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14.協力について

「最初、ロゼリア様にお願いしたかったのは父への牽制でした」

「牽制……?」


 どういう意味だろうと再度首を傾げる。

 あたしは少し身を乗り出すように座り直し、ユキヤの話に耳を貸した。


「はい。これ以上妙な動きをしないように、もしくは動きづらくなるように父に睨みを利かせて頂きたかったんです。……中止を言い渡したロゼリア様ご本人からに睨まれた状態であればできることも限られているでしょうし、何かするとしても動きが怪しくなるはずなので……」


 蛇に睨まれた蛙というのが思い浮かんだ。

 けど、この場合は蛇役であるあたしの後ろに別の大蛇、つまりは伯父様の存在があるから下手な動きができないってところね。

 計画中止を申し渡して以降、あたしがアキヲにコンタクトを取る気配がないからこのまま放置だと思われてる。不用意にコンタクトを取るつもりはなかったけど、釘を刺すくらいは定期的にやっておいた方がよさそうだわ。


「なるほどね。まぁ、あたしも計画はどうしても中止して欲しいから……それは大丈夫よ」

「ありがとうございます。……それと、……」


 言い辛そうにしているのを見て、先を促すように目配せする。


「……父がこれから何をしようとしているのか、私の方で調べたかったのです。ロゼリア様が仰っていたようにこの計画のためにダミー商会を用意していたのは明白なのですが、どれがどう使われる予定だったのか、私の方では見当がつかず……」


 そう言ってユキヤが困ったようにため息をついた。

 ああ、なるほど。それであたしがダミー商会を買い取るって案が「助かる」ってことなのね。

 っと、でもあたしの先走りかもしれないから最後まで一旦聞いてみなきゃ駄目だわ。あたしはあくまで協力をする側なんだから、ユキヤの意志を尊重したい。


「なので、ロゼリア様がダミー商会を買い取って下さると私としましても調べる対象が絞れるので助かります」

「渡りに船だったってことね」

「ええ。流石にダミー商会を買い取って欲しいなんて話はできませんでしたので……ありがたいご提案でした。調査を私に任せて頂くことになるので、ひょっとしたらご不安かもしれませんが……」

「いえ、あたしもアキヲの調査をジェイルにも頼んでいたけど芳しくなかったの。外部より内部から調べた方が良いと思う。

 それから……あんたはこういう考え、嫌いかもしれないけど……」


 言いづらくなって言葉を濁すと、ユキヤがあたしを不思議そうに見つめる。

 ……これ、言うと品がない気がする。

 けど、あたしがどこまで協力できるのかってラインは共有しておいた方がいいわよね。ユキヤはあたしが守銭奴、というか自分にはジャブジャブお金を使うけど、外に対してはほとんど使わないって知ってるはずだし……。

 ジェイルにもメロにも奢ったことがないくらいだから……。


「正直、今回の件、というかあんたへの協力の中でお金で解決できることなら出すわよ。言い訳が効く金額までだけどね」


 そう言うとユキヤが目を丸くした。ほらね、あたしが守銭奴だって思ってる反応。

 伯父様が以前「経営に興味があればいつでも言うといい」って言ってたから自分でどうにかする分にはいいでしょ。アキヲも絡んでるし、南地区の管理代行の範囲で済む気がする。

 アキヲに金を渡して黙らせる──という案も実は考えてたけど、これはアキヲに弱みを握らせることになるから駄目。一度こういう金の使い方をすると、多分アキヲは事あるごとにあたしに計画のことをチラつかせて金をむしり取るに違いない。


 ユキヤは伏し目がちになって顎に手を添えて少し考え込んでしまう。

 ノアが少しだけ不安そうにそれを横目で見つめていた。


「……ダミー商会の買い取りはロゼリア様にとっては必要経費、という認識なのですね」

「ええ、調査にかかる経費もね。必要なら言って頂戴……とは言え、急にあんたが金払いがよくなったらそれはそれで怪しいから、使い方やタイミングは考えて欲しいわ。あんたはあたしと違って無駄遣いしないし、自制心がある方だから悟られるような真似はしないと思うけど……」

「はは、それは確かに」


 あたしの言葉にユキヤがおかしそうに笑う。

 ……今、なんで笑った? 笑うようなところじゃなかったと思うけど?

 後ろでメロが笑いを堪えてるのも伝わってくるし、何なのよ。


「すみません、失礼しました」


 あたしが微妙に機嫌を悪くしたと察したらしいユキヤがわざとらしい咳払いをしつつ謝罪をした。すぐにあたしを見ようとはしなくて、お茶が半分ほど残ったカップを持ち上げて誤魔化すみたいにお茶を飲んでいる。

 まあ、いいけど……。


「あんたからの協力して欲しいことって他にある? 現時点で」

「いえ、最初に申し上げた通り、父への牽制をして頂きたかっただけですので……ダミー商会の買い取りまでして頂けるのであれば、これ以上協力をお願いしたいことは特にございません」

「ふーん、わかったわ。今日明日中にはアキヲに連絡して、妙なことをしてないか釘を差して、ダミー商会の買い取りのことを提案するけど、いいかしら?」

「はい、大丈夫です」


 今、話ができるのはこれくらいかしら……。

 考えをまとめる意味も込めて、チョコを口に放り込んでお茶を飲む。

 ソファの背もたれに背を預けたところで、メロがソファの背もたれ上部分に両手を置いてあたしを覗き込んでくる。


「お嬢」

「何よ」

「連絡手段はどうするんスか? ユキヤく、……ユキヤさんがこっち来たりお嬢が南地区に行ったり、頻繁に直接会うのってリスク高いと思うんスけど」


 あたしは目を丸くしてしまった。

 メロがそんなことを気にするなんて思わなかった。終始面倒くさそうにしてるしできれば関わりたくないって気持ちが伝わってくるから興味がないのかと思ってたわ。

 見れば、あたし以外、ジェイルもユキヤもノアでさえも、メロを不思議そうに見つめていた。


「……いや、失礼じゃないっスか? みんな……」


 周囲の視線に気づいたメロが気まずそうにしていた。

 ……さっきの書面のこともそうだけど、一応色々考えてはくれてるみたいなのよね。


「そうね……ねぇ、ジェイル。ユキヤとはよく連絡取り合うのかしら?」

「さほど多くはありません。ですが、お嬢様とユキヤが直接連絡を取り合うよりはマシだと思います」

「なるほど。じゃあ、しばらくはユキヤとの連絡係もお願い」

「承知しました」


 スマホがあればって感じ……。残念ながらそこまでのデジタル化は進んでないのよ。

 でも携帯電話はあるのよね。本当に電話しかできないって感じのもので、要は一昔前のガラケー。写真も撮れないしメールもできない。いや、メッセージも短文くらいなら送れたんじゃないかしら?


「ユキヤ、携帯電話は持ってる?」

「え、あ、はい。父から与えられたものですが、一応所持しています」


 あたしの質問にユキヤは胸ポケットから携帯を取り出した。黒のガラケーだった。

 一応持ち歩いてはいるけどそこまで使用頻度は高くないって感じね。

 あたしは余った紙と使い終わったペンをユキヤに差し出す。


「番号ここに書いて」

「はい」


 ユキヤは携帯番号を言われた通りに紙に記す。数字だけとは言え綺麗な字だった。


「ジェイル、あたしの使ってない携帯電話を渡すからそっちも使って」

「え。は、はい、承知しました」


 ジェイルが少し驚いた反応をした。まあ、ジェイルは携帯を持ってないからね。個人用携帯ってものはまだ普及してなくて、携帯を持っているのは金のある富裕層や、特定組織の上層部だけなのよ。

 あたしは伯父様におねだりしていくつか携帯を買ってもらっている。色々試したいと言ってメーカー違いで……三台くらいあったはず。でも実際使ってるのは一台だけ。携帯を持ってる相手が少なすぎて携帯でやり取りするなんて伯父様くらいだわ。

 で、あたしに用事がある人間も携帯には直接かけて来なくて、固定電話にかけてくるのよ。あたしの機嫌がわからないからワンクッション置きたいんでしょうね。


 こんなところかしらねぇ、今できる話としなきゃいけない話。

 メロを振り返って反応を見てみるけど「?」と首を傾げるだけだった。


「携帯番号は今度あんたの番号にかけて伝えるわ」

「かしこまりました」

「他に何かある? 今しておきたい話とか」


 問われて、ユキヤは考え込む。その様子を見ながらお茶の残りを飲み干した。


「いえ、大丈夫です。……本日は、お時間を頂き、ありがとうございました」

「些細なことでもいいから、何かあれば連絡して頂戴」

「はい、ありがとうございます。それでは、私はこれで……」

「ええ」


 そう言ってあたしは立ち上がる。ユキヤも立ち上がり、あたしに向かって深々と頭を下げた。ノアもそれに倣っている。

 メロが早足で扉の方に向かい、扉を開ける。

 ユキヤがメロに小さく礼をしてから応接室から出ていった。ノアもそれに倣う──のかと思いきや、不機嫌そうにメロを睨んでいる。ユキヤを君付けで呼んだことを根に持っているらしい。メロは呆れ笑いをしていた。あんたが悪いわよ、どう考えても。

 あたしとジェイルはユキヤの後に続いて部屋を出る。そのまま玄関まで向かった。


 やたらと広い玄関まで出て、外に出る前にユキヤが再度あたしを振り返る。


「ロゼリア様、本日は本当にありがとうございました」

「あたしにとってもいい話だったわ。協力は惜しまないから、これからよろしくね」

「はい、ぜひ。──それでは、失礼いたします」


 最初から最後まで礼儀正しく、ユキヤは椿邸を後にした。

 それを見送ってから、「ふー」と息をつく。

 これであたしのデッドエンドが更に遠ざかればいいんだけど……。

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