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悪女の悪あがき ~九条ロゼリアはデッドエンドを回避したい~  作者: 杏仁堂ふーこ
本編

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152.変装会議③

「ちなみにユキヤはどんな格好したの?」

「顔を見られないようにしたくて、作業員に扮しました。帽子を目深に被っていれば誤魔化せたので……」

「ふーん、じゃああたしもそれにする」


 ユキヤがそれで見つからなかったというならそれが一番良さそう。

 と、思っていたんだけど、視界の端でジェイルがひたすら嫌そうな顔をしている。無視しようかなと思ったところでジェイルの方が先に口を開いてしまった。


「……お嬢様。そのような格好はどうかと……」

「別にいいじゃない」


 さっきみたいにはっきりと「反対です」というわけじゃないにしろ、ジェイルは作業員という格好には反対みたい。見つからないことが最優先だからユキヤがそれで見つからなかったというならそれでいいと思うんだけど、なんかまずいことがあるのかしら。

 何か理由があるのかと思ってじっと見つめてみた。

 すると、ジェイルは言いづらそうな様子で理由を言おうと口を開く。


「品がありません」

「……ひ、品?」

「そうです。変装とは言えやはり──……」


 反対の理由がそんなんだとは思わなくて、眉根を寄せてしまった。

 周囲も「なんだそれは」って反応だったのも手伝ってため息が漏れる。それと同時に怒りのメーターがぐっと上がってしまった。


「あんたさっきのあたしの話聞いてた?! バレないようにしたいのよ! 品とか気にしてる場合じゃないの!」

「し、しかし……」


 声を荒げて凄んでしまった。ジェイルは若干たじたじ。

 いけない。あんまり怒っちゃいけない。いちいち怒って言うことを聞かせてたんじゃ前と何も変わらない。冷静に、冷静に……。話せばわかるはず……。

 自分にそう言い聞かせ、小さく深呼吸をした。


「……あたしが『九条ロゼリア』として出向くなら、あんたの言うことは正しいわ。九条家の人間として、品のない言動や振る舞いはできない。

け、ど、ね? 今回は要はお忍びなのよ。バレちゃダメなの。大体そんなことを気にしてたら、最初にあんたが言ってたように余計に危険になっちゃうでしょ。とにかく品とか気にする必要がないくらいの対策をして頂戴」


 そう言うとジェイルは何も言わなかった。わかってくれた、のかしら。

 大体品なんて気にして変装してたら、絶対に周囲から警戒されるような、いや、人目について記憶に残るような格好になっちゃうわ。ジェイルが心配だって言うのと相反するのよねー。ジェイル、そこんとこわかってるのかしら? ちょっと意見がブレているから、そっちの方が心配よ。


「……お嬢が正論言ってる」

「うるさいわよ」


 メロが不思議そうに言うのを見て思わず睨んでしまった。メロは慌てて口を噤んだ。


「お嬢様……申し訳ございません。余計なことばかり考えていたようです」

「いいのよ、わかってくれれば」


 ジェイルがそう言ってあたしに向かって頭を下げた。というか、こんな場所で堂々と頭を下げることができるジェイルってすごいわ。ユキヤって言う友人の目もあるのに。

 そんなユキヤはジェイルを見て目を丸くしていた。


「ジェイルが素直に謝るのも珍しいですね……」

「おい、ユキヤ。茶化すんじゃない」

「ふふ、失礼しました。──とにかく、変装の内容や方針も決まりましたし、私とジェイルで気合を入れて計画を立てさせていただきます」


 気合……。さっと行ってさっと帰ってこれる計画でいいんだけどな。変装までして現場を見たいというのは完全にあたしの我儘なんだし……。

 倉庫街──。

 アキヲが作らせているダミー倉庫、ゲーム通りなら外から入れる隠し通路みたいなのがあったはず。アリスはそこから入り込んで確たる証拠というか、要は現場を押さえたって流れだから、あたしもその通路を確認したいのよ。

 場所とか配置とかをこの目で見たいというのはもちろんだけどね。

 とは言え、隠し通路があるなんて今ここで行っても信憑性がないし、現場で「これは……?」って何も知らない風を装ってジェイルやユキヤに教えたい。で、そこから一気にコトを進めてしまいたい。

 ゲームみたいに上手くいくとは思えないけど、情報はいくらあってもいいはずよ。その方が選択肢も広がるに決まってる。


「よろしくね、ユキヤ。──ところで、アキヲの様子はどう?」


 父親の名前を出すとユキヤの顔が僅かに陰った。ノアの表情も少しだけ強張る。

 え、何か聞いちゃいけないことだった……?


「……まさか。何かまずいことがあった?」

「いえ……倉庫の改装も進んでいるので計画を勝手に進めているのは間違いないです。私が上手くロゼリア様に取り入ったとでも思っているようで……よくロゼリア様の様子を聞いてきます」

「そうなのね」


 ユキヤは奥歯にものが挟まったような言い方をした。見るからにまずいことがあった、って感じ。

 それはそれとして、あたしのことは諦めてない、か。あたしがいれば責任を押し付けられるし、色々と都合がいいものね。

 『組織』との関係性があるにしても、計画を全く中止する素振りも見せないのもなんか引っかかる。継続しないとまずい理由があるのよね、きっと。

 浮かない様子のユキヤを見て目を細める。


「何かあるなら教えて頂戴」

「金銭の流れが……どうにもおかしくて……」

「お金?」


 どういう意味だろう。首を傾げたところで、ユキヤが組んだ指先を動かし、何か悩んでいた。

 やがて、黙っていられないとばかりにユキヤが視線を落としてため息をついた。


「……父の懐に、父のものではない金銭が流れ込んでいるようなんです」

「アキヲの、ものじゃない……?」

「はい……これまで、計画に使ってきた金銭はロゼリア様からの出資がメインで、あとは父が管轄している商会などからの上納金でした。要は南地区、もしくは第九領の金銭で賄われていたんです。ロゼリア様が計画を降りたことで金銭的にかなり苦しくなるはずだったんですが……」

「よそからお金が流れてきてアキヲの懐が潤っている、と……」

「……そのようです」


 ユキヤは力なく頷いた。

 別のパトロンがついたってこと? けど、アキヲにつくパトロンなんている?

 うーーーーん。『よそ』って言うのは他領ってことよね……。

 繋げていいかわからないけど、現状繋がりそうなのは一つしかない。アリスと話をした時にも他領の話は出てきたし、そこで何か悪いことが起きているのは間違いないようだった。

 あたしはため息を一つついて、第八領の方角を指さした。


「ユキヤ、お金の出どころってお隣さん?」


 ジェイルとユウリが息を呑む。メロは我関せずって顔をしている。

 そしてユキヤはというと、何とも言えない表情のまま俯いていた。


「……あんたならある程度出どころは調べてるはずよね?」

「う。はい。……まさか、他領まで巻き込んでいるとは思わなくて、信じ難かったんです」


 ユキヤは肩を落とした。ただの身内のゴタゴタかと思ったら他所様まで巻き込んでるなんて、普通は思わないわよね。

 第八領というか八雲会が本格的に胡散臭くなってきたわ。

 とは言え、八雲会の会長、つまりハルヒトの父親がそんなことをしているとは思えない。というか、やり口がみみっちいし、他領の一地区に興味を示すとも思えない。

 色々と考えを巡らせつつ、お茶を一口飲んだ。ちょっと温くなってる……。


「これはただの妄想なんだけど……八雲会の会長から後継者として名指しされた婚外子を人身売買や闇オークションで始末したいって考える人間はいるわよね、きっと」


 流石に全員の表情が強張った。

 思いつく範囲だとそれくらいしか考えられないのよね。元々そいつはハルヒトを亡き者にしたいって考えてたはずだし。

 つまり、アキヲにお金を流しているのは八雲会の会長の正妻なんじゃないかって話。

 ついでに言えば、アキヲと繋がっている『組織』が、第八領で取り入っているのもその正妻の可能性が高い。名前はなんだったかしら……。

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