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162.十月一日①

 変装して南地区に視察に行くという相談を終え、慌ただしく過ごしている間にゲーム開始日である十月一日を迎えた。

 気がつけばアリスもハルヒトもいて、ヒロインと攻略キャラクターたちは勢揃いしている。

 登場人物はゲームと変わりないんだけど、元々のストーリーとは既にかけ離れていて、これから何が起こるのかなんて全く想像がつかない。けど、やることは決まってる。

 とにかく計画をしっかり中止させる。アキヲにも何らかの罰を受けてもらう。

 あたしにも何らかお咎めがあるかもしれないけど甘んじて受ける(つもり)。

 そのためには行動していかないと……ほっといたら計画が進んじゃうんだし……。


 しっかし、周囲の人間との関係性はかなり変わっちゃったわよね……。

 ジェイルはあたしのことをかなり見直して、信用してくれてる。一瞬の気の迷いかもしれないけど直属の部下になりたいとも言ってくれてる。

 メロは相変わらずだけど、あたしの役に立ちたいと言ってくれてる。泣きそうになった時は本当にびっくりしたわ。

 ユウリはあたしに対してオドオドした感じが一切なくなって、はっきりと物を言うようになった。受験の準備は大丈夫かしら……。

 ユキヤは本来だったら接点なんてほとんどないはずだけど、ある意味では一番濃い関係かも。九条印も使ったからね。

 ハルヒトとは会わないで済むと思ってたのに不思議なチカラが働いて同居するようになってるし、ゲームと比較すると関係性は一番変わってるかも。

 キキとも以前よりずっと気安い関係になったし、墨谷と水田もあたしへの評価が変わったのは伝わってくる。そして、他のメイドや使用人たちとはあまり深くは話をしないものの、熱を出した時にもかなり心配してくれたりして……評価が変わって好意的になってるんじゃないかしら? いいことよね。嬉しいわ。


 そして、白雪アリス。今は白木アリサ。

 ハルヒトと同様、前世の記憶を思い出した当初は会わないで済むと思ってたんだけど、予想外の出会い方をしてしまった。まさかゲームと同じようにメイドとしてやってくるなんて思ってなかったわ。最初はものすごく動揺して、かなり酷い態度を取ってしまったと自覚はしてるけど、アリスはあんまり気にしてないみたいだった。これはハルヒトも一緒。

 けど、何故か懐かれてる気がするのよね……。偽名のことを教えてくれたり、ちょっと恋バナっぽいことしてみたり。

 何だか本当に不思議だわ。


 なんて。これまでのことをあれこれ振り返って感傷に浸ってしまった。

 何も解決してないし終わってないけど、ちょっとくらい感傷に浸っちゃうでしょ。ゲーム開始日なんだし!

 そんなことを考えていると、アリスがお茶とお茶菓子を持って部屋に入ってきた。


「ロゼリアさま、お茶をお持ちしました」

「ありがとう」


 アリスはもう一人であれこれする時間も増えてきて、キキが一日不在という日もある。どうやら図書館に行って勉強をしたり、学校の見学に行っているらしい。学校に行く準備をしているキキを見て寂しくもあり、やりたいことのために頑張っている姿が嬉しくもあり……ちょっと複雑だった。これまでずっと私生活はキキに頼りきりだったものね。

 その分、アリスが仕事してくれてるんだけど、ぶっちゃけアリスもいつまでいるかわからないし……。

 いずれはあたし自身、自分のことは自分でやらなければいけないかもしれない。ま、まぁ、前世はメイドなんてついてなかったし、自分のことは自分でやってたんだけど、やっぱりこれまでの生活がね……。


「ひょっとしてはお茶とお菓子は……えっと、気分じゃなかったとか……」

「──ああ、飲むわ。悪いわね」


 あたしの前にお茶を置いて不思議そうな顔をするアリスを見て笑う。飲む、と答えるとアリスは嬉しそうに笑った。


「……ロゼリアさま、来週南地区に行かれるんですよね」

「よく知ってるわね……」

「それは、あの、はい。すみません」


 屋敷の人間に『ちょっと出かける』とは伝えているけど、詳細は伝えてない。アリスが知っていることに今更驚かないけど、どうやって情報をキャッチしているのかしら。

 キキには「出かける時に黒に染めたい」とは伝えていて、すごく変な顔をされた。すんなりオッケーしてくれると思ってたから、ちょっと説得に手こずったのよね……。



◇ ◇ ◇



「く、黒髪?! ロゼリア様が!?」

「そうよ。ちょっとした気分転換? みたいな感じ。出かけるついでにね」


 世間話の延長のようなつもりで話を切り出したつもりだったのにキキはものすごく動揺した。目を真ん丸にして、驚愕という言葉がピッタリの反応を見せる。

 あたしはなんでそこまで驚くのかわからず、首を傾げてしまった。


「もしかして……染めるの難しい……?」

「いえ、それは全然……たまにメロとか他の子の髪の毛を染めるのをやらせてもらっているので……大丈夫だと、思い、ます……」


 メロのあの髪ってキキが染めてたんだ……にしては、仕事が雑じゃない? 根本が黒いままだし。でも、「キキさんにやってもらった~」ってはしゃぐメイドの髪の毛は綺麗だったのよね。メロだから雑なのかしら。

 まぁその辺りの話は今重要じゃなくて。

 歯切れの悪さが気になった。全く乗り気じゃないと言うか、戸惑いが伝わってくる。こんなことはキキにしか頼めないから、キキがやってくれないと困るのよね。でも、こんな様子でやってもらうのも不安というか……。


「何か問題がある?」

「……。……いえ、その、」

「言って頂戴。問題があるなら考えるから」


 そう、問題があるなら取り除けばいい。そういう気持ちで言うとキキは重い口を開いた。


「ロゼリア様、黒髪はお嫌いでは……」

「え」

「なので、本当に良いのかと心配で……。……万が一、黒が残ってしまったらお嫌じゃないですか? それから私は趣味でやってるだけなので、何かあったらと思うと……」


 キキが申し訳無さそうに答えた。

 た、確かに昔のあたしは黒髪を嫌ってたわ! メロやキキ、あとはジェイルに酷いこと言った覚えも、ある。ださいとか貧乏くさいとか辛気臭いとか。相変わらず、過去の自分の言動が今のあたしの邪魔をしてる。

 内心すごく慌てながら、冷静ぶってキキに手を伸ばした。


「今は嫌いなんかじゃないわ。キキの髪の毛も、天使の輪が綺麗に見えて素敵って思うもの」


 そう言ってそっとキキの髪の毛を撫でた。あたしが伸ばしていいって言ったからか、ちょっと伸びてる。ボブヘアなのか変わらないけど、このままもっと伸ばすのかしら。

 キキの頬が少しだけ赤くなった。あ、可愛い。


「それに、キキにしか頼めないのよね。あんたのこと、信頼してるのよ。

別に黒が残っても気にしないし……キキがやってくれたなら何かあっても文句なんかないわよ。あたしの我儘なんだし」


 その我儘で昔は当たり散らしてたのに、我ながら「よく言うわ」って思っちゃった。

 受けてもらえないかもってヒヤヒヤしたけど、キキは顔を赤くしたまま少しだけ俯いて小さく頷く。


「そ、そういうことでしたら……あの。やらせていただきます」

「よろしくね。楽しみにしてるわ」


 よし。やってもらえることになってホッとした。ちょっと焦っちゃったわ。

 あたしが笑いかけると、キキも控えめに笑い返してくれて心が温かくなるのだった。



◇ ◇ ◇



「……ロゼリアさま……?」


 ぼんやりしちゃったせいで、アリスが不思議そうな顔をしていた。あたしはハッと我に返って、手にしたティーカップを一度下ろす。ぼんやりして落とすところだったわ。


「何でもないわ。──あんた、なんで南地区に行くことを知ってるの?」

「それはすみません、企業秘密です。……でも、わたしも別行動ですが行きます、ということを伝えたくて……」


 思わずアリスをまじまじと見つめてしまった。アリスは居心地悪そうに視線を逸らす。

 デパートに行く時もついてきたということを考えると、この子はあたしが出かけるなら同じ場所に赴いてあたしの行動を見守り、必要であれば護衛をするのが仕事なのね。……危ないことがないのを願うばかりだわ。


「来るなって言っても」

「行きます。わたしの仕事でもあるのと、ロゼリアさまをお守りしたいので」


 きっぱりはっきり言うアリス。赤い瞳には強い意志が宿っている。

 何か策を講じて足止めをするのはきっと無理でしょうね。来られて困るわけじゃないからいいか……。


「わかったわ。前みたいにメロに見つからないようにね」

「は、はいっ! ──それから、これは視察が終わってからでいいのですが……ひとつ、ご相談が……」


 相談? 一体何かしら。変なことじゃないでしょうね……?

 ゲーム開始日ということもあって、ちょっと身構えてしまった。

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