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悪女の悪あがき ~九条ロゼリアはデッドエンドを回避したい~  作者: 杏仁堂ふーこ
本編

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171.視察準備

 そして、とうとう変装して南地区に行く日がやってきた。

 緊張感を持たなくちゃいけないと思う反面、『変装』というものに妙な期待があってちょっとわくわくしている自分がいる。普通に人生送ってたら絶対に遭遇しないイベントだもの。ちょっとくらい楽しんでしまってもバチは当たらないわ、きっと。

 さっと倉庫街に行って、気付かれないように隠し通路を見つけて、さっと戻ってくるだけよ。

 隠し通路が見つからなかったらどうしよう、って不安もあるけど……そこは頑張るしかない。ゲームだとあっさり見つけていたから、あたしにもわかるレベルだと祈っていよう。


 とりあえず今日の行動スケジュールは、

 ・南地区に向かう(ユキヤとのデートという名目)

 ・途中でキキやユキヤたちと落ち合う(キキは今日休みということになってる)

 ・キキに手伝って貰い、髪色を変えて変装

 ・改めて倉庫街に向かう

 という感じになっている。

 なお、落ち合う場所はとあるホテル。ワンフロア貸し切りにしてるから、一応あたしはホテルで一日過ごしてるってことになるわ。場所的にシーズンオフということもあって貸し切りは難しくなかったみたい。

 まぁ、……ホテルでデートって、なんていうか、なんていうか……って感じだし、ジェイルの眉間の皺がめちゃくちゃすごいことになってたけど、変にアリバイ作りをするよりもいいってことでこの案が採用された。

 倉庫街に行くのはあたしとジェイルとユキヤ、ノア、あとはジェイルの部下二人。ノアとジェイルの部下二人が周囲の警戒と何かあった時の見張りをしてくれることになっている。

 メロ、ユウリ、キキはホテルで留守番。適宜ルームサービスを頼むように念押ししている。メロとユウリが留守番を嫌がったのよね……。いいホテルでゆっくりできるいい機会なんだから、満喫すればいいのに。


 とにかく、こういうスケジュールで今日は行動する。

 倉庫街にいるのは午後の一時間程度だし、スムーズにコトが運べばそんなに時間はかからないと思う。髪を染める時間ともとに戻す時間の方が場合によっては多くなりそうなくらいよ。あと変装のためのメイクの時間も。

 ゆっくりしたいから、という理由で早めに椿邸を出て、その時間を確保した。

 ホテルにつき、キキとユキヤと落ち合い、早速変装の準備をする。


 ちなみに、アリスは当然のように今日は病欠していた。



◇ ◇ ◇



「……すごいわ、本当に黒髪!」


 あたしは鏡を見てちょっと興奮してしまった。

 いつもの赤毛が赤毛じゃなくて真っ黒なんだもの。声も出るわよ。

 しかも「染めました」って感じじゃなくて、かなり自然な染め方になっている。真っ黒とはいえ、程よい黒みというか……? こんなに綺麗に黒く染まるんだって感動しちゃった。

 感動のあまり髪の毛に触れようとすると、あたしの背後でキキが慌てる。


「あ、ロゼリア様。髪の毛にはあまり触れない方がいいです……!」

「え」

「大丈夫だとは思うのですが、色移りする可能性があって……なので、髪の毛に触るのは極力控えていただいた方が……」


 なるほど。本当に一時的に染めてるだけだものね。後で落としやすいってことは取れやすいってことなんだわ。

 あたしはこの辺に関しては完全に素人だからキキの言うことを聞いておこう。

 鏡越しに、背後にいるキキと目を合わせて頷いた。


「そうなのね。キキがそう言うなら触らないようにするわ」

「はい、気になるかもしれませんが……よろしくお願いします」


 キキもそう言って頷いた。

 周りにはキキだけじゃなく、ジェイル、ユキヤ、メロ、ユウリ、ノアもいた。なんか囲まれてて地味に落ち着かないんだけど、今の姿をあたしだって認識してもらわないといけないからね……。ジェイルの部下二人はもう先に行って貰ってるけど。


「……すげー、お嬢がお嬢じゃないみたい……」


 メロが鏡の中のあたしを覗き込んで感心していた。周囲もメロの言葉に同意しているようだった。

 本当にそれはそう。

 あたしは髪を黒く染めているだけじゃなく、眉毛にまつ毛も髪色に合うように黒くしている(これはマスカラとかでキキが合わせてくれた)。カラコンもしているから、青い目じゃなくて、ちょっと茶系の黒になっている。あと、メイクも少し変えて貰ったから、普段とは全然違う雰囲気になってるのよ。

 これはすごく楽しい。こんなにも変わるんだ、って自分で感動している。

 すごいことよね、これ。


「パッと見だとあたしだってわからないわよね、これ」

「間近で見ないとわかんないっスね」

「え? 間近で見たらわかるの?」


 それだとあたしの顔を知っている人間がいたらまずいんじゃないかしら。

 そう思って振り返ると、メロは「しまった」と言わんばかりに口元を押さえていた。ユウリは何とも言えない表情でメロを横目で見ている。

 なんかメロとユウリはあてにならなさそうだったので反対側のジェイルとユキヤを見た。


「ねえ。知ってる人間が見たらバレるのかしら、これって」

「いえ……お嬢様のことを知っていても、簡単にはわからないかと……自分はすぐにわかりますが」

「ジェイル……」


 ジェイルの言葉にユキヤが呆れている。

 いや、何なの。あたしのことを知ってる人間にバレるかバレないか、って聞いてるのに、何であやふやな返事が返ってくるのよ。「自分はすぐわかる」とかそういうことは聞いてない。

 ユキヤも当てにならなさそうだったので、最後に残ったノアを見た。


「ノア」

「うわっ。えと、はい!!」

「うわって……。……まぁいいわ。今のあたしを見て『九条ロゼリア』だってすぐわかる?」


 ノアを見つめたまま、今のあたしの顔を指差す。ノアは一瞬「自分が答えていいのか」と混乱したようだったけど、肩をユキヤに軽く叩かれたところで、落ち着いてあたしの顔を見つめた。


「──。……例えばすれ違っただけ、数秒顔を合わせるだけなら絶対にわからないと思います。これくらいの距離でまじまじと見て……ロゼリア様をよくご存知なら「あれ?」と思う可能性があるんじゃないでしょうか」

「なるほど。他の人間と立ち話はしちゃダメってことね」

「はい。あと、多分声でバレます。……ジェイルさんと部下の方以外、つまりロゼリア様とユキヤ様は声を発さないの理想的、です」


 ノアは思いの外淡々と答えてくれた。最後はちょっと我に返って気恥ずかしそうにしてて……ちょっと、いや、大分可愛かった!

 ノアの可愛さを堪能したところで、まともに答えなかった四人をジト目で見る。


「こういう回答が欲しかったのよ」

「客観的な回答ができず、申し訳ございません」


 ジェイルが謝罪を口にした。けど、なんか心が籠もってない。できなくて当たり前、と言わんばかりの態度だった。

 ユウリとユキヤは「すみません」と表面上は申し訳無さそうにしていたのでよしとする。

 メロに至っては「だってしょうがねーじゃん」と顔に書いてあった。何がどうしょうがないのか説明してもらいたいところだったけど、メロに付き合うのも面倒だったので無視をする。

 一番まともかつ信用のおける発言をしたのがノアってどういうことなのよ……。いいなぁ、ノア。可愛いし、賢いし、可愛いし。見てると欲しくなっちゃうから、あまり見ないように視線を外した。


「じゃあ、ロゼリア様、これでいいということなので……髪を一つに結いますね」

「ええ、よろしく」


 下ろしたままだといつもと同じなので、キキが一つに結ってくれる。

 既にユキヤが用意してくれた作業着に着替えているから、髪を結ったら終わり。出発できる。

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