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悪女の悪あがき ~九条ロゼリアはデッドエンドを回避したい~  作者: 杏仁堂ふーこ
本編

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151.変装会議②

 あたしの『お願いポーズ』に固まるジェイルをよそに、ユキヤが小さく咳払いをした。


「まぁまぁ、ジェイル。ロゼリア様が言うには少し見に行くだけ、ということですし……いいじゃないですか」

「ユキヤ、お前……!」


 ジェイルが眉間に皺を寄せて、ユキヤを見、いや睨んだ。

 いつまでも同じポーズを取ってるのは馬鹿らしいし、一旦手を下ろす。そして、追撃をするようにユウリに目配せをした。ユウリはあたしの視線にちょっと驚いたっぽいけど、少し慌てながらジェイルに向かって口を開く。


「そ、そうですよ。単独で行かれるわけじゃないですし、ロゼリア様がご自身の目で確認されるのも大切ではないでしょうか?」

「……真瀬」


 ジェイルの睨みはユウリに向かった。立場上、ジェイルに睨まれるのはびっくりするらしくて、ユウリは強張った笑みを浮かべている。

 残ったメロは、というと……フォローは頼んでないから何も言わなかった。ただ、ジェイル、ユウリ、そしてユキヤの顔を順番に眺めて観察している。最後にあたしを見てから、しょうがないと言わんばかりに笑い、ソファの背もたれの上に肘をついてジェイルを見つめた。


「いーじゃん、それでお嬢が納得するならさー。心配すんのもわかるけどお嬢がこっそり勝手に行ったりする方が困るだろ?」

「花嵜まで」


 あら、メロまで加勢してくれるのは意外だったわ。

 結果としてジェイルは劣勢。4:1の状況になってしまったのもあって、これ以上は反対意見を突き通せないようだった。言ってもよかったんだろうけど、そうなるとあたし含めて周りからの反感を買うとでも危惧したのかもしれない。

 ジェイルはこれみよがしに大きなため息をついた。

 そして、本当に渋々という表現がぴったりな表情で重々しく口を開く。


「わ、かりました。そこまで言うなら仕方がありません……変装して視察に行く、ということで計画を立てます」

「よかった。ありがとう、ジェイル。──あんたの心配もわかるから、現地さえ見て確認できるなら、その他の詳細は任せるし、ちゃんと従うわ」

「承知しました」


 眉間の皺がくっきりだった。どうしても南地区には行かせたくなかったみたい。過保護すぎない? って思ったけど、まぁ万が一何かあってからじゃ遅いのよね。ジェイルに全責任が行っちゃうし、渋るのは当然と言えば当然。あたしはせめて、そういう『万が一』が起きないように周囲を警戒しつつ自衛をするしかない。

 ジェイルはあたしに対しては礼儀正しい態度を見せたものの、一呼吸置いてからユキヤ、ユウリ、メロを順番に睨んでいった。


「……ユキヤ、真瀬、花嵜、後で話がある」


 低めの声に、ユキヤとユウリは乾いた笑いを零していた。メロはあからさまに嫌そうな顔をしている。

 どうやらあたしの援護射撃をした三人には思うところがあったみたい。後でお礼を行っておこう。


「お叱りはいくらでも受けますよ。──ジェイル、一つこの場で確認したいことがあります」

「なんだ?」

「ロゼリア様の変装についてです。これはロゼリア様のご希望を加味したいのですが……」


 ユキヤの言葉に少し考え込んだ。希望らしい希望なんてないんだけど……そもそも視察に行くのが目的で、変装は前世でやりたかったとは言え、ただの手段だからあまり我儘を言うつもりはない。


「別に希望なんてないわよ。しいて言うなら、『バレない変装』ね」


 しかし、やるなら徹底的にやりたい。

 アリスも清掃員に変装していた。名乗られなかったら絶対に見破れなかったと思うし、可能ならあのレベルというか、とにかく『バレない』のは必須よ。そしてメロみたいに勘がいいタイプにもバレないのが望ましい。

 そういうと、ジェイルをはじめとして周りが黙り込んでしまった。

 何よ、その反応……。

 やがて、沈黙を破ってユキヤが控えめに声を上げた。


「ロゼリア様、髪の毛はどうなさいますか?」

「髪? どういう意味?」

「申し上げにくいのですが、赤毛は目立ちます。できれば隠せるような変装が望ましいのですが……」

「染めればいいじゃない」


 本当に言いづらそうに言ったユキヤ。そんなに言いづらいこと? と思って返事をすると、周囲が凍りついた。

 なんでこんな反応なのかと不思議に思っているとメロが後ろから覗き込んでくる。


「お、お嬢が……髪の毛を、染める……!?」

「? そうよ」

「髪めっちゃ大事にしてるじゃないっスか! おれらが触ろうもんなら烈火のごとく怒るし、キキにしか触らせないし……染めるなんてありえないって言ってたし……」


 ……。……ま、まぁ、確かにそうね。

 髪の毛は常にツヤツヤしっとりに仕上げさせていて、キキ以外の人間は信用できなかったから(というか扱いのわかってない人間に触らせるのが嫌だった)触らせてない。染めるなんてもっての外って態度だった。自分の赤毛が好きだしね。比較的珍しいという意味も含めて。

 そういう経緯を知っているメロとユウリは「信じられない」という顔をしていた。


「……染めずに済むならそれが一番だけど、中途半端は嫌なのよ。でも染めるのはキキにやってもらうわ」

「い、いいんですか。ロゼリア様……髪の毛、痛みますよ……? メロみたいに……」

「おれを引き合いに出すなよ」


 ユウリがこわごわと意見をしてきて、メロがむっとしていた。

 そんなメロを振り返ってじっと見つめる。メロはぎくりと肩を震わせた。

 ……確かにメロの髪の毛って傷んでるのよね。毛先はパサついてるし枝毛もある。一回色を抜いてから水色にしてて、ヘアケアには気を遣ってるようには見えないし……あと生え際は黒くてプリン状態だし……昔はメロって黒髪だったと思うんだけどなんか記憶が曖昧なのよね。面倒なら別に染めなくてもいいのに。

 メロの髪の毛の状態を確認してから、ため息をついて居住まいを正す。


「ちょっと染めるだけだから、メロのレベルまでは傷まないわよ。多分。大体髪色を変えるのもその日だけでいいんだし……一時的に傷んだとしても、ヘアケアをちゃんとすればいいのよ」

「……それやるのキキじゃないっスか」

「? そうよ」


 当たり前って顔をして答えた。目の前のユキヤが何とも言えない顔をして笑っている。

 って、今の発言……かなり我儘だった? キキがやって当然って態度がまずかったかしら。いやでも実際キキに任せたいのは本心なのよ。やらせたいっていうかやって欲しいと言うか……。

 なんかあんまりこの話には突っ込まれたくないわ。あたしは軽く咳払いをした。


「とにかく! 髪の毛は染めるから問題ないわ。あたしだって目立ちたくないもの」

「……これまでのお嬢だったら考えられないはつげ──あだッ!?」


 イラッとした瞬間、メロの頭をジェイルとユウリの二人が叩いたようだった。小気味いい音が聞こえてきた。


「メロ、あんたちょっと黙ってて」


 振り返らずに言う。相変わらず一言多いというか、何も考えずに発言してるみたい。

 メロが静かになったので、改めてユキヤを見つめた。


「ユキヤ、そういうことだから」

「は、はい。ロゼリア様にそこまでさせてしまうのは申し訳ないのですが……」

「あたしが行きたいって言ってんだからいいのよ。あんたが気にしなくても。

──で。髪の毛の問題はいいとして……変装ってどんな感じにするのがいいのかしら?」


 ちょっとワクワクしてしまった。

 港の倉庫街ってことだし、そこに勤めてる人間の格好よね。ヘルメット被って作業服着る感じかしら。前世で重機を扱ってる人かっこいーって思ってた時期もあるから、実はそういうのに抵抗はない。以前までのあたしだったら「汚い!」とか言ってたに違いないわ……。逆にコスプレ感がある変装の方が抵抗ある……。

 ユキヤは少し考え込み、それから


「そうですね。色々と選択肢はあるんですが……船員であるとか、積み荷を下ろす作業員あたりが多いので、そのあたりでしょうか」


 船員? まさかセーラー服的な……?

 なんかあたしには似合わなさそう。作業員の方がいい気がする。顔も隠せそうだし。

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