誰だろうと言う時は言う。

 いつ、どこで、どんな風にやるのか、くらいの構想はあるわよね。確かにそのへんの情報をくれた方がイメージは掴みやすい……。


「作戦の予定日は十一月十一日。場所は例の倉庫です」


 うん? 十一月十一日……?


「その日は例の倉庫の竣工と引き渡し予定日です。引き渡し時にミリヤ様もお忍びで訪れるということでした」


 ミリヤも来る? 十一月十一日、に?

 っていうかその日ってルート分岐日なんだけど!?

 ま、まずい。これは本気でちゃんと考えて決めないと、あたしの運命が左右されるんじゃない?! いや、そうでなくても重要な話だから、軽い気持ちで決めちゃいけないのはわかってるわ。


 けど、この選択次第であたしの生死が決まる。

 ゲームでもここの分岐次第であたしの殺され方が決まるんだし……ゲームとは違った状況になってるけど、この選択はどう考えても最重要!

 ……う、気分が悪くなってきた。

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