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悪女の悪あがき ~九条ロゼリアはデッドエンドを回避したい~  作者: 杏仁堂ふーこ
本編

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136.フィルター

 部屋に残され、閉ざされた扉を呆然と見つめる。

 えっと……。

 どうして急に本名を教えてくれたの……?

 あたしが思うよりもずっとアリサはあたしに心を許している、気がする。

 多分、あたしが本来攻略キャラクターが言うはずだったセリフをパクってしまったから……! 他の人間に向けられるはずの好意があたしに向かってしまっている。何故!

 まぁあたしも友達がいないから、仲良くできそうな相手ができそうなのは嬉しいし、アリサとは元々仲良くなれたらって考えてたから結果オーライなのよね。展開の速さにあたしの頭がついていけないだけで。


 一度整理しよう、色々と。

 アリサの話を聞いたことで情報がオーバーフロー気味だし、これからあたしが何をするか、考えておかなきゃならない。

 窓際に近づき、窓にそっと手を押し当ててる。外はいい天気だわ。


 アキヲはもうさほど危険じゃない。

 むしろ、あたしが気をつけなきゃいけないのはアキヲが付き合っている『組織』。けど、その『組織』の正体や行動などは一切わからない。

 うーん。まずはアキヲが今実際どういう状況なのか知りたいわね。アリサは危険じゃないと言っていたけど、本当に危険じゃないのかどうかというのはユキヤ経由であっても確認しておきたい。何ならもう一度会っておきたい。

 ……ジェイルとかが反対しそうなのが難点よね。何とか言いくるめたい。


 窓の外を見ながら考えていると控えめに扉がノックされた。

 肩越しに振り返って、少し迷ってから返事をする。


「誰?」

「お嬢様、ジェイルです」


 お、丁度いいところに。まだ何をどう話すか決めてないけど!


「入っていいわよ」

「はい、失礼します」


 窓際に立ったまま、窓に軽く背を預ける形で振り返って返事をする。ジェイルは「失礼します」と言い終えてからゆっくりと扉を開けて入ってきた。

 歩調はゆっくりだったけど、大股でこっちに近づいてくるので感覚的にはずんずんって感じ。

 ジェイルはあたしの目の前でぴたりと止まる。


「お嬢様」

「どうかした?」

「……白木と随分話し込んでいたので、心配になりました」


 そっか。あたしがアリサと話していたことは知ってるのね。メロが面白おかしく伝えたんじゃなきゃいいけど、ちょっと気がかり。

 ジェイルをじっと見つめてみる。ジェイルからは不安のようなものが伝わってきた。

 少し前からだけど……やっぱりジェイルはあたしのこと、結構、いやかなり気にかけてくれてる。味方になるとか、直属の部下にとか「本気?」って思うようなことも言ってた。

 ……ゲームとは違うんだから、『今の相手』を見るべきとは思っても……やっぱりこれはもう少し考えて欲しいわね。気持ちはすごく嬉しいけど。


「お嬢様……?」

「何でもないわ。──心配させて悪かったわね。けど、ジェイルが心配するようなことは何もないわよ」

「ならいいんですが……」


 とは言うものの、ジェイルは納得してなさそうだった。

 アリサが来た日にあれだけキレ散らかして、ジェイルにも八つ当たりじみたことしてるから当然かも。後で弁明みたいなものはしたけど、「あたしがアリサ、そしてハルヒトを不審に思ってる」って事実は別に否定してないのよね。

 そうか、そう考えるとジェイルが納得しないのも当たり前だわ。


「ジェイル。以前、あたしが言ったことはなかったことして」


 あたしも情報をアップデートして色々と改めたから、ちゃんと言っておこう。

 そう思い、ジェイルを見つめて言うと不思議そうな視線を向けてきた。


「以前、と申しますと……?」

「ハルヒトとアリサの存在が不安だって言ったことよ。

──ハルヒトは一緒に暮らしてみて、アリサは今話をしてみて、不安はほとんど払拭されたわ」


 ジェイルは驚いたような顔をした。

 やっぱりあの時みたいな不安はもうないのよね。予想外のことが起きるかもって考えたら事態は収束するまでは決して安心できないものの、ハルヒトやアリサはもうあたしの不安要素ではない。

 ジェイルにも無駄に警戒させちゃったし、そのせいでアリサが怖がってるし、このあたりで一区切りつけたい。


「ほとんど、ですか」

「何でも完全にゼロにはできないわ。けど、もう気にしないことにしたから……あんたも変に警戒しなくていいわよ」


 ジェイルは無言になってしまった。

 ちょっと急すぎたかしら? そっちが不安になってきてジェイルの様子を伺う。


「……お嬢様がそう仰るなら」

「……不満そうね」

「お嬢様の決定や言葉に不満があるわけではありません」


 そうですか、よかったです。ってあっさりした反応を見せるかと思ったら全然そんなことなかった。引き続き、納得してなさそうっていうか大分不満そう。

 気がかりというかジェイルが気にしなきゃいけないことが減ったはずなんだけど……?

 いやいや、勝手に決めつけちゃダメだわ。メロの言ったことを気にするのも何となく癪だけど、ジェイルが『今何を思っているのか』を、ちゃんと確認しなきゃ……ゲームの情報とか、そこからの想像だけで勝手に判断しちゃいけない。


「じゃあ何なのよ。……あんたが納得できない理由って何?」

「いえ、納得ができないわけではないのです。お嬢様の杞憂が減ったことは良いことだと思っています」

「……なのに、不満があるのよね? すっきりしないから教えて欲しいわ」


 喋ってて思うんだけど、あたしってやっぱり言葉がきついわよね。

 もう少し柔らかい言い方とか高圧的にならない話し方を学びたくなってきた。学んだとしてもすぐに直るとは思えないけどね!


「あんたには色々とお願いしてるし……不満を残したままなのは避けたいのよ」


 フォローのつもりで言う。

 あ、ちょっと日差しが熱くなってきた。むき出しになっている肩に日差しが当たって熱くなってきたので、窓際から少し離れようとする。

 あたしの動きからジェイルが何か察したように手を伸ばし、カーテンをゆっくり閉めてあたしを日差しから守る。


「……ハルヒトさんや白木は随分と簡単にお嬢様の警戒心を解いた気がしただけです」

「別にそういうわけじゃないわ。あたしが過剰に警戒してただけよ」

「だとしても、です。お嬢様は熱くないですか?」

「ええ、大丈夫」

「日焼けにはお気をつけください」


 こんなことを気にする人間じゃなかったのに、不思議だわ。

 ゲームのことやこれまでのことを一度取り去って考えてみると、やっぱり最近のジェイルはあたしにかなり寄り添っていると言うか、ぶっちゃけて言えば優しい?

 アリサの「好きなんですか」という問いが脳裏に木霊する。

 そういう意味で好きではないし、好きになることはない。顔面にクラっと来ることはあるけど、それだけ。


「……あんたが日焼けを気にするとは思わなかったわ」

「かなり前ですが、日焼けをしたくないと仰っていたのを思い出しました」

「……かなり前よね?」

「ええ、お嬢様のお傍にお仕えするようになってすぐの頃ですね」


 眉を寄せて問いかけると、しれっとした返事があった。

 それってあたしが我儘放題の時の話だけど!? そんなことまで思い出すとは思ってなかったから、気まずくなって視線を逸らしてしまった。ジェイルの手はカーテンを掴んだまま、すぐ傍にある。


「そんな前のことなんて忘れていいわよ」

「今、たまたま思い出しただけですので……それとも、もう日焼けは気にされてないのですか?」

「それとこれとは別よ。できれば日焼けはしたくないわ」


 好き好んで日焼けなんかしたくないわよ。赤くなるしヒリヒリするし。

 視線を背けたままでいると、ジェイルが腰を折ってあたしに顔を近づけてきた。間近に整った顔があって無駄に緊張する。恋愛対象じゃないとしてもこればっかりはしょうがない。


「俺はお嬢様の味方です。だから、お嬢様が嫌だと思うことからお守りしたいと思っています」


 前よりもずっと心に響いた。あたしが妙なフィルターを取り去っているからだと思う。

 ああ、ジェイルは本当にあたしの味方でいたいと思ってくれてるんだ──。と、感じるには十分なほどに。

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