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悪女の悪あがき ~九条ロゼリアはデッドエンドを回避したい~  作者: 杏仁堂ふーこ
本編

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161.残りの話

「えっ?! ハルヒト!? 何してんの?」


 扉を開けたらハルヒトがいたから驚いた。なんでいるのよ、ハルヒトは呼んでないのに。

 あたしの驚きとは裏腹にハルヒトはにこにこと笑っていた。


「やぁ、ロゼリア。ちょっと気になって来ちゃっただけ。仲間に入れてなんて言わないから安心して」

「……言われても困るだけよ」


 南地区の話題にはハルヒトは全くの無関係だから話に入れるつもりはない。っていうか入ってもらっちゃ困る。八千代ミリヤが一枚噛んでるかもしれないんだし、聞いて欲しくないのよね。……ハルヒトがどう思うかもわからないから余計に。

 ハルヒトは「わかってる」と言いたげに笑って頷いている。

 ちょっと感覚がズレてるけど、物わかりが悪いわけじゃないから大丈夫よね。


「話は終わったわ」

「わかりまし──……」


 横からジェイルが姿を表し、あたしを見て頷いた。言葉が途中で途切れたから不思議に思うと、ジェイルは部屋の中へと視線を向けていた。


「……ユキヤ? どうかしたのか?」


 ジェイルが訝しげな顔をして部屋を覗き込み、ユキヤを呼ぶ。

 別に何もないはずだけどと思いながら振り返ると、ユキヤは顔を赤くして口元を片手で覆い隠していた。

 えっ!? 何!? 何その顔!?

 あたしはぎょっとしちゃったし、ジェイルは怪訝そうな顔のままだ。


「な、ななな、なんでも、ないです! 本当になんでもないので……!!」


 あたしたち二人の視線を受け、ユキヤにしては珍しく慌てていた。いつも穏やかで取り乱したところなんて見せないのに、めちゃくちゃ慌てて手を振っている。顔は赤いし、なんか普通じゃないし、……いや、本当にどうしたの?!

 ユキヤの様子を見たノアも唖然としている。……多分普段こんな姿は絶対見せないんでしょうね。


「ユ、キヤさまっ、……あの、何が……!?」

「いえ、……本当に何もありません」


 ノアに声をかけられて少しは落ち着いたのか、ゆっくりと深呼吸をしていた。ノアの前ではこんな姿は見せられないって気持ちが伝わってくるようだわ。顔はちょっと赤いままだけど、ノアが焦ったようにユキヤに近づいていくのを見守る。

 本当になんでこんな反応になってるのかわからない。普通に話してたはずよね?

 ユキヤをじーっと見つめるのだけど、ユキヤはあたしのことを見なかった。視線に気付いてないとかじゃなくて、敢えてあたしを見ないようにしてる。何なのよ……!

 釈然としない気持ちのままユキヤとノアを眺めていると、横でジェイルがこそりと耳打ちしてきた。


「……お嬢様、ユキヤに何か……?」

「何もしてないわよ。普通に話していただけ。わけわかなんないわ」

「そう、ですか……」


 本人が「何でもない」と言い張る以上はどうしようもない。

 ため息をついて応接室に戻ろうとしたところでメロとユウリがすぐ傍まで来ていた。少し離れてハルヒト。


「……お嬢」


 ジェイルと同じようにこそっと耳打ちしてくるメロ。その表情は真剣で、それでいて不機嫌そうだった。なんでメロが不機嫌になるようなことがあるのよって眉間に皺を寄せてしまう。けれど、メロはそんなあたしの反応お構いなしに言葉を続けた。


「まさかとは思うけど、ユキヤくんになんかエッチなことし」


 スパァン! と、小気味よい音がした。

 メロが全てを言い終わらないうちにあろうことかユウリがメロの頭を引っ叩いたらしい。メロはその場に蹲り、ユウリは珍しく怒った顔をしてメロを見下ろしていた。

 ジェイルはものすごく渋い顔をしているし、ハルヒトは何とも言えない変な顔をしている。ちなみに部屋の中にいるユキヤたちには今のセリフは聞こえてなかったらしい。よかったわ。

 あたしはあたしで、メロのことを思いっきり馬鹿にした目で見下ろしてしまった。


「あんた、バッッッカじゃないの?」

「……ってぇ……! だ、だって、あの反応はなんか、なんかさぁッ……」


 メロは蹲ったまま、叩かれた頭を押さえてちょっと涙目でこっちを見上げてくる。ユウリの一撃がよほど痛かったらしい。いい気味だわ。


「するわけないでしょ。どういう発想よ」

「だから、ユキヤくんの反応が……」

「知らないわ。とにかく変な想像をしないで頂戴。ユキヤにも失礼でしょ」


 そう言って少し屈み、デコピンをお見舞いしておいた。ユウリがしっかり殴ってくれたからあたしからはこれくらいにしておこう。

 メロが涙目のままあたしの顔を見上げる。

 目が合った。普段よりもずっと雄弁な視線で、思わず「何よ」と言ってしまった。


「本当になんにもしてないっスか……?」

「してないわよ」

「ほんと?」

「してないったら。……何なのよ、あんた」


 大体そんな想像をする方が本当にどうかしてる。あたしは盛大にため息をついて腰を持ち上げた。

 もういいわ。メロに構ってたら時間がいくらあっても足りない。

 そう思ってジェイルとユウリに視線を向けると──メロほどではないけど、何か言いたげな表情をしていた。ユキヤがなんであんな反応をしたのかなんてわかるはずがないのに……もう一度ため息が漏れる。


「お嬢様、ユキヤとは何を……」

「ちょっと話をしただけ。最近どう、ってね」


 ジェイルが焦れたように聞いてくるけど、詳しくは言わなかった。

 っていうか、ユキヤには「言わないで欲しい」と言われてるからさっきの話は買い物のことも含めて言えない。……ってあら? ブラウスのお礼を言ったことは、ユキヤの言った「全て」には含まれない、んじゃないかしら。約束をした後の話だし……。

 ブラウスを買ってもらったお礼を言うのは人として当たり前だし、いいこと、よね……? 別に隠す必要もないはず。

 ちょっと迷ったけど、それくらいならいいだろうという自己判断のもと、肩を竦めた。


「あとはブラウスのお礼を言っただけよ」


 そう言ってブラウスの襟元に触れた。うん、シンプルながら華やかさもあっていい感じだわ。

 あたしの言葉に、周囲にいた四人は目を丸くした。

 何なのよ、その反応。

 そして、四人の視線がほぼ同時にユキヤに向く。……いや、本当に何なのよ。

 視線を向けられたユキヤは普段通りの表情に戻っていて、「???」と不思議そうな顔をしていた。


「えぇと、すみません。お騒がせしました……落ち着きましたので、残りの話をしませんか」

「そうね。──ハルヒト、悪いけどまた後で」

「あ、うん。わかった、後でね……」


 ハルヒトに一旦別れを告げると、釈然としない様子で離れていった。その背中を見送ってから、ユウリが扉を閉める。ごん、とメロにぶつかっていたけど無視して無理やり閉める。メロは慌てて部屋の中に入ってきた。メロを無視して元の位置に戻る。

 ジェイルとユウリもついてきたので座るように言ったのだけど二人とも首を振った。落ち着かないから座れと言う前に、ユキヤが申し訳無さそうな顔をしているのが目に入る。


「先程は失礼しました」

「別にいいけど……大丈夫なの?」

「はい、あの。ロゼリア様が心配されるようなことは何もございませんので……」

「ふーん? まぁいいわ。あとは日程とか──」


 と話の続きをする。

 話をしている間、ジェイルとユウリはどこかチクチクした視線をユキヤに送っていて、ユキヤは当然落ち着かない様子。ノアも何とも言えない顔をしてユキヤを見つめていた。

 話の最中にメロが「ユキヤくんってピュアなのかむっつりなのかわかんね」とぼやいていた。

 ゲームだとピュアというか終盤までかなり誠実で、終盤になると一気にアクセル踏み込む感じだったわ。そこが好きなの。


 帰りがけ──。

 あたしはアリスを呼んでユキヤに正式に紹介した。ひょっとしたら恋に落ちる瞬間が見れるかも、ってすごくわくわくしていた。だけど、「湊ユキヤです。よろしくお願いします」「白木アリサです。よろしくお願いします」ってお互いに頭を下げるだけで、驚くほどに当たり障りのない挨拶で終わってしまった。二人ともよそ行きの顔というか、お仕事モードというか……とにかくそんな感じ。何かが始まった気配は全くと言っていいほどなかった。

 期待が大きかっただけに本当にがっかりよ……。

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