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悪女の悪あがき ~九条ロゼリアはデッドエンドを回避したい~  作者: 杏仁堂ふーこ
本編

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173.隠し通路探し②

 しっかり作りこまれたゲームでもなかったから細かいところは結構あやふやだったのよね。けど、現実になってみれば、当然建物は絵じゃないし、ちゃんとした倉庫なのよ。

 ここから不測の事態が起きた時に逃げ出すためには何が必要?

 なんてことを考えていたら、ジェイルに肩を叩かれた。

 はっと我に返る。

 足元を見つめて立ち止まっていたから、心配をかけてしまったようだった。


「……何かありましたか?」


 あまり声を出さない方がいいということだったし、あたしは無言で首を振る。そして、声を潜めてジェイルに耳打ちをした。


「もう少し見て回るわ」

「……。承知しました」


 そう言って素知らぬ顔をして歩き出す。

 ユキヤもノアも、そしてジェイルの部下二人も「どうしたんだろう」って顔をしてあたしを見つめていた。ここで「隠し通路がないか探して」なんて言ったら、一斉にキョロキョロしちゃいそうだし、伝える気にはなれないのよね。あと「なんで隠し通路?」ってなりそうだし、現地で確証もないのに思い付きっぽい発言は混乱を招きそう。

 ヒントだけでも見つけ出したい──。

 あとはジェイルにでも伝えるか、アリスを通じて『陰陽』にタレ込むか。どっちかで対応したい。

 そう思いながら、視線と思考を巡らせる。


 八番倉庫と周辺の倉庫を眺めながら考えた。

 仮に倉庫を包囲でもされようものなら逃げ場がないのよね。ってことは、やっぱり地下に道を作ってそこからある程度距離のある場所まで逃げるっていうのが最善な気がする。隠し通路というか、どちらかと言うと非常口的な?

 そんな大層な地下道が簡単に作れるものかしら……?

 いや、でも大層なものじゃなくていいのよね。人が通れるくらいの幅があれば何とかなる。

 水道管とか溝とか……。なんかそういうのをちょっといじれば──。

 と思ったところで、八番倉庫と繋がっている側溝を見て違和感を覚えた。


「……ねぇ、この辺の側溝ってちょっとおかしくない?」


 ジェイルにそっと耳打ちをする。ジェイルはあたしの言葉を聞いて側溝へと視線を向けた。

 新しいのは修繕が理由だろうけど、素材が他とは違うしやけに浅い。その下に何かあるみたいな感じ。


「そういえば……そう、ですね」

「……地盤の関係で浅く作ったり、素材を変えることはあるみたいです」


 ノアー!

 そういう可能性の話をしてるんじゃないのよ。なんかおかしい→もっと詳しく調べてみよう、みたいな展開を期待してるのに!

 隠し通路の存在をどうにかうまく伝えられないかと考えた。


「この手の側溝って、八番倉庫に繋がってるのばっかりじゃない?」

「確かに。……ちょっと妙ですね」

「……昔、倉庫街を作る際に土地や地盤の確認は念入りにしたと聞いています」


 ユキヤもコソコソと会話に加わってきた。

 よし、いい流れ。ノアの説は軽く否定されたことになる。地盤や地形以外の理由によって側溝の作りを他の倉庫のものと変えているという事実になりつつあった。あと一押しで、隠し通路というところに辿り着けそう。


「八番倉庫と何か繋げてる、とか……?」


 あたしは色々と悩んでいるふりをして呟いた。ジェイルもユキヤも、そしてノアも驚いたような顔をする。

 ここにいるメンバーは八番倉庫が闇オークションや人身売買の会場になることを知っている。だから、そこから考えていけるはず。

 しばしの沈黙の後、ジェイルが何かに気付いたように顔を上げた。

 そして、側溝と倉庫とを見比べる。


「非常時のための通路……?」

「──なるほど。隠し通路、ということですね」


 ジェイルとユキヤがあたしの辿り着いて欲しい回答を口にしてくれたのでホッとした。

 よし、これであとは更なる調査を二人に任せておけば、自然と裏付けが取れるに違いない。仮に、あたしの勘違いで側溝の下に隠し通路がなくても「八番倉庫からどこかに逃げるための隠し通路」と意識付けができた。

 あたしにとっても、不測の事態が起きた時に隠し通路の存在を押さえておけるのは有利に働くと思う。何なら、隠し通路の出口から逆に乗り込んで現場を押さえるという手段も取れるわけだしね。

 歩きながら、ジェイルが部下二人に指示を出している。側溝のことを調べろ、修繕のことをもっと詳しく調べろと言ってるから、隠し通路もいずれきちんと特定されると思う。多分。


 新事実が発覚し、そのことで盛り上がっていたせいか、ちょっと周囲への警戒が薄れてしまっていたんだと思う。

 あたしたちを怪しむ視線に気付けなかった。


「おい、お前ら」


 ガタイのいい男に呼び止められ、全員ピタリと足を止める。

 ヘルメット被った壮年男性は訝しげな視線をあたしたちに向け、値踏みするように眺めていく。


「さっきからこのへんをウロウロしてるが……何の用だ? 見ない顔だし」


 こういう事態を想定してなかったわけじゃないけど、いざ声をかけられるとめちゃくちゃドキッとするわね。しかもかなり心臓がバクバクしている。あたしはこういう場合、しれっとした顔で立っててくれって言われてるから、基本的に出番はない。

 男、おじさんが更に何か言う前に、ジェイルの部下の一人が彼の前に立つ。


「いやいや、すみません。倉庫を借りたいと思って色々見て回ってるんですよ。このへんの倉庫綺麗でいいなぁって話てたところなんです」

「ここら一帯はもう借り手が決まってんぞ」

「ええっ?! そうなんですか?! どっか一個くらい──」

「ねえよ。……ったく、無駄足だったな。さっさと帰んな」


 あからさまにがっかりして見せるジェイルの部下を見て、おじさんはしっしと手で追い払う仕草をした。

 怪しまれたり、声をかけられたらそれ以上の長居はせずに退散する、というのはジェイルに口を酸っぱくして言われた。だから、ここでもう帰らなきゃいけない。ジェイルが「わかってますね」と言いたげにあたしを見るものだから、黙って頷いておいた。

 ジェイルの部下はしょげた様子であたしたちを振り返る。


「だってさ。全部借り手決がまってるんじゃしょうがない……帰ろう。空いてるところを確認してからまた下見に来よう」


 それらしいことを言い、ノアともう一人の部下が「しょうがないですね」「わかりました」と同意をしたところで、全員で「それじゃ」と退散態勢に入った。

 これで倉庫街から出ていけば終わり。

 本当はもう少し見て回って、他に怪しいところがないかきちんと確認したかったけど──約束だからね、帰るしかない。

 背を向けて、来た道を戻っていく。

 が。


「待て」


 不意におじさんが呼び止めてきた。

 ここで逃げたりすると怪しいだけだし、あたしが足手まといになるから、とにかく何もせずに立ってるようにと言われている。なので、他のメンバーに合わせて振り返るだけ。こういう時の対策もちゃんと立てているらしい。

 さっきの部下がもう一度おじさんの顔を見る。


「まだ何か?」

「なぁんか怪しいんだよな、お前ら……」

「なんか怪しいって言われてもなぁ。ウロウロしてて悪かったって……」

「どこの商会だ?」

「ああ、それなら名刺を──」


 名刺まで用意してあるの? 彼はポケットをごそごそと漁って名刺ケースを取り出す。

 その中から一枚取り出して──。 


「すみませーん! ちょっといいですかー?!」


 場違いな明るい声が響いた。

 当然、声をかけてきたおじさんも、ジェイルの部下も、二人とも視線がそちらに向いてしまう。どちらかに声をかけたんだろうけど、どっちに声をかけたのかわからないような声のかけ方だったから。

 他のメンバーも声につられてそちらに視線を向けてしまった。


 って、アリス!?!??

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