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悪女の悪あがき ~九条ロゼリアはデッドエンドを回避したい~  作者: 杏仁堂ふーこ
本編

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141.息抜き

「で、明日は来てくれるってことでいいのかしら?」

『はい、ぜひ』

「わかったわ。待ってるわね」


 視察の件は明日ジェイルを交えて相談するってことで終わり。

 アキヲのことは……一旦保留。深く考えないのであれば、伯父様に忖度せずに厳しい処罰をあたし共々願う、くらいかしら。聞いてくれるかどうかは謎で、なんだかんだであたしに甘い内容になりそうなのがネック。あとユキヤがいい顔しなさそう。

 保留、とにかく保留。後で落ち着いて考える。


『では、失礼します』

「また明日」

『──はい』


 ユキヤの落ち着いた声を聞き、それで通話を終わらせた。

 携帯をテーブルに置いてから背もたれにどっかりと凭れ掛かる。ずるりと背中がずれていってそのまま落ちそうだったので中央にあるソファに移動して、ソファに寝転がった。


「うーーーーーん……」


 終わらせ方を考えなきゃいけないのか。

 ゲームはアリスが現場を押さえて、それで終わりになっちゃったけど、今は自分で考えなきゃいけない。普通に考えたら警察に突き出すのよね。ただ、この世界の警察組織はいまいち信用ができない。ある程度地位や権力がある人間に対しての力がどうにも弱い。ユキヤが警察を訝しんでたのはこのせい。


 各領を治めている『会』という名の付く組織がとにかく強くて、だからこそあたしは好き勝手できてた。

 九龍会の上にある組織はもう国になるんだけど、ここがあんまり口を出して来ないのよね。各会を信頼しているからか、放任主義なのかはわからない。口を出して来ない割には『王』と呼ばれる君主の力は絶大で、伯父様も王室の行事には必ず赴くし、召集されようものなら全ての予定をキャンセルして出向く。

 ちなみにあたしは王様とやらには会ったことはない。会う権利がない、らしい。

 元々あまり顔を見せないっていうのもあって、正直よくわかんないのよね。すごい存在、ってくらいで。

 ゲームの中でも軽く説明があっただけで全然関わってこなかった。『設定として存在している』ってレベルだったから、本当によくわからない。多分、今のあたしには全く関係のない存在。


 というわけで、九龍会の中で処理をしなければいけない。王様や王室は期待できない。

 八雲会もそうだけど、他の会にこういうゴタゴタを外に知られるのをみんな嫌がるのよね。基本は隠して、内々に処理をしてしまうものなのよ……。

 こうやって考えてみると前世の日本とのギャップがすごい。治安や秩序にかなり問題がある。

 そんな中でどうやってケリをつけるのか──。真面目に考えなきゃ。


「ロゼリア様、入ってもいいでしょうか?」


 ユウリの声だ。控えめなノックと共にこちらの様子を窺うような声が投げかけられた。

 ソファに寝転がったまま、ほんの僅かな間だけ考え込んでしまった。

 何故か無視したい気持ちになっちゃったのよね。本当になんでかしら。

 けど、別にすることもないからと思い直して、のんびりと身を起こした。


「いいわよ」

「失礼します」


 ユウリが一言断ってから部屋に入ってくる。お茶とお菓子を持ってきてくれたみたいだった。


「水田さんがアップルパイを焼いたのでぜひに、と」

「そう、いい香り」


 りんごのいい香りがする。さっきまでの「終わらせ方どうしよう」という悩みが僅かに遠のいた。

 ……そっか。「終わらせ方」に悩んでて、それがあたしにとっていい話じゃない上に自分の力じゃどうしようもないところもあるからイライラしてたのね、あたし。だからユウリのことを無視したくなったんだわ。すぐに理由がわかってよかった。ユウリに無駄に八つ当たりするところだった。

 目の前に置かれた紅茶とアップルパイを眺めてため息をついた。


「ロゼリア様……? どうかされましたか?」


 ユウリが心配そうにこちらを見る。敵意も悪意もない視線に少し笑ってしまった。

 もう少し警戒した方がいいんじゃないの、あんたに限っては。


「何でもないわ。ちょっとこっち来て」

「? はい」


 言われるがまま、ユウリはあたしの傍までやってきた。ソファに座っているあたしを見上げるような形でその場にしゃがみこんで片膝をつく。

 右手をゆっくり持ち上げる。ユウリは不思議そうな顔をしていた。

 ──以前だったら、あたしが右手を振り上げた瞬間に咄嗟に顔と頭を庇ってたのに今ではそんな行動は見せない。あたしが自分に手をあげることはない、って信じてるみたいだった。

 あたしの手がユウリの頭上に移動して初めて、ユウリが緊張した様子を見せる。

 そんな緊張などお構いなしにユウリの頭に手を乗せて、そのままわしゃわしゃと撫でた。


「ロ、ロゼ、リア様?」

「大人しくしてて」

「う。は、はい」


 ユウリの髪の毛はさらさらしてて触り心地がいい。髪色も相まってゴールデンレトリバーを思い出させる。イメージとしては成犬じゃなくて子犬。

 いつだったかもこうやってユウリを可愛がってストレス発散したんだった。

 何も考えずにひたすら撫で続ける。

 ……落ち着く。さっきまで感じていたイライラが消えていく。


「……あの、ロゼリア様。何か、あったんでしょうか……?」

「別に」


 説明が面倒な上に、今はあの話で頭を使いたくないから濁した。ユウリが困った顔をする。


「僕に、何かお手伝いできることはありますか?」

「……お手伝い、ねぇ。ないわよ」

「そうですか……」

「今ストレス発散に付き合ってくれてるだけで十分」


 撫でながら言うと、ユウリが顔を上げてこちらを見る。乱れた髪の毛を手櫛で整えていった。

 ユウリはされるがままだったけど、躊躇いがちに口を開いた。


「やっぱり何か……いえ、すみません。えぇと、こんなことでストレス発散になっているのでしょうか?」

「なってるわ。それに、以前より健全でしょ。何かを可愛がるとストレスが消えるのよね」

「かわいがる……」


 あ、ちょっと微妙な顔。ま、まぁ、ユウリは可愛いって言われて喜ぶタイプじゃないものね。ペット扱いも嫌がってたし。今の動作もそれっぽくて嫌だった、とか?

 けど、前みたいに殴ってストレス発散するより全然良いに決まってるんだから、ちょっとくらい付き合って欲しいわ。


「犬か猫などのペットを飼ってみては」

「ストレス解消目的で飼うのは違うでしょ。ちゃんと面倒見きれる自信がないし……だったら、抱き心地のいいぬいぐるみを買った方がいい」

「……ぬいぐるみ、ですか」


 やば。ユウリが考え込んでしまった。この様子だとぬいぐるみを買いに行きかねない。

 『ぬいぐるみを抱きしめる九条ロゼリア』は……ま、全く想像できない。なんか脳内でモザイクがかかる。これまでで一番の解釈違いよ。そんなあたし自身は全く想像できない。自分で自分が気持ち悪い。


「例えばの話よ。でも、ぬいぐるみは興味ないから」


 本当はちょっと欲しい気もするけど、欲しいそぶりを見せると誰かが買いに行きそう。それは阻止したかったから、興味があるという雰囲気は微塵も出さないように注意した。

 すると、不意にユウリがあたしの手に自分の手を重ねて頬に押し当てる。突然の行動に驚いてしまい、少し手が震える。何を思ったのか、ユウリはそのままあたしの手に頬ずりをした。


「ちょっと、何してんの?」

「こうしたら可愛がられている動作になるのかな、と思いまして……」

「勝手で悪いけど、あたしは一方的に可愛がりたいだけなのよ」

「……ロゼリア様らしいです」


 ふ。と、笑ってユウリは頬ずりをやめてしまった。突然だったからびっくりしたわ……。

 何となくそれ以上撫で続けることができなくなったので手を離した。


「もういいわ」

「はい。──ロゼリア様、何かあれば仰ってください。話を聞くくらいならできますし、……ロゼリア様が何らかのストレスを感じているなら、解消のお手伝いをしたいと思っています」


 大真面目に言われて、ユウリの顔をまじまじと見つめた。

 ストレス値も少し下がったし、少しくらい話してみてもいいかもしれない。ちょっと愚痴るつもりで。ユウリは頭もいいし、ひょっとしたら何かしらいいアイデアが出てくるかも。でもさっきの悩みをすぐに相談するのは少し抵抗がある……。

 そんなことを考えながら「ちょっと待って」と言って、一度紅茶を飲んだ。口からティーカップを離して一息。


「南地区に視察に行きたいのよね。──変装して」

「は!?」


 間髪入れずにユウリが素っ頓狂な声を上げる。

 話を聞くって言ったのに、何よその反応は……。

読んでくださってありがとうございます!

ブクマ、いいね、評価、感想などいただけたら嬉しいです。

誤字報告すごくありがたいです。心から感謝です。

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