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悪女の悪あがき ~九条ロゼリアはデッドエンドを回避したい~  作者: 杏仁堂ふーこ
本編

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183.描くもの②

 あたしはハルヒトを凝視して、固まってしまった。

 いや……いや、なんでハルヒト!?

 ハルヒトは現在のあたしの問題から一番遠いはずなのに、どうしてハルヒトが呼ばれるの? アキヲを追い詰める場とやらに一番必要ない人間じゃない? 意味が分からないわ。

 多分、そう感じているのはジェイルもハルヒトも同じよね。あたしと同じようにハルヒトを見つめているもの。


「ハルヒトさま、こちらにどうぞ」

「あ、うん……」


 アリスが椅子を持ってきてハルヒトに勧める。が、それを見たジェイルが慌てて立ち上がって、座っていたソファから退いた。


「ハルヒトさん、ここにお座りください」

「え? オレはどこでもいいよ?」

「いえ、そういうわけにはいきません。自分がそちらに座ります」


 応接室のソファは三人掛けのソファが向かい合っている。ゆったりした作りだからギリギリ四人座れるけど、多分あたしと男三人だときつくなっちゃう。途中で人が増えた場合は部屋の隅に置いてある予備の椅子を使うしかない。事前にわかっていれば一人用のソファを持ってきたりできるんだけどね。

 今回は準備も何もないので予備の椅子を使うしかない。で、更にその予備の椅子にハルヒトを座らせられないというのがジェイルの意見。

 ジェイルとハルヒトは場所を交換するような形で移動し、あたしの隣にハルヒトが困った顔で腰を下ろす。ジェイルもアリスが用意した椅子に座り直した。

 役者が揃ったからか、バートは満足げに頷いていた。……やっぱりちょっとムカつくわ。


「千代野ハルヒト様、お呼び立てして申し訳ございません」

「うん……急にアリサに呼ばれたからびっくりしたかな。で、あなたは?」

「羽鎌田バートと申します。ハルヒト様はご興味がないかと思いますが……『陰陽』という組織に所属しています。こちらにいる白木アリサも私と同じく『陰陽』の構成員です」


 流石にハルヒトも警戒しているようで笑顔が硬い。その様子を見ながら、バートは端的に自己紹介をしていた。

 さっきは紹介を省いたアリスのことも。名前は『白木アリサ』で通すらしい。まぁここにいるメンバーに本名を明かすメリットがないって言えば確かにそう。

 アリサも、ということにジェイルとユキヤも驚いたようだけど、この場で言及はしなかった。


 彼の言う通り、ハルヒトは『陰陽』なんてものに興味はない。というか、単純に知らないのよね。だからゲームでもアリスが正体を表しても「そうなんだ?」って反応だった。アリスが言いづらそうに自分のことを話しても、その境遇を悲しむことはしても、アリスに対する好意は変わらなかった──と、まぁそんな感じだったので、多分ハルヒトは『陰陽』というものにピンと来てない。

 完全にバートのペースになってることに若干の苛立ちを覚えつつ、目を細めてバートを見つめ、いや、睨んだ。


「……なんで急にハルヒトなの?」

「もちろんご説明致します」


 あたしが睨んでいるにも関わらず、バートはにこにこと笑みを浮かべたままだった。……こう、いつもにこにこ笑顔のキャラクターって結構好きだったんだけど、こっちがイライラしてる時もずっとにこにこしているからめちゃくちゃ神経逆撫でしてくるのね。これって結構ムカつくわ、初めて実感した。とは言え、この場でこの苛立ちを馬鹿正直にぶつけるわけにもいかない。

 ジェイルはあたしと同様に苛立っていて、ハルヒトは困惑している。一番他人事じゃないユキヤは──どこか苦しげな表情をしていた。

 アリスに視線を向けると申し訳無さそうな顔をしている。アリスのせいじゃないけど……ちょっと八つ当たりしたい気分だわ。

 そんな微妙な空気を無視して、バートが説明をはじめる。


「今、ロゼリアお嬢様は問題を抱えています。第九領、南地区の代表である湊アキヲ様が悪事に手を染めている──……いえ、ただの悪事ではなく、下手をすれば国家反逆罪にも相当しかねない問題です」

「ちょ、流石にそこまでは──!」

「いいえ、ロゼリアお嬢様。私どもは事態を重く見ているのです」


 驚いて口を挟むけど、バートは強い口調で否定をしてきた。

 いやいやいや、国家反逆罪って……。ゲームではそこまでじゃなかったけど!?

 他領に悪影響があるかもしれないし、アキヲが闇オークションや人身売買の手を広げるかも知れないって点ではかなりやばいことであるんだけど、アキヲだって国に反逆する意志なんてないはずよ。

 ジェイルとハルヒトも話の大きさに驚き、ユキヤは驚いた後で青ざめていた。


「彼が他領のみならず他国まで手を伸ばす可能性は否定できません。既に彼が得体のしれない組織と繋がりを得ているのはご存知でしょう? ……味を占めてしまったら、後戻りなどできるはずがありません」

「……他国だなんて……父に、そんな大それたことができるとは……」


 ユキヤが声を絞り出す。少し掠れた声が痛々しい。

 バートは大仰な動作で首を振ってみせた。


「ユキヤ様がお父上を庇いたい気持ちはわかります。しかし、このまま野放しにできないことも理解されているはずです」

「……それは、……はい。わかっています」

「アキヲ様にご自身の行いの重さを知っていただき、それに見合うだけの罰を受けていただきたいのです。──厳格な処罰というものを、ユキヤ様もお望みなのではないでしょうか? 罰とは苦しものですが、アキヲ様のためでもあります。何よりも何の罪もない南地区の住民たちのために……断行せねばならぬことは、ユキヤあ様が一番ご存知でしょう」


 まるで演説のようにバートは朗々と語っていた。用意したセリフを喋ってるみたいだわ。

 けれど、その言葉はユキヤには重くのしかかっている。ユキヤが体を折り曲げ、膝の上に腕を置き、項垂れてしまった。目に見えぬ何かに押し潰されてしまったようだった。


「……。…………は、い」


 苦しそうに肯定するユキヤに室内の人間全員の視線が集中した。

 視線には同情や憐憫が含まれていて、これらの感情にユキヤが気付かなくて良かったと思う。あたしやジェイルに同情や憐憫を向けられたいわけじゃなかっただろうから。


 ユキヤはまだ悩んでる最中だったに違いない。

 自分がどうしたいか。どうするのが一番いいのか。

 ユキヤが自分自身で「そうしたい」、もしくは「そうしなきゃいけない」と決めたならまだしも、こんな風に選択を迫られるなんて思わなかった。しかも選択肢は一つしかない。……これでユキヤが納得できるかって言われたら、きっと納得なんかできないわ。

 悔しいわ、ユキヤの心が決まるまで待てなかったのが。


 微妙な雰囲気の中、ハルヒトがユキヤから視線を外してバートを見た。


「……その問題にオレは全く関係ないんじゃないかな」

「はい、直接的には関係ありません。しかし、八雲会もアキヲ様に加担をしてしまっているのですよ」

「……八雲会が?」

「正確には八千世ミリヤ様が、ですが」


 ハルヒトが目を細める。八雲会と聞いて反応をしたけど、八千世ミリヤの名前への反応は微妙だった。

 そして、ハルヒトは苦笑いを浮かべて大きく息を吐き出す。


「ますます関係がないな。ミリヤさんのことは、オレにはこれっぽっちも関係がない」


 それまで前のめりに話を聞いていたハルヒトが呆れて、ソファの背もたれにどさっと凭れ掛かってしまった。ユキヤとは正反対の態度なのが妙におかしい。

 とは言え、ハルヒトが関係ないと思ってるだけで無関係じゃないのよ。以前、あたしがした妄想が現実なら、ハルヒトは無視できない話のはず。誰だって死にたくないもの。──あたしはずっと死にたくなくて、死ぬ運命を回避したくて行動してきたから、よくわかるわ。


「アキヲ様は八雲会の八千世ミリヤ様から資金援助を受けています。そして、アキヲ様のミリヤ様への資金援助の対価は……あなたの命なのですよ、ハルヒト様」

「……は?」


 ハルヒトの顔が歪んだ。気持ち悪い生き物でも見てしまったようだった。

 いつの間にかバートはにこにこ笑顔を引っ込めて真剣な顔をしている。その表情は仮面をつけてるみたいで妙に気持ちが悪かった。

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